作品タイトル不明
226 本拠地(リトルシルバー)への帰還 2
「鬼か!!」
盗人(ぬすっと) 共をポーションで治癒してやり、そのまま帰ろうとしたところ、警吏に領主様の前へと連れていかれた。
……そして最初に賜った言葉が、コレだ。
留守にするから防犯設備を設置し、親切にもわざわざ警告文まで貼っておき、更に解毒薬の存在まで教えてやる。
盗人相手にここまで配慮してやっているのに、それに対する言葉が、コレかい!
「……あ、いや、少し言い過ぎた。すまぬ、許せ!」
少しムッとした私の態度に気付いたのか、領主様が慌てて言い 繕(つくろ) ってきた。
少し偉そうな言い方ではあるけれど、こういう社会形態で、貴族、それも領主様が平民の小娘に対して掛ける言葉としては、この国の人達にとっては多分驚くべきものなのだろうな。何しろ、一応は『謝罪の言葉』なんだから……。
周りにいる人達の顔があまりの驚きに引き攣っている。
本当は私の態度を怒鳴りつけたいだろうけど、領主様の言葉を遮ったり、領主様が謝罪しているのにそれを横から邪魔をして台無しにするわけにもいかないのだろう。みんな、口をパクパクさせているものの、声を出す者はひとりもいない。
まぁ、無理もないか。下手をすると 大事(おおごと) になるからねぇ。
「……で、どうなったのだ?」
「はい、3人の孤児達は……」
私が説明を始めると。
「いや、そちらではなく、盗人達のことだ!」
そんなに盗人達のことが気になるのかい! 絶滅危惧種か、可愛いペットかよっ! 猫か手乗りぶんちょかっっ!!
……まさか、領主様の手の者、とかいうことはないだろうな!
「……解毒薬を飲ませて、患部にも治療薬を振りかけましたから、今はもう痛みも止まって腫れも急速に引きつつありますよ。明日の朝には、ちょっと腫れが残っている程度だと思います」
うん、勿論一瞬で治ったりすると異様だから、ちゃんと少しずつ治るようにしてあるのだ。
「そうか……」
何だか、ほっとしたような顔の領主様。
この様子だと、あの盗人達、大した刑罰にはならないんじゃなかろうか……。
何でだよっ!
クソがっ……。
まぁ、それはもういいや。
今回は盗人達の処置だけのつもりだったけど、領主様に会ったからには、全部報告しなきゃなんないか。ま、一度で済ませた方が面倒がなくていいか。
* *
「何と……。よくやってくれた!!」
都合が悪いところは適宜省略やアレンジして、イリー、フリア、そしてリュシーの奪還について説明した。勿論、レイアと恭ちゃんのことや、魔法の使用については全面カットの、ダイジェスト版だ。
「子供達を取り戻すことができず、悔しい思いとすまないという思い、そして無力感で、眠れぬ日を過ごしたものだ。それが……。
そうか。そうか……」
領主様ともあろう者が、数人の孤児如きのために、しかも自分のせいで死んだとかいうわけでもないのに、そんなに気に病むものか? リップサービスというか、適当なフカシこいてんじゃねーの?
……あれ? でも、何だか本当に涙ぐんでるみたいだぞ?
も、もしかしてこの領主、本当に お人好し(バカ) なのか?
孤児の奪還に行くことを伝えた時も、やけに乗り気だったけど……。
あれは、成功しようが失敗しようが、自分にはデメリットはない……、いや、そういえば、出発前に私達の身元を保証する書付をくれたなぁ。あれって、私達の使い方によってはかなりデメリットを生む可能性があったはずだ。
調べ物の時にも、平民の小娘である私達にかなり良くしてくれたし……。
こりゃ、本当に『当たり』の領主様なのかも。
……でも、私とレイコがどこかの金持ちか貴族の娘だと思って 上辺(うわべ) だけ庶民派のいい領主を演じているという可能性もあるなぁ。
うん、私はそう簡単に騙されたりはしないよ!
一応、『本当にいい領主であるかもしれない』ということは頭の隅に置いておいて、今まで通り慎重にいこう。
まぁ、そういうわけで、無事に報告を済ませて撤収。
明日、干物や干し肉、『ブランデーのようなポーション』とかを届けようかな。ちょっと張り込んで、多めに。
一応、表向きは『いい領主様』として対応してくれたのだから、それくらいはサービスしてもいいだろう。
「帰ったよ~、って、誰もいない……」
家に戻ると、人の姿がなかった。
まぁ、どうせ建物の探険をしているのだろう。子供達は地下室、レイコと恭ちゃんは更にその下、地下道と秘密基地、海中からの脱出口あたりを……。
ま、その辺りのことが説明済みだと、これからの話がし 易(やす) いから助かる。
どれ、紅茶でも飲んで一服するか……。
午前はそれぞれゆっくりと探険してもらって、昼食後に説明会かな。
じゃ、食事の準備を始めるか……。
* *
「……というわけで、うちは『リトルシルバー』という屋号で商売をしています。もう、ここは孤児院じゃないの。
だからみんなは、ここで働いて生活するか、他のどこかで働くか、もしくは領主様にお願いして他の街の孤児院に入れるよう手を回してもらうか、その他、好きなようにしていいよ。
ここを買い取った縁、そしてミーネとの縁でみんなを連れ戻す役を買って出たけど、別にみんなを強制的にここで働かせるつもりはないよ。
そんなことをすれば、みんなを 扱(こ) き使っていた商店主達と 同(おんな) じになっちゃうからね。私達に、そんなつもりはないよ。だから、みんなで相談して、よく考えて……」
「「「ここで働きます!!」」」
「……お、おぅ……」
私の言葉が終わる前に、新人3人組、イリー、フリア、リュシーの声が揃った。
まぁ、そうだろうなぁ。
既に何時間もかけて、ミーネからここのことを聞いているだろうから、身元保証人もいない10歳以下の幼い子供達が働く場所としては、ここは破格の待遇だということを知っているだろうからねぇ。
……そしてさっき、昼食でここでの食生活がどの程度のものかということを知った。
そりゃ、ここでの生活を選ぶか。
……くくく、計画通り……。
おかしなことを考えたりせず、絶対の忠誠心を持って働いてくれる従業員。
しかもみんなが顔馴染みで団結心があるから、自分だけが裏切るとかお金を持ち逃げするだとかいう心配が少ない。
それに、私やレイコ、恭ちゃんが子供に見られるから、下手に大人を雇ったりすると、調子に乗って横領とか横流し、乗っ取りとかを企まれる可能性があるから、従業員は子供で固めたかったんだよね。
また、身寄りのない子供達が頑張っている、というのは、企業イメージとして大きな武器になる。うちに敵対する者は、『 人非人(にんぴにん) 』、『人でなし』として、社会の敵扱いだ。
ふはははは!
そういうわけで、営利企業『リトルシルバー』、経営陣3人、従業員5人で、本格営業開始!
海産物と肉の加工、民芸品、玩具、アイディア商品に続き、お菓子作りも始めようかな。
あと、小さな鍛冶場を造って、高品質な金属製品とかにも手を出したい。炭素の含有量とかの知識があるから、高性能な刃物が造れそうだ。
うむうむ、企業にとって一番大事なのは、『人』だ。
私達転生組の3人と、地元組の5人。このメンバーで、成り上がる! ……つもりはない。
みんなで仲良く楽しく暮らそう。……そして、いいオトコを捕まえるのだ!
ふふ。
ふふふふふ……。
(ねぇ、ミーネ。カオル様、何考えてるんだろう……)
(あれだけ自分達が女神様だってことを見せつけておいて、ここで働く気があるかどうかを聞くなんて、どうしてそんな分かり切った、無意味なことを聞くの?)
(奇跡の力どころか、女神様の乗り物、『天の浮舟』まで見せておいて……)
(多分、『お約束』ってやつじゃないかなぁ……。分かっていても知らない振りをする、他の者には決して喋らない、っていうの、神話やお伽噺の定番じゃないの……)
((((確かに……))))
「ん? 何か言った?」
「「「「「いいえ、何も!」」」」」
「あ、そう?」
そして、これからの事業展開についての具体的な話を進めるカオルであった……。