作品タイトル不明
214 さんにんめ 1
宿屋に飛び込んで、取った部屋へ突入。
「緊急出撃! 宿を引き払って、すぐに立つよ、さっさと着替えて! 説明は馬車の中で。急いで!」
きょとんとしているみんなに準備を 急(せ) かして、私は先に受付へ行って今から立つことを通告。
宿代の一部を払い戻す、と言われたけれど、それをチップとして 厩番(うまやばん) と折半していいから、すぐに馬の準備を調えるよう頼むと、受付の子は猛ダッシュでどこかへ走り去っていった。……多分、厩へと向かったのだろう……。
しばらくすると、部屋着から外出用の服に着替えたみんながやってきたので、ぞろぞろと厩へ。
既にハングとバッドの準備は出来ており、そのまま乗って、厩番と受付の子からの最敬礼で見送られて、出発!
ハングに、私、ミーネ、アラル。
バッドに、レイコ、イリー、フリア。
1頭に3人ずつ。
定員オーバーである。
『ごめんね……』
『何言ってやがる。俺ら軍馬は本来、武器や鎧を着けた完全装備の男を乗せて走り回るんだぜ。装備無しの子供3人とか、空荷も同然だぜ。俺達を舐めるなよ?』
『またお前は、そんな無礼な物言いを……。しかし、バッドが言っていることは本当です。お気になさらないよう……。それに、どうせ街を出れば馬車を使われるのでしょう?』
うん、2頭とも、口調は違うけれど、いい奴だ。さすが、エドの子孫だけのことはある。
ま、その通り、街を出れば馬車を出すんだけどね。
アイテムボックスに入れてあるどの馬車も、子供だけで乗り付けるにはあまりにも不自然で、犯罪者ホイホイ過ぎる。だから、いつも街の手前で馬車はアイテムボックスに収納して、騎乗に切り替えているのだ。
……少し人数が増えすぎたから、それもちょっと不自然だけど……。
これ以上増えたら、1頭に4人乗りだよ。さすがに、それはちょっと……。
子供達だけ乗せて、私とレイコは 轡(くつわ) 取りをして、歩いて街へ入るのはどうかな。
って、今はそれどころじゃない!
さくさくと進んで、街を出てから最初にあった空き地で停止。
周りに人の姿がないのをよく確認してから……。
「出でよ、『 神の戦車(メルカバ) 』!」
どんっ!
神の戦車(メルカバ) 、召喚。
今回は急ぐので、重量級のパンツァーは避けた。ペネロープ号は華奢だし、いくら子供ばかりとはいえ、ふたり乗りに6人は、ちょっと厳しい。短時間ならばともかく、長時間となると……。
なので選んだ、 神の戦車(メルカバ) だ。
本当ならば、すぐに馬車を走らせて、それから車内で説明したいところだけど、それはできない。
……なぜならば、今から『どちらへ向かうか』を相談しなきゃならないから。
反対方向に走らせたのでは、却って時間のロスになる。
なので、とにかく皆を馬車に乗せて、説明をしなきゃならない。
* *
「……というわけで、急いでリュシーを捜して、雇われた連中より先に確保しなきゃならないの」
私が説明を終えると、車内に静寂が広がった。
でも、無駄にしていい時間なんかない。
私は、アイテムボックスから1枚の地図を取り出した。
日本のファンタジーゲームのおまけに付いていそうな、縮尺とかを完全に無視した、山と川と森と海と村しか描いてない、アレである。
こういう世界では正確で精密な地図なんか軍事機密だろうから、仕方ない。
それでも、無いよりは100万倍マシなので、ちゃんと買っておいたのだ。
それを、テーブルの上に広げた。
「ここから離れるルートは、三つ。この国の王都へと向かう道、西側の国へと向かう道、そして私達が住んでいる、元孤児院、現リトルシルバーがある国へと戻る道。
そして戻る道は、森を大きく迂回して、森と岩山の間を通るようになってる。
私達が行くべき方角は、どっちだと思う?」
私とレイコには、リュシーがどのルートを選ぶかの判断基準が分からない。
そりゃ、私ならどうするか、ということであれば、色々と考えた末に結論を出すだろう。でも、この世界の、全てを失った7歳の孤児がどう考えるかなんて、分かるはずがない。
もし、それが分かるとすれば……。
「ここだ! リュシーは、ここを通る!」
「うん。リュシーが選ぶのは、この道筋しかないよね!」
「あの子がこれ以外の進路を選ぶことは、あり得ない……」
そして、その少女のことを最も理解しているであろう3人の少女達は、ひとつの道筋を指で示した。
自分達が住んでいた、あの、元孤児院へと戻る道。
……そしてその指がなぞっているのは、森を迂回する街道ではなく、その深い森、野獣や魔物が出ると言われている危険な森のど真ん中を真っ直ぐに突っ切った、あまりにも無謀なルートであった……。
「ど、どうして……」
いや、孤児院に戻るルートであろうとは思っていた。ミーネと同じく、 聡(さと) く決断力がある子ならば、密かに周辺地理や孤児院へ戻る道を調べていただろうし……。
皆に相談したのは、あくまでも念の為、というに過ぎなかった。リュシーが悲観主義の子であり、孤児院に売られた、とか考えて他の国を目指すような子だとか、何も考えない無謀な子で、まだ見ぬ新天地を目指しそうだとか……。
だから、元の国に戻ろうとする、というのは、最も確率が高いと思っていた選択肢なので、何も驚くことはない。
しかし、どうして7歳の少女が危険な森の縦断を選ぶのか! 碌な道すらないというのに!
「当然、あの子は孤児院へ戻ろうとする」
「街道を進めば、馬か馬車で追いかけられればすぐに追いつかれるし、簡単に見つけられる」
「ならば、道がなく、馬車も馬も通れず、見通しが悪くて危険なところを進めばいい。そうすれば見つかる確率が低くなる。そして……」
「自分を捜して捕まえることの利点より、そのために冒す危険や損失が上回るようにすればいい。そうすれば、追っ手は諦める」
せっかくだから、俺はこの赤い道を選ぶぜ、ってことか?
ぽかんと口を開いたまま、アホ面で固まっているレイコ。
……多分、私も同じような顔をしているのだろう。
そして数秒後、私とレイコの声がハモった。
「「怖いわ、お前ら!!」」
そして数分後、 神の戦車(メルカバ) は街道を東へ向かって走っていた。
……常軌を逸した速度で……。
ペネロープ号ほどではないが、チタン、ジュラルミン、FRP、カーボンナノチューブを多用した 神の戦車(メルカバ) は、通常の馬車に近い外見の割には、とても軽く、丈夫であった。
そして、シルバー種の中でもトップクラスの2頭が、特製ポーションを与えられて、カッ飛ばす。
野獣も魔物も盗賊も、関係ない。襲おうにも、速過ぎて追いつけないし、もし前方を塞いだとしても、魔法か、ニトログリセリン のようなもの(・・・・・・) によって一瞬のうちに吹き飛ばされ、進路上から排除される。
可愛い少女を助けるためなら、『KKR』の力は、一騎当千!
チート能力などない地球においてすら、そうであったのだ。今の私達は、鬼神ですら止められまい。
……もし、少女が可愛くなかったら?
可愛くない少女や幼女なんか、全宇宙に存在しない!
少女と幼女は、少女と幼女である、というだけで、可愛いんだよ! 外見なんか関係ない!
子猫や小鳥がみんな可愛いように、女の子は、みんな可愛いんだ。異論は認めない!