作品タイトル不明
221 敵 2
「何なんだよ、これ!」
「何か、見えないか……べ……が……」
「「…………」」
騒いでいた4人の男達は、急に黙り込んだ。
そして……。
「……し、知らねぇ。俺は関係ねぇ」
「俺もだ。ただ、エイラスに誘われて迷子の捜索に付き合っただけだ。その他のことは、何も知らねぇ!」
「お、俺もだ! 俺はただ、エイラスが受けた仕事の手伝いを頼まれただけで、何の事情も知らねぇ!」
「お、お前ら……」
あっさりと裏切られ、恐怖に蒼くなったり、怒りに赤くなったりと忙しい、おそらくエイラスという名であろう、最初に私達に近付こうとした男。
うん、まぁ、『見えない壁に守られた子供達』なんて、アレだ。お 伽噺(とぎばなし) に出てくる、女神の加護で護られた心正しき子供達か、魔法使いの仕業かの、どちらかしか考え付かないだろう。
もし、魔法使いの方であった場合……。
魔法使いには、正義の魔法使いと、悪の魔法使いがいる。……平民の間での一般常識によると。
だが、そのどちらであっても、敵に回した場合の結果は同じなので、そこは気にする必要はない。
敵対者に訪れるのは、共に、等しく『死と破滅』である。……平民の間での一般常識によると。
そしてもし、女神の加護の方であった場合。
……ここの女神って、 セレス(あいつ) やぞ?
アレだ、ほら、『その者、全ての希望を捨てよ』ってヤツだ。
そりゃ、全力で他の者に責任を 擦(なす) り付け、撤退戦に移ろうとするわなぁ……。
「くそっ、こんな魔法をかけていたなら、子供達だけにしておいても心配ねぇはずだ……。
そうだ、親達が戻ってくる前に逃げりゃ、何も問題はねぇじゃねぇか! コイツらには何の力もないし、この壁から出りゃ俺達に捕まるわけだから、俺達の跡をつけるわけにも、親に知らせに行くこともできねぇだろう。俺達が逃げた振りをして、コイツらが魔法の壁から出てくるのを隠れて待ち伏せしているかも、っていう可能性がある限りはな……」
ありゃ、心理戦と来たか。なかなか考えるなぁ……。
でも、ざ~んね~ん!
「電撃、弱!」
びしぃっ!
コイツらのリーダー格だったらしい、エイラスとかいう男が、レイコの電撃魔法を受けて棒のように硬直したままぶっ倒れた。
まぁ、地面は土だし草も生えているから、大した怪我はするまい。
「なっ! 親だけじゃなく、コイツらも魔法使い……」
「いや、親が魔法使いなら、子供にも魔法を教えるのは当たり前だ。何の不思議もありゃしねぇ」
「ツイてる! 女神(セレスティーヌ) 様関連じゃなかったなんて、ツイてるぞ、俺達!!」
あ~、まぁ、確かにそれはあるかもね、最後の人……。
こういう時には、やはりレイコの魔法は使い勝手がいいなぁ。
私だと、手加減が難しいんだ。『ニトログリセリン のようなもの(・・・・・・) 』で、頭をドカン、とか、極端なんだよねぇ、威力が……。
麻酔薬とかも、心臓や呼吸まで止まっちゃいそうで、相手が盗賊とかの『死んでもいいやつ』である場合以外は、ちょっと使うのに腰が退けちゃうよなぁ……。
コイツらは、チンピラで犯罪者ではあっても、人を殺すところまでは行ってるかどうか分かんないし。
ま、とりあえず……。
「電撃、弱!」
「「「ぎゃあああああ~!」」」
うん、捕らえとこう。
「 障壁魔法(バリア) 解除!」
レイコが、チンピラ達を全員倒したので 障壁魔法(バリア) を解いた。あとは、縛り上げて……、って、素直に歩くかな。できれば国境を越えてから警備兵に突き出したいけど、一番近くの街まですら、……って、馬鹿か、私! 馬車を2台使えば……、って、牽く馬が2頭しかいないじゃん、馬車は全部2頭立てなのに!
くそっ……。
レイコがアイテムボックスから出した縄を受け取って、子供達が倒れているチンピラ達の方へ近寄っている。レイアも、見物のためか、一緒について行っている。
うん、私やレイコは、縄抜けされないように大人を縛る、なんてスキルは持ち合わせていない。
で、子供達はと言うと、……ははは……。
初代院長は、子供達をいったいどうしたかったのか……。
「「「あっ!」」」
え?
チンピラ達を縛り上げるのは『 その道のプロ(こどもたち) 』に任せて、バーベキューの続きを始めた私と、何かいいデザートでもないかと思ったのか、アイテムボックスの中身を確認しているレイコ。
そして子供達が上げた叫び声に振り向いた私が見たのは……。
短剣を握り締めて一直線にレイアに向かって走る、チンピラ達のリーダー格の男、エイラス。
殺さないようにと『電撃、弱』を唱えたレイコが、手加減し過ぎた? 電気には割と耐性があった? それとも、根性で?
レイコの方をチラリと見たけれど、アイテムボックスを確認していたレイコは、反応が遅れてる。
私のポーションじゃ、間に合わないし、高速で動く目標だと出現地点がうまく合わせられない。
……でも、そう慌てることはない。
おそらく、アイツは子供達の中でただひとり貴族のお嬢様のような恰好をしていて、飛び抜けた美少女、そして貧乏人にはお金や時間の問題で維持できない『腰のあたりまである綺麗な長髪』から、当然の帰結としてレイアが『魔法使いの子供であり、さっきの攻撃魔法の使用者である』と判断したのだろう。レイコが魔法名を唱えたけど、小声だったから、離れた場所にいたアイツらには聞こえていなかったか……。
なので、レイアさえ押さえれば他の子供達は無力、親の魔法使い達に対する人質としても、誘拐して売り飛ばすにしても最高の獲物である、と考えたのだろうな……。
でも、その子、アレだぞ? セレスの同類だぞ?
セレスに見つかりたくはないだろうから女神の力は使わないだろうけど、その身体、鋼鉄製とは言わないけれど、動体視力、運動速度、筋力、その他諸々、人間のレベルを遥かに越えているんじゃないかな~。
だから、何の心配もない。レイア本人も、平然としているし。
多分、短剣を指で軽く 摘(つ) まんで止めるか、一撃で仕留め……。
「 退(ど) け!」
ずしゃっ!
「え……」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
飛び出して、短剣を持ったチンピラ、エイラスの前に立ち塞がったミーネ。
自分の進路を塞ぐ障害物を排除するため、短剣を振るってそれを斬り飛ばしたエイラス。
ああ、突き刺すと、立ち止まってミーネの身体を蹴り飛ばして短剣を抜くのに余計な時間がかかるから、 横薙(よこな) ぎに斬り飛ばすのが正解か、と、どうでもいいことが頭に浮かぶ。
現実感を喪失して、一瞬、呆けていたのだろう。
でも、それは一瞬のことだった。
「ミーネ!」
私が我に返って叫んだ時には、既にエイラスはレイアによって殴り倒され、地面に転がっていた。
そして……。
「どうして……」
エイラスを殴り倒したあと、呆然と立ち 竦(すく) み、眼を大きく見開いて何やら 呟(つぶや) くレイアの姿があった。
レイアにとって、これくらいのことは、何でもないはずである。
自分を傷付けることなどできるはずのない羽虫を軽く払い、そして会ったばかりの下等生物が傷付いた。ただ、それだけのことであり、気にするようなことではない。
そのはずなのに。
なぜか、レイアは同じ言葉を繰り返していた。
「どうして……」