軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

215 さんにんめ 2

「ここが、森との境界か……」

「ここから先は、この森を左側に大きく迂回するのよね。……街道は」

「そう。街道は……」

全員馬車から降りて、周囲を眺めている。

正面は森。街道は左へと曲がって森を避けるように走っている。

そして私達は、この森を突っ切る。

「少し森の中へ入って、街道から見えないところで馬車を駐める。

捜索は、私とレイコ、そしてミーネの3人で。ミーネには、リュシーに説明してもらわなきゃならないから、悪いけど付き合ってもらうよ。

他の者は、馬車で待機。 障壁魔法(バリア) で馬車を中心とした半径10メートルを覆うから、ハングとバッドが草を 食(は) むのの邪魔にはならないと思う。

ハング、バッド、この子達をお願いね。絶対に 障壁(バリア) から外へは出さないように!

障壁(バリア) は、外敵は入れないけど、万一に備えて、中からは外へ出られるようにしておくからね」

人間の言葉と馬の言葉で同じ内容を繰り返し、そう指示したところ……。

『ハァ? いったい、何を言ってやがる?』

『その御命令には、承服致しかねます』

バッドとハングに拒否された。

『我らは、女神の乗馬。このような重要な場面で、主を歩かせて自分達は安全な場所で待機など、とても許せるものではない!』

いや、そう言われても……。

『でも、馬は手入れもされていない深い森の中を歩くようにはできていないでしょ。荒れた地面、 泥濘(ぬかるみ) 、草や蔓、倒木、その他諸々……。簡単に足を取られて、骨折しちゃうでしょうが……』

『それが何か?』

『え……』

ハングが、何を言っているのか分からない、というような口調で、そう問い掛けてきた。

その時のハングの表情? ……私には、馬の表情なんか読めないよ……。

そしてバッドが……。

『 鈍(にぶ) いな、嬢ちゃん。それが、俺達が嬢ちゃんと共に行くことの、何の妨げになるのか、って聞いてんだよ! 70年以上も待ち続け、多くのシルバー種の馬達が望み、そして果たせなかった御使い様の乗馬としてのお役目を遂行するのに、足が折れようが首が折れようが、何の問題も 無(ね) ぇだろうが……』

『我らが倒れし時は、他の シルバー種(もの) が駆け付けます。その者が倒れし時は、また次の者が。……シルバー種の、最後の一頭が倒れるまで! それが……』

『『偉大なる始祖、エド様の望み!!』』

……馬鹿だ。

エドも。

律儀に、その言葉を守ろうとする、コイツらも。

まぁ、怪我をしても、ポーションで治せる。痛い思いはするだろうけど。

それに、置いていこうとすれば、コイツら、何をするか分からない。

絶対、 障壁(バリア) から出てついてくるだろう。アラルとイリー、フリアを乗せた馬車を置き去りにして……。

いくら 障壁(バリア) で覆っていても、さすがに幼い子供達だけを残していくわけにはいかないだろう。 障壁(バリア) を、外からだけでなく中からも出られないようにすることは可能だけど、10歳以下の子供達3人だけで、いつ戻ってくるか、そして本当に戻ってくるかどうかも分からない私達をずっと待ち続けるのは、耐え難い恐怖だろう。

迫り来る夜の闇。遠くから聞こえる魔物の雄叫び。1日経っても、2日経っても戻らない私達。

そして、 障壁(バリア) を取り囲む、凶暴な野獣や魔物の群れ。

……そりゃ、怖いだろう。

ハングとバッドがいれば、それも何とかなると思ったんだ。コイツらは実年齢の割には結構しっかりしているし、身体の大きな馬が自分達に寄り添い、守ってくれるとなれば、子供にとっては大きな安心感が得られるだろうから。

それに、ハングとバッドを残して私達がどこかへ行ってしまう、つまり子供達が見捨てられ、置き去りにされてそのまま、ということはあり得ない、という安心感にも繋がる。

子供達は、孤児である自分達が簡単に捨てられるということは不思議にも何とも思わないだろうけど、立派な馬2頭と馬車を置き去りにして捨てる者がいるとは思わないだろうからねぇ。

……でも、子供達を捨てるも何も、私達が森に入ろうとしている理由が、その『孤児の子供を捜すため』なんだけどなぁ。

ま、幼い子供、それも大人達に裏切られ続けた子供に、そう言っても仕方ないか……。

よし!

「作戦変更! 神の戦車(メルカバ) は収納して、全員ハングとバッドに分乗、みんなで一緒にリュシーを捜しに行くよ! 『ハング、バッド、私達を3人ずつ乗せられる? それで森の中を進める?』」

最後の言葉は、馬の言葉で、ハングとバッドに。

『任せろ! 子供3人なんざ、武器や鎧で完全装備の兵士を乗せるのに較べりゃ、空荷同然だぜ!』

『その通り! 道無き森の中も、草原を駆けるが如く、走り抜いて見せましょう!』

『あ~、走るのはナシで……』

バッドとハングが、威勢のいい返事をしてくれたけど、さすがに走るのはナシだ。

……というか、バッドの台詞、少し前にも聞いたことがあるような……。自慢の決め台詞、ってやつかな?

とにかく……。

「じゃ、みんな、馬車から降りて。水筒だけ身に着けてね」

うん、誰かが喉が渇く 度(たび) にいちいち私が創り出すのは面倒だし、そもそもポーション作製能力は秘密だからね。

そして、 神の戦車(メルカバ) を収納して、子供達をハングとバッドに乗せて、私とレイコもそれぞれ乗って、……出発!

* *

ハングは『草原を駆けるが如く』とか言っていたけれど、勿論、ぽくぽくと普通に……、いや、普通よりかなりゆっくりと歩く2頭。

こんなところで駆け出したら、数歩目で足を取られて転倒、骨折間違いなしだ。

先行しているリュシーは7歳なのだから、これでも森を抜ける前に充分追いつけるはず。

いや、森に入らずに街道をそのまま進み、森の反対側で待つ、という方法があるのは分かってる。7歳児が森を突っ切るより、馬車で森を迂回する街道を走った方が、何倍も早い。

……でも、その手段がとれるのは、『魔物、野獣、怪我、飢え、渇き、恐怖、その他諸々』にリュシーが打ち勝ち、無事、森を突っ切れることが分かっている場合の話だ。

追っ手のチンピラ達が森に入る確率は低いけれど、それは決してゼロじゃない。

そして、もしリュシーの安全が確約されていたとしても、やはり私達はこのルートを選ぶ。

いくら無事に森を抜けられるとしても、7歳の子供に、森の中で不安に震える夜をこれ以上過ごさせるものか!

そして勿論、現実ではリュシーが無事に森を抜けられる保証なんか、全くない。

いや、抜けられない確率の方が、遥かに高いだろう。ここは、日本の森ではなく、魔物や野獣がいる、異世界の森なのだから。

そして、リュシーがどれだけの装備を持っているか、分からない。水、食料、夜営具、傷薬、その他諸々……。

なので、一刻も早く追いつかなきゃならない。ハングとバッドが足を取られて転倒しない、ギリギリの速度で……。

ま、そういうわけで、私達にはこのルートを選ぶ以外の選択肢はなかったというわけだ。

そう、アレだ。

『せっかくだから私達は、この赤い道を選ぶぜ!』ってやつだ。

「カオル様、進路を少し左に寄せましょう!」

「え? 街道が森に行き当たったところから入って、真っ直ぐ反対側に出て街道に合流するルートを進んでるんだよ? リュシーも時間を掛けて脱出ルートは調べたはずだから、このルートを選ぶんじゃあ……」

ミーネの意見具申に、私がそう反論したところ……。

「はい、それはそうなんですけど、もし万一追っ手が森に入った場合、追っ手も当然そう考えるでしょうから、リュシーなら、わざとルートをずらすはずです。

問題は右か左か、なんですが、右だと最短の直線路の場合より少し先のところで街道と合流、左だと手前になりますから……」

「じゃあ、距離にロスが出ないように、右にずらすんじゃあ……」

「はい、そして追っ手も当然、そう考えますよね? それと、そもそもリュシーは自分が取り得る最短距離、最短時間で森を抜けるつもりはないと思います。そんなことをすれば、街道に出た途端、捕らえられる可能性がありますから。

おそらく、数日間森の中に潜んで、追っ手が諦めて引き揚げるのを待つはず……」

「何なんだよ、オマエラ! どこの特殊部隊だよ!!」