作品タイトル不明
228 事業展開 2
まずは、 真(ま) っ 直(す) ぐ領主邸に向かう。
そうすれば、行きに何かあったのか、帰りに何かあったのか、……そして領主邸で何かあったのかが、一発で分かる。それが分かってから、更に細分化、局限を繰り返す。そして、『探知機』の出番は、それからだ。
最初から広範囲を精密捜索しようなんて、非効率もいいとこだ。とりあえず、領主邸まで全速力。
いくら『 探知機(ポーション容器) 』という切り札があるとはいえ、それより簡単で迅速な方法があるならば、まずはそちらの方法で進めるのが当たり前だ。切り札は、使うべき場面で使うもの。
そしてハングは、自分達の『真の出番』、馬車牽きではなく本当の活躍の場がようやく訪れたことに喜び、やる気満々だ。
子供に見える私を乗せて街を駆ける馬に、人々が驚いて道を空けてくれる。
勿論、安全のために速度は抑えている。でないと、歩行者をはね飛ばしそうで怖いからね。
ハング、ちょっと入れ込み過ぎ! まぁ、待ち 焦(こ) がれていた出番の到来に、興奮するのも無理はないけど……。
あ、乗馬については、私は昔エドに教わったし、大陸横断の時に、レイコと一緒に時々馬車ではなく騎行してバッドとハングのコーチを受けていたから、かなり乗りこなせるようになっている。
何しろ、馬本人……『本馬』から直接指導されるのだから、上達するに決まってる。馬が直々に『自分が走りやすい乗り方』をコーチしてくれるのに、これで上達しなければ、どうかしている。
そして、あっという間に領主邸に到着。
ハングに乗ったまま突入したいけど、門番がいるから、そんなことはできない。
いや、突破はできるだろうけど、その後大騒ぎになって、結果的には多大な時間のロスとなる。
なので、一旦止まって門番に尋ねた。
「子供達が4人、来ませんでしたか!」
「ああ、リトルシルバーの子供達のことだろう? 食品の納入に来た……。
1時間ちょい前に来たよ」
私の顔は、既に覚えられている。
ま、親の同伴なしで領主邸に来る子供は、そうそういるもんじゃないからね。
だから、身元がはっきりしていて領主様と会ったことのある子供が自分の仲間のことを尋ねて、教えてくれないはずがない。
「で、いつ頃帰りましたか!」
「あ~……。まだ帰ってないよ……」
はあああぁ……。
最大の懸案事項はクリアされた。
私が一番恐れていたのは、イリー達が往路で荷物目当てに、もしくは復路で『領主様の邸に商品を届けた代金』目当てに、そして4人の少女目当てに襲われたのではないかということだ。
しかし、イリー達が無事領主邸に着き、そしてそのままここにいるなら、それらの心配はない。
門番の人も、私が帰りの遅いイリー達を心配して飛んできたということが丸分かりだったらしく、苦笑している。
「そりゃ、心配するわなぁ、子供達が全然帰って来なきゃ……」
「入ります!」
「はいはい……」
門番の人は、手で、しっしっ、と追い払うような手つきをしたが、あれは『通れ』って合図なのだろう。別に悪気があったり、私を犬扱いしたわけじゃない、と思う……。
そして、ハングに乗ったまま正門を通り、勝手口へ。
イリー達が行ったのは、そっちだからね。
「すみません、うちの子達はどこに……」
ハングから降りて勝手口を開け、そこから頭だけ中に突っ込んでそう尋ねると……。
「ああ、リトルシルバーのカオルちゃんかい。あの子達なら、領主様が連れてったよ」
「えええええっ!」
てっきり、厨房の人達に捕まっているものだと思っていたのに!
領主邸の厨房とか、孤児院の子が残飯を貰いに来そうなところベストテンの上位に入りそうだから、厨房の下働きの人達はイリーたちと顔見知りだと思っていたんだ。だから、孤児院閉鎖の理由とかも知っていて、そこへイリー達が顔を出せばどうなるか、ってパターンだと思ったのだ、さっき門番の人から『イリー達がまだここにいる』って聞いた時……。
それが、まさかの領主様の登場とは……。
「あ、あの……、」
「分かってる。ちょいと待ってな!」
そう言って、下働きのひとりが奥の方へ駆けていった。多分、上の方へ取り次いでくれるのだろう。
厨房の下働きがいきなり領主様の部屋に押し掛けるわけにはいかないだろうから、厨房の上司、執事と、何段階かに分けて順次報告が上がっていくのだろうな。面倒くさい……。
でもまぁ、日本の会社でも、入社したての新入社員やアルバイトの若者がいきなり社長室や会長室に押し掛けて『会わせろ』、『話を聞いてくれ』なんて言っても会ってもらえるわけがないから、世界共通……、いや、『異世界共通』の、常識か……。
「どうぞ、こちらへ」
……早っ!
1分も掛からずに、案内役のメイドさんが現れた。
そして、案内された先は、以前領主様に 拝謁(はいえつ) したのとは違う部屋。
メイドさんが軽くドアをノックして、返事を待たずに開けた、その先には……。
「……うん、それでね、カオル様が『光あれ!』って言われると、天から光が……」
「ちょっと待ったああぁ~~!!」
何を言っとりますか、この幼女達は!
「こらっ! リュシー、領主様にデタラメを吹き込むんじゃない!」
誰が『天地創造』やねん!!
まぁ、領主様は幼女の 大(おお) 法螺(ぼら) を信じたりはしないだろうけど……。
自分達を助け出してくれた私に心酔して、自分が知る限りの 語彙(ごい) を使って私を滅茶苦茶に褒め称えようとしているだけだということくらい、馬鹿にでも分かるだろう。
と言うか、ここまで 清々(すがすが) しい大法螺を吹いてくれれば、この子たちが何を喋っても大丈夫だろう。……誰も信じやしないからね。
とにかく、大きなテーブルに着いた領主様と子供達、テーブルの上のお菓子と果物、果実水。そして子供達の世話をしてくれている、数人のメイドさん達。
……うん、飲食物に釣られて懐柔されている子供達の図、だ。
子供達を歓待してくれるのはいいけれど、保護者を心配させないように、使いの者くらい寄越せや、ゴルァ!!
その想いを込めて睨み付けると、領主様が顔を引き攣らせた。
反省しろや、ゴルァ!!
さすがに、中途半端な時間に保護者に無断で、しかも一部の者だけに本格的な食事をさせるのは控えたのか、出されているのはお菓子や果物等、『おやつ』の 範疇(はんちゅう) だ。
……でも、満腹するまで食べまくったのでは、『おやつ』に 留(とど) めた意味がない。
そしてコイツらが出された食べ物を限界まで腹に詰め込むというのは、既に身体に染みついた習性であり、それは目の前に貴族がいようが、関係ない。
この子たちの将来のためには、早くこの習性をなくさせなきゃならないんだけど、多分それには、この子たちに『食べられる時に無理に限界まで詰め込まなくても、お腹が空いた時には、いつでも好きなだけ食べられる』、『食い溜めする必要はない』、そして『食事は、餓えを満たすためにがっつくのではなく、美味しく味わって楽しむもの』だと分からせなきゃ駄目だ。
そしてそれは、言って聞かせて教えるのではなく、この子たちが自分で、心からそれを実感しなきゃ……。
今、テーブルの上のお菓子や果物は、殆ど減った様子がない。
いや、コイツらが1時間以上いて、そんなことはあり得ない。
だから……。
ほら!
今、少し中身が減ったお皿に、さっとお菓子が補充された!
……そう、いくら食べても中身が減らない、魔法の菓子皿だ。
これなら、子供達がお菓子の取り合いをする必要も、慌てて腹に詰め込む必要もない。
使用人の中に誰か、孤児の習性に詳しい者がいたのか。
それとも、領主様自身が、そういうことに気が回るのか。
そして、そういえば、まだ領主様に挨拶すらしていなかった。
こりゃイカン!
とにかく、領主様に挨拶せねば……。
「子供達を留め置くなら、使いの者を出して知らせてくださいよっ! 心配するでしょうがああああぁっっ!!」
うん、こんな 領主(ヤツ) への挨拶の言葉は、これで充分だ!