作品タイトル不明
217 さんにんめ 4
翌日、アイテムボックスから出した作り置きのもので朝食を簡単に済ませ、2台の馬車を収納すると、さっさと出発した。
日が暮れて暗くなった後は移動のしようがないのでのんびりしていたが、明るくなったなら、一刻も早く出発して、一秒でも早くリュシーを見つけねばならない。
後になって、『あと10分早ければ……』とか、『あの時、のんびりとお茶なんか飲まずに、さっさと出発していれば……』とかいって一生後悔する羽目になるのは、 真(ま) っ 平(ぴら) だ。
そして、捜索というか、追跡というか、昼食や休憩を挟みながら進み続け、そろそろ陽が落ちるかと思われた時……。
「リュシーを呼んでみます」
「え?」
そろそろリュシーの存在圏が近いと思ったのか、イリーが急にそんなことを言ってきた。
まぁ、追っ手のチンピラ達が近くにいるとは思えないし、たとえいたところで、何の問題もない。今は、少しでも早くリュシーを見つけ、その身柄を確保するのが最優先事項だ。
名を叫んでも、こんな森の中ではそう遠くまでは聞こえまい。
でも、小さな子供を視認できる距離は、もっと短いだろう。
喉が 嗄(か) れても、ポーションで何とかなる。ならば、やらないよりは、やった方がいいだろう。
「あ、うん、分かった。お願い!」
子供の声の方が周波数が高いから……、って、ここにいる者は全員、大して変わらねぇよ!
……とか考えていたら……。
ピイイイイイィ~~!
指笛かっ!
これなら、喉も嗄れないし、名前を呼ぶよりずっと遠くまで伝わる。
……まぁ、もし聞こえたとしても、それが役に立つのは、リュシーがこれを味方の合図だと知っていれば、の話だけど。
「……仲間であることが分かるよう、吹き方に特別なテンポを付けています」
私の考えを察したのか、ミーネが私の耳元でそっとそう囁いてきた。
「お……、おう……」
……だから、何なんだよ、オマエラ!!
* *
進みながら、時々イリーとミーネが指笛を吹く。フリアは指笛が少し苦手なのか、吹けないわけではないらしいけれど、今回はふたりに任せているらしい。
ま、リュシーの命が懸かっているとなれば、最大出力が出せる者が担当するのが当たり前だ。
日本人は、口笛を吹ける者は多くても、指笛が吹ける者は少ない。アメリカ人とかは、大抵の者が吹けるらしいのに……。
やっぱり、アレか? アメリカは広大だから、迷子になった時とか、別行動をしている者とかに合図を送る必要があるからか?
日本でも、夜道で襲われたり、登山やキャンプで迷子になった時のために、指笛を普及させるべきだよねぇ……。
そうやって、何度か指笛を吹いていると……。
ぴいいいいいぃ~!
微(かす) かに、同じような感じの指笛が聞こえたような気がした。
「リュシーです。あの吹き方は、『健在、問題なし』という 符丁(ふちょう) です。方角は向こうです、行きましょう!」
「お……、おう……」
だから、何なんだよ、コイツら!!
* *
ホウッ!
ホウホウッ!
返事の指笛が聞こえた方向へと進んでいると、フクロウか何かの夜鳥の鳴き声が聞こえた。
「至近距離です」
「「…………」」
そんな合図も決めてあるんかい……。
まぁ、鳥の鳴き声に偽装していれば、敵に気付かれる確率を下げることはできるか。
ガールスカウトとかで教わったのかな?
そういえば、『ガールスカウト』って、優れた才能がある 女の子(ガール) を 勧誘(スカウト) する、って意味かな? それとも、 女の子(ガール) を 斥候・偵察(スカウト) 要員に養成する、って意味かな?
……多分、全然違うんだろーなー……。
そして、時々合図で方向を修正しながら進んでいると……。
「ここよ!」
藪の中から、幼い少女の声がした。
「リュシー!」
「……イリー?」
「ミーネとフリアもいるわよ!」
「助かった……」
合図で味方……孤児院の仲間……だとは思っていただろうけど、相手が誰かということが分かり、本当に、心の底から安堵したらしき、リュシー。
そりゃまぁ、いくら気丈な子とはいえ、僅か7歳の女の子が危険な森の中でひとり、そして夜を迎えようとしていたのだから、心細くないはずがない。
そして、がさごそと藪をかき分ける音がして……。
「イリー! ミーネ、フリア!」
だっ、と藪から飛び出してきた小さな人影が、イリーに飛び付いた。
「……お待たせ!」
「うん! うん! うん、うん、う……、うあああああぁ……」
安心して、気が緩んだのだろう。リュシーが泣き出してしまった。
……無理もない。今まで気を張って、必死で耐えていたのだろう……。
勿論、イリーやミーネ達も泣いている。
皆、売られてから色々と苦労したのだろう……。
「で、救助の人達は?」
「え?」
泣き止んだ後のリュシーの質問に、一瞬意味が分からず、ぽかんとするイリー。
「いや、だから、大人の人達は? イリー達は合図を送るためと、私がどう行動するかを教えるための案内役でしょ? 魔物や野獣から護るための、護衛役の大人達は?」
あ~……。
普通は、そう考えるよねぇ……。
「いないよ。私達だけ」
「え? ええ? えええええええ?」
横から口を挟んだミーネに、愕然とした顔のリュシー。
「そんなの、魔物や野獣に襲われた時も、追っ手に見つかった場合も、戦闘力が殆ど変わらないじゃないの! どちらの場合も、ただ、 獲物(えさ) が増えて相手が喜ぶだけじゃないのおおおおぉ~~!!」
……うん、リュシー、キミの考えは、よく分かる……。
って、あれ?
「リュシー、その足……」
「ああ、ちょっと 挫(くじ) いちゃって……。その後、少し引きずってたからか、 尖(とが) った岩で 擦(こす) っちゃって、すっぱりと……」
そう言うリュシーの左足は、足首を 蔦(ツタ) でぐるぐると巻いて固定してあり、しかも血で濡れていた。
「合図では、『健在、問題なし』ってことだったんじゃないの?」
そう言った私に、リュシーが怪訝そうな顔をした。
「……イリー、この子は?」
が~ん!
7歳児に、『この子』って言われた……。