作品タイトル不明
216 さんにんめ 3
ホント、何なんだよ、コイツら……。
怖いわっ!
でも、まぁ、同じ教育を受けて、何年も一緒に暮らしていた者が言うのだから、その判断は少なくとも私やレイコの判断よりは『リュシーの考えに近い』と考えるべきだろう。
それが論理的に正しい判断かどうかは別にして、『リュシーが取り得る選択肢』としては……。
「……分かった。少し左に進路を変えよう」
ハングとバッドにそう言って、少し進路を変更。
私達は、森の中で方向を失わないよう、 方位磁石(コンパス) を用意している。……勿論、ポーションが入ってるやつ。
リュシーがどうやって方位を確認するのか心配になってミーネに聞いたところ、太陽、星、木の切り株、その他いくつかの方法があるそうな……。
切り株の年輪を見る方法は、地形やら周囲の状況やらで不正確らしいけど、そういうのも加味して分析すれば、『無いよりはマシ』らしい。初代院長先生に教えてもらった、とか……。
いや、だから、何者だよ、孤児院の初代院長って!!
「止まってください!」
バッドの背に乗って、ずっと前方を凝視していたイリーが、急に大声で停止を指示した。
ハングとバッドは、人間の言葉は分からないものの、状況からおおよそのことを判断できるだけの能力は持っているため、私が指示するまでもなく、イリーの声で停止した。
「そこの木の小枝が、不自然に折れています。比較的小さな動物にしては、位置が高いです。逆に、大型の動物であれば、もっとはっきりとした跡が残るはずです。
なので、ごく最近、……ここ数日のうちに通過した、縦長の、つまり二足歩行のそう大きくない動物、……たとえば人間の子供とかが通った跡である可能性が……」
「てめーもかっっ!」
やっぱり、同じ穴の 狢(むじな) 、か……。
イリーが乗っているバッドを先頭にして、しばらく小枝や草に残された痕跡を追っていくと……。
「あ、こっちへ曲がってる……」
私にも分かる、草木が荒らされた跡があった。なので、そう言ったところ……。
「それは、わざと付けられたダミーです。あからさま過ぎるでしょう? 本当の進路は、こっちです。痕跡を隠した跡が僅かに残っています」
「何なんだよ、もう……」
もう、オマエラで勝手にやってくれ! 私達は、黙って付いていくから!!
「……痕跡がなくなりました。どうやら、木を伝って移動したか、木と 蔦(ツタ) で 高足歩行具(たけうま) でも作ったか……」
はいはい……。
もう、慣れてきた。
「カオル、『女神の眼』の連中も、こんな感じだったの?」
「んなワケあるかい!」
レイコの質問に、即答した。
(『女神の眼』って言った……)
(『女神の眼』って言ったね……)
「ん? ミーネ、アラル、何か言った?」
「「いいえ、何も!」」
何か喋っていたけど、ま、内緒話くらいするか。従業員が愚痴や雇い主の悪口を言うのは当たり前だし、そういうのはガス抜きのために必要だ。
……あまり酷い悪口じゃないことを祈ろう……。
「イリー、リュシーを追いかけている者の痕跡はない?」
そう、魔獣や野獣も危険だけど、リュシーにとって最も危険なのは、人間、……追跡者だ。
魔獣や野獣は、獲物としてロックオンされるまでは、問題ない。でも、追跡者は、最初からロックオンして執拗に追いかけ、襲い掛かってくる。
「今のところ、その痕跡はありません。
複数の大人が、痕跡を残すことを気にせず森を突っ切れば、はっきりと跡が残りますから。
但し、『この地点において、リュシーの後を追った形跡がない』というだけであって、別のコースを進んでこの先でリュシーと、あるいはその移動ルートの痕跡と出会ったかどうかは分かりませんが」
本当にコイツ、10歳かよ!
しかし、早く追いつかないと……。
「でも、多分大丈夫です」
「え?」
「7歳の子供を捜しに、森に入るチンピラはいません。
生死不問、ということから、雇ったのは正規のハンターじゃないでしょう。そして傭兵とかがこんな依頼を受けるはずもなし。ということは、兵士にも傭兵にもハンターにもなれないような、ただのチンピラです。
ならば、森の中での数日間に亘る捜索なんか、何のノウハウもなく装備も持っていないチンピラなんかにできるはずがないです。だから、街道を中心に捜すに決まってますよ。
それに、万一森に入ったとしても、がさがさと音をたてたり仲間同士で話しながら歩いたりすれば、リュシーの方が先に気付きます。
7歳の子供が丸まって草むらや木の陰に潜んでいれば、そうそう見つけられはしませんよ」
イリーの言葉に、こくこくと頷くミーネとフリア。
「「…………」」
言葉が出ない、私とレイコ。
そして、話が分からず、ぽかんとしているアラルに癒やされる。
そうか、この子はあの 孤児院(なぞのようせいじょ) 出身じゃなかった! 『こっち側』の人間だ。よしよし……。
頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑うアラル。
うむ、かわええのう……。
ハングに乗っている順番は、前からミーネ、アラル、私の順だから、撫で放題だ。
……何か、ミーネが思い切り後ろを振り返って私とアラルをガン見しているけど……。
首と腰を痛めるよ、そんな無理な体勢をしちゃ……。
アラルのお姉さん役を奪われるかと思って、心配してるのかな?
いや、そんなことよりも、先へ進まなきゃ……。
そして、少し木々がまばらになった場所で、馬車とテントを出して夜営。
座席をリクライニングさせれば快適な寝床になるけれど、いくら子供ばかりとはいえ、リクライニングシートなので 神の戦車(メルカバ) だけで6人はちょっと厳しいから、パンツァーも出した。そして、食事用として、大型テントも。
勿論、テントは組み立てたままなので、そのまま出しただけ。寝る時には収納するから、排水溝を掘ったりペグを打ち込んで地面に固定したりはしない。食事と、しばしの団らんに使うだけだ。
ハングとバッドに、先に飼葉をやった。
エン麦、豆類、 乾草(ほしくさ) 、その他諸々を混ぜたものに、回復ポーションをふりかけたやつ。デザートに、リンゴ、とうもろこし、ニンジン、角砂糖の食べ放題。
あまり甘いものを食べさせすぎると糖尿病になってしまうらしいけど、ま、私と一緒にいる間は病気の心配はないだろう。
そして、調理台と調理器具、水タンクと食材を出して、調理開始。
森の中だから、火災防止、匂いで魔物が寄って来ないように、そして万一の『追っ手の存在』に備えて、料理は火を使わず……、つまり、焼いたり煮炊きしたりはしない、簡単なもので。
既にイリーとフリアを回収してから何度も夜営をしているので、この程度のことで今更驚く者はいない。
ふたりにも、ミーネとアラルと同様に、私達のことは『魔法使い』だと教えてあるので、問題ない。
街から森に着くまでの街道部分で大きく時間差を詰めたし、森に入ってからも、リュシーよりはかなり速く進んでいるはずだから、うまくすれば明日にでも追いつけるかもしれない。
とにかく、7歳の女の子にこんな場所でひとりぼっちで夜を迎えさせるのは、今日で最後にしたい。それが、私達の望みであり、義務だ。
そして寝るのは、孤児院トリオの要望により、 神の戦車(メルカバ) にミーネ、イリー、フリアの3人。パンツァーに、私、レイコ、アラルの3人となった。
何かバランスが悪いけど、女子会というか、孤児院仲間だけで話したいこともあるのだろう。
これが、子供4人組と私達ふたり、という組分けだとヘコんだだろうけど、こっちにアラルが貰えるならば、私もレイコも文句なし!
よし、いつもミーネにくっついているアラルに、日本のお伽噺をこの世界用にアレンジして聞かせてやるかな……。
* *
「……というわけで、色々と不審には思っているだろうけど、カオル様とレイコ様のことは、『魔法使い』ということで。間違っても、女神様とか御使い様とか言わないように!」
こくこく!
神の戦車(メルカバ) では、ミーネがイリーとフリアに、何やら説明していた。
「『魔法使い』という仮の設定も、あくまでも私達『リトルシルバー』の従業員の間だけのものだからね。対外的には、買い取った元孤児院の建物で孤児を雇ってくれている、 篤志家(とくしか) の、どこかの貴族か金持ちの道楽お嬢様、ってことで……」
こくこく!
「じゃあ、リュシーを回収したら、みんなでカオル様とレイコ様に忠誠を捧げ、そしてみんなでアラルに 初代院長(おとうさん) から教わったことを全て教え込んで立派に育て、幸せを掴もう!」
「「「お~!!」」」
その頃パンツァーでは、自分の身に何が待ち受けているかを知らないアラルが、カオルとレイコに構ってもらい、きゃっきゃと楽しそうに笑い声をあげていた……。