軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222 敵 3

「あ!」

我に返ったのか、レイアが地面に倒れているミーネに駆け寄った。

そしてしゃがみ込み、ミーネの身体に手を当てようとしたけれど、同じく駆け寄っていた私がその手を掴んで止めた。

「何をするの! 早く治さなきゃ……」

レイアのその言葉は嬉しいが、それは駄目だ。

「それは、この子の雇い主であり、この 冒険の旅(クエスト) を計画した、私の役目よ。

……それに、セレスに見つかりたくないんでしょ?」

「そんなことはどうでもいい!!」

レイアは何だかムキになっているみたいだけど、既に私は駆け寄る途中でポーションを創り出し、左手に握っている。アイテムボックスから取り出すより新たに創った方が早いし、元々フタがない状態で創ったから、そのまますぐに使える。

なので、レイアのことは無視して、左手に握った瓶の中身をミーネの傷口にかけ、空き瓶をアイテムボックスに収納すると、今度は右手に出したポーションを、頭を抱きかかえるようにして飲ませた。

とにかく、今は一刻も早くミーネの苦痛を取り除いてあげることが先決だ。

「どうしてこんな馬鹿な真似をしたの!」

私の叱責の言葉に、うっすらと眼を開けたミーネが、弱々しい声で答えた。

「わ、私達がついていながら、カオル様とレイコ様の 大事(だいじ) な方に怪我させたなんて既成事実を作ったら、他の孤児達に申し訳が……。カオル様達には、これから、大勢の孤児達のために御活躍いただかねば……。

カ、カオル様、レイコ様……。ア、アラルや、他の孤児達を、お、お願いします……。

ああ、もう、痛みも何も感じなく……。

短い間でしたが、良い夢を見ることができました。ありがとうございました……。

では、一足お先に、女神様の許へ……」

ごちん!

「痛っ!」

私が膝の上に乗せて抱え込んでいた頭を離したから、地面に頭を打ちつけて声を上げたミーネ。

「私の本職が何だったか、思い出しなさい。魔法使いに、治癒魔法程度が使えないはずがないでしょうが!」

「え……」

うん、そういうことにしておこう。

「えええええええ!!」

自分の身体をぺたぺたと触って、斬られたはずの傷がないことに驚愕しているミーネ。

そして……。

「あああああああ! ふ、服が、カオル様に買っていただいた、大切な服がああああ!!」

あ~、そりゃ、ポーションじゃ服は直らないからねぇ。

ミーネにとっては、私に買ってもらった服が、そんなに大事だったのか……。

「どうして……」

ありゃ、レイアの奴、まだソレやってたのか……。

「どうしてよっ! あんなの、私には何ともないのに! 高々数十年で死んじゃうくせに! その僅か数十年でさえまだ殆ど生きていない、幼生体のくせに! どうして……」

何か、滅茶苦茶動転してるなぁ、レイアの奴……。いったい、どうしちゃったんだか。

レイアにとっては、たかがミジンコ並みの下等生物一匹の生死なんて、気にするようなことじゃないはずなのに……。

「どうしたのよ、レイア。落ち着いて!」

「……思ったの」

え?

「思ったのよ、『消滅したくない』って……」

「いや、そりゃ誰でもそう思うでしょ。当たり前じゃないの」

……まぁ、レイア達にとっちゃ、当たり前じゃないのかもしれないけどね。

「当たり前じゃない……。そりゃ、下等生物にとってはそうかもしれないけれど、私達にとっては、そういう概念はないの……。

さっきのような単純な物理事象で消滅するようなことはないし、もし何らかの事情で消滅したとしても、私は本体から分岐した、ずっと下位の分身体だから、本体には何の影響もない。

それに、私の記憶と経験は直近の分岐元に回収されて全体にフィードバックされるから、私の存在と活動が無駄になることもない。だから、消滅することには何の問題もない。

なのに……、さっき、あの男が向かってきた時。あんな金属片を突き立てられても、何ともないのが分かっているのに。もしこの身体が破損したり私の存在が消滅しても、何も問題はないというのに。……一瞬、僅かに、ほんの僅かだけど、『消滅したくない』って思った……。

初めて経験した、『食べる』、『飲む』、『遊ぶ』、……そして下等生物である『宿屋の従業員』とかいう生き物たちとの、 無意味な会話(じょうほうのやりとり) 。

それが、それが……」

あ~、『楽しかった』のかな?

「なのに、どうしてあんなことを……。

まだ、ほんの僅かしか生きてないのに。簡単に消滅するくせに。消滅したら、私達とは違って全ての情報が消滅するのに。自分が集めた情報も、自分が存在したという意味も事実も、全てが完全に消滅しちゃうのに。ほんの数回会っただけの、無関係の者のために……」

レイアの奴、動揺し過ぎだ。そんな 性能(スペック) じゃないだろうに。

それに、ヤバいことを口走り過ぎ! 多分子供達には聞いても理解できないだろうけど……。

でも、コイツらは油断できないからなぁ……。

私達がゴチャゴチャやってるうちに、子供達はちゃんとチンピラ……もう、殺人未遂犯だから、チンピラは立派に卒業して、凶悪犯に仲間入りかな……を縛り上げていた。

で、どうしようかなぁ、コイツら……。

さすがにハングとバッドも、一頭ずつで 神の戦車(メルカバ) とパンツァーを牽くのは無理だろうし、一頭でも牽けそうな小型軽量のペネロープ号じゃ、ふたり乗りだから意味がない。そもそも、残り一頭で牽ける馬車がないし。

……さすがに、今回だけのために12人乗りの馬車を新たに創るのは気が進まないなぁ。

12人のうち8人が小さくて軽い子供……私達も含めて……だけど、道が荒れていて高低差が結構大きいと、いくら馬車を軽くしても結構厳しそうだしなぁ……。

「レイコ、どうしよう……、って、何じゃありゃ!」

「……何よ、あれ……」

レイコにも分からないらしいけれど、無理もない。

空に浮かぶ、謎の物体。

……うん、つまりUFOだ。

なぜそう断言できるか?

いや、そもそもUFOっていうのが、正体が未確認(unidentified)の飛行物体(flying object)のことだから、正体不明、空を飛んでる、って時点で、UFOだ。別に宇宙人が乗ってなきゃならないってわけじゃない。

「……で、何だと思う? アレ……」

上空数十メートルに浮かぶ、金属製らしき球体。……いや、もしかすると、数百メートルかも。

比較物のない夜空に浮かんでたんじゃあ、高度も大きさも判定できないけれど、そこそこのサイズはありそうだ。直径数十メートルくらい?

明らかに、ここの文明レベルにはそぐわない、異物。

ここは、人生経験の長いレイコ先生の意見を尊重しよう。

「可能性としては、異星人、地底人、海底人、ムー帝国人、異次元人、未来人、機械知性体、女神様の乗り物、……そしてチート能力を要求するにあたって全く自重しなかったヤツ」

呆然とした状態の私の質問に、そう言って律儀に答えてくれるレイコ。

……って、最後の、アンタやん。

セレスは、本来の任務としては次元世界の崩壊防止に関しての管理をしているだけで、その他のことは、あくまでも暇潰しのお遊びに過ぎないのだろう。時々人間達に大規模災害の警告をしてくれたり、 気紛(きまぐ) れでちょっかいを出したりするのも、全て。

なので、宇宙人が来ようが、地底人が出てこようが、あまり気にしないはず。自分の任務とは関係のない、『どうでもいいこと』だから。

そして、セレスが降臨するのに、あんな乗り物を使うはずがない。

……うん、セレスとは無関係っぽいな。

あれが今、ここに現れたということは、偶然とは思えない。

さっきのレイコが放った電撃魔法のエネルギーか波動か時空の揺らぎか、何かそういったものを感知した?

物事は、最悪の事態に備えるべきものだ。

なのでとりあえず、アレは私達に危害を加える可能性がある敵性物体として対処しよう。

但し、敵ではなかったのにこっちから攻撃して不幸な行き違い、というのは最も避けたい事態だから、刺激しないように、しかしいきなり攻撃された場合に備えて……。

「レイコ、 障壁魔法(バリア) 、最大強度で展開! ビーム系と実体弾系、両方の攻撃魔法を準備してスタンバイ。敵からの攻撃の完全反射とかはできる? カラミティみたいに……」

「それは無理」

「 了解(ラジャー) 。じゃあ、攻撃されたら『あらゆるものを溶かす薬品』でもぶっかけるか……」

「それって、地面に落ちたらこの星の裏側まで貫通するんじゃ……」

何でも溶かす薬品、あるあるネタを振る、レイコ。

そして、私の返事は勿論。

「そんなこと、あるはずないでしょ!」

「そうだよねぇ……」

「貫通するのは、『この星の中心部まで』に決まってるわよ!」

「そして、じわじわと、この星を全部溶かす……」

「「あっはっは!」」

昔懐かしい、『いつものノリ』ってやつだ。

状況が悪くなる程、軽口が増えるのが、私達。

……つまり、今は最大限に警戒し、緊張してるってことだ。

一応、こっちには隠し球として、レイアがいる。

でも、セレスと違ってレイアには私達を助ける理由がない。私達が死ぬのを、何とも思わずにただ無表情で眺めてるだけ、という可能性は充分に……、あ、私達には『金貨の供給源』という価値があった!

まぁ、レイアが私達に直接関与するつもりがあるかないかは分からないし、ちょっと今はおかしな状態になっているのが気掛かりだけど。

よぉし、来るなら来い! UFO撃退の、準備はできた!!