軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

225 本拠地(リトルシルバー)への帰還 1

帰ってきた。

うん、あっという間。

今まで旅に要してきた時間は、いったい何だったのか……。

いや、だからといって、これからは旅はこの船で、とかは考えていない。

時間に制限があるならばともかく、時間的制約とは関係ない私達は、どんどん無駄な時間を節約して、という必要がない。それどころか、『のんびりと、途中経過や無駄な時間を楽しむ』という方針の方がいいだろう。

時間はある。時間はあるのだから……。

今回この船を使ったのは、お荷物の連中を運ぶ手段がなかったことと、早く終わらせて恭ちゃんとゆっくり積もる話を、と思ったからだ。それと、子供達を早く元孤児院でゆっくりさせてあげたかったから。

あの搭載艇は現在、自動操縦で静止衛星軌道に乗せてあるらしい。艦載コンピュータへの事前指示と、腕時計型の通信機で、乗っていなくてもある程度の操作はできるとか……。

近くの海に隠すのではなく、わざわざ衛星軌道に上げたのは、さすがに、海に沈めて隠すのは船体にあまり良くないのでは、と恭ちゃんが心配したためらしい。

いくら頑丈で完全密閉された船体とはいえ、推進器部分への影響だとか水圧による問題だとか、宇宙と海中はあまりにも条件が違いすぎるからねぇ。

ま、私としては、あんなのを頻繁に海に出し入れされたんじゃあ漁獲高に影響して、魚介類の価格が上昇するんじゃないかと心配だったから、良かったよ。加工業者には、原材料の価格高騰は 堪(こた) えるからねぇ。

そして、母艦に戻さず出したままにしているのは、その方が緊急時に早く呼び寄せることができるから、とか。僅かな時間差に過ぎなくても、それが生死を分けることもある、って。

……一応、考えているんだな、恭ちゃんも。

帰りに、殺人未遂犯のリーダーにちょいと訊問してみた。

いや、 女神(セレス) の関係者に喧嘩売るような勇者がいるとは思わなかったから、あの、最後の突撃はどういうつもりだったのかを聞きたかったから。

そうしたら、返事は『あの時点で、御使い様か魔法使いかのどちらかだと思っていた。でも、御使い様だった場合は既に完全に手遅れだったから、もうひとつの方、つまり魔法使いである可能性に賭けた。それならば、何とかなる望みがあったから』とのことだった。

そりゃまぁ、そうか……。

駄目で元々、僅かな勝利の可能性に懸ける、というのは、間違っちゃいない。

間違っていたのは、そんな状況に陥ることとなった、それまでの生き方だ。

そして、彼らにはキツく口止めをしておいた。 魔法(めがみのちから) と、『 天(あま) の 浮舟(うきふね) 』についての部分のみ。

その部分は単純に、罠に 嵌(は) まって捕らえられた、って証言してもらうことになってる。

うん、ま、今は『女神と御使い様御一行』だと思われている私達が言うことに、逆らうわけがないよね。

未遂犯だから、このままならば、うまくすれば年限付きの犯罪奴隷で済む可能性は充分あるんだ。なのに、わざわざ女神の怒りに触れて、今世も、そして死後も地獄に落とされて台無しにしたがる者は、そうそういやしないだろう。

そして現在、『リトルシルバー』の近くで搭載艇から降りた私達は、殺人未遂犯達を連れて、最後の数百メートルを帰還中。

さすがに、家に横付け、というわけにはいかない。万一誰かに見られたら、大変だからね。

さて、家に帰ったら、子供達のことはレイコと恭ちゃんに任せて、私は殺人未遂犯達を領主様のところへ……、って、女の細腕でアイツらを引っ張っていくのは大変だな。

……よし、領主様のところへ使いを遣って、護送のための人手を出してもらおう。面会のアポ取りを兼ねて。

しかし、ここで、楽しそうに仲間達に地下室やらお風呂やらの説明をしているミーネに行かせるほどの鬼じゃないよ。家に着いたら、現物を前にしてすぐに使い方を教えたいに決まってるからねぇ。

よし、使いには、レイコに行ってもらおう。

あ!

そういえば、帰りにミーネを買った商人の現状を確認するつもりだったのに、恭ちゃんの船で真っ直ぐ帰ってきちゃった。

そっちも、自分ひとりなら魔法でどうとでもなるであろうレイコに頼むか。多分、身体強化魔法とか、加速魔法とかがあるに違いない。

……さすがに、転移魔法とかは駄目だって言ってたからなぁ。

特定の異次元空間と繋ぐ扉を付けるだけのアイテムボックスくらいなら構わないけれど、それ以外の、『時空間に歪みを誘発する可能性があるようなもの』は駄目、ってセレスに言われたらしいから。

まぁ、当たり前だよなぁ。

とにかく、単独行動において一番護身能力、自己防衛能力が高いのは、レイコだからなぁ。

私は不意打ちや動きの速い敵には無力だし、恭ちゃんは、船がなければ、ほぼ普通の人間だ。3人の中で一番無理が利くのは、やっぱりレイコなんだよなぁ……。

……とか何とか考えながら歩き、ようやく家の玄関に辿り着くと、ドアに何やら貼り紙がしてあった。それも、何枚も。

1枚目。

『侵入者を捕縛した。戻り次第、警備隊本部へ来られたし』

2枚目。

『解毒薬を持って、急ぎ警備隊本部へ来られたし』

3枚目。

『賊が半狂乱。直ちに来られたし。賊の人数は4人』

4枚目。

『すぐに来い、この人でなしの悪魔め!』

……いや、どうして私達が悪者扱いなのよ?

あ、4枚目は紙が違うぞ。筆記具も違うし、最初の3枚よりも字が乱暴で汚い。

こりゃ、書いた人が違うな。3枚は警備隊の人だろうけど、4枚目は犯人の仲間か家族とかかな?

でも、そんなに酷いことになってるの、あの毒薬……。

まぁ、死なないように、そして手足が腐り落ちそうにはなっても実際には腐り落ちない、ってことになってるはずだから、そっちはそう急がなくてもいいだろう。まずは、面倒な殺人未遂犯達をさっさと片付けて、身軽になろう。コイツらがいたんじゃ、自由に動けない。なので……。

「レイコ、悪いけど領主邸へ行って、コイツらを引き取る人員を連れてきて。領主様には、あとで説明に行くから日時を指定して欲しい、って伝えて」

「 了解(ラジャー) !」

その後、子供達を玄関前で少し待たせて、急いで防犯設備を解除して廻る私であった……。

そしてレイコが領主邸から連れてきた8人の兵士達の指揮官が私に最初に言った言葉は、『とにかく、解毒薬を持ってすぐに警備隊本部へ行け。人間としての心があるなら……』という、領主様からの伝言だった。

いや、どんだけ外道だと思われてるんだよ、私……。

* *

そしてひとりで警備隊本部へと顔を出した私が見たのは、手や足がどす黒く、あるいは気持ちの悪い紫色に腫れ上がり、今にも腐り落ちそうになっている賊達の姿であった。

激痛も伴っているはずであり、4人の賊達はもう泣き叫ぶ声も涙も 涸(か) れ果てたのか、縛り付けられた留置所の粗末な板張りベッドの上で、ただビクンビクンと身体を 痙攣(けいれん) させているだけだった。

ベッドに縛り付けられているのは、あまりの激痛で暴れ回ったからか、それとも、腫れ上がった手足を掻きむしろうとするのを防ぐためか、はたまた、腐った手足が千切れるのを心配してか……。

碌に意識もなさそうで、解毒薬を渡しても自力で飲めそうにない。……手も縛り付けられてるし。

「……あ~、口をこじ開けて、これを無理矢理飲ませてください。あと、こっちのを患部に振りかけて……」

私が言い終わる前に、バッグから出した私の手からポーションの容器を奪い取り、ベッドに縛り付けられた賊達のところへと駆け寄る警備兵。

うん、犯罪者ではなく、被害者扱いだね、ソイツら……。

やっぱり、私が悪役かよ、クソッ!