作品タイトル不明
210 人材確保作戦 4
「準備完了!」
うん、取引相手への連絡と纏まった量の商品納入、ここの『盗まれたくないモノ』のアイテムボックスへの収納と防犯対策、領主様への根回し、ミーネとアラルへの説明、そしてハングとバッドへの説明と、全て終えて、昨夜は早めに寝て、今朝はみんな元気いっぱい。
アイテムボックスに入れていた作り置きのもので食事も済ませ……。
「よし、出発!」
「「「お~!」」」
勿論、ミーネ達も連れていく。
ミーネとアラルをふたりだけでここに残していくわけにはいかないし、目的の3人は、全員ミーネとは顔見知りである。だから、私達を信用してもらうためには、ミーネの存在は不可欠だ。
突然、見知らぬ未成年の子供が現れて『面倒を見てやるから、今の生活を捨ててついてこい』なんて言われて、ホイホイついてくるような馬鹿はいないだろう。それも、底辺を這いずり回って生きてきた上、既に1回、手酷く騙された後とあっては……。
なので、ミーネに説明してもらうのが、一番話が早い。
養子先……実際には、正式な養子手続きなんかしておらず、ただの給金数十年分前渡しの丁稚奉公の契約書があるのだろうけど……は完全に敵に回るだろうから、本人には完全にこっちを信用して味方になってもらわないと困るからね。
まぁ、それがなくても、ふたりを残していくという選択肢は始めからなかった。当たり前だろう。
領主様と約束した干物とジャーキーは、既に届けた。
勿論、裏口からお邪魔して、使用人に渡しただけだ。こんなものを渡すのに、わざわざ領主様を呼ばせるような納入業者はいないし、そもそもそんなことを取り次ぐ使用人もいないだろう。
サービスに、漬け物(たくあん、カブ漬け、キュウリの浅漬け)と飴玉、そしてブランデーも数本付けておいた。干物や漬け物は自家製だけど、飴玉とブランデーは ズル(チート) 。
あ、調べ物を手伝ってくれた人用のも、ちゃんと用意した。そういうとこは、きちんと礼をしておかなくちゃね。こういう心遣いが、いつか自分に返ってくるんだよねぇ……。
あと、干物用にと、醤油の小瓶をひとつ。
ちゃんと、使い方を書いたメモを付けてある。干物を炙るコツとかも。
いや、それくらいはここの料理人も知っているだろうけど、念の為に。料理人が、素人の子供が作ったものなど信用できないと思って、火を通しすぎるかもしれないからね。
なので、ちゃんと封をして領主様に宛てた手紙に、そのあたりのことも書いておいたのだ。
……うん、『目黒のサンマ』になったんじゃあ、領主様があまりにも気の毒だ。楽しみ、少ないだろうからねぇ。
しかし、貴族や大商人とのコネを、と色々考えていたのに、まさかこんなことで領主様と直接関わることになろうとは……。
ま、いいか。
世の中、そうそう計画通りに進むものじゃない。思わぬアクシデントもあれば、思いもしなかった 僥倖(ぎょうこう) もある。これは、どちらかといえば『僥倖』寄りの出来事だろうから。
戸締まりも終えて、家の前に立つ、私、レイコ、ミーネ、アラル、そしてハングとバッド。
よし、行くよ!
「 出(い) でよ、魔法の馬車!」
ででん!
「「うわああぁ~~!!」」
いきなり目の前に出現した、 威嚇用馬車(パンツァー) 。
そう、3台の馬車のうち、おかしなのに絡まれるのを防止するためにゴツい外見にした、街道の虫除け走行用のやつだ。御者台に ダミー人形(オスカー) を乗せるヤツ。
地球では、魔法によってカボチャが馬車になるのは、常識。
そして この世界(ここ) では、魔法で馬車がいきなり現れるのは、常識。……多分。
ミーネとアラルが上げた声は、勿論、悲鳴ではなく『歓声』だ。
生まれて初めて見た、魔法。そりゃ、歓声のひとつも上げるだろう。
「 ハング、バッド(ひひんひんひん) 、 頼むよ(ぶひひんひん) !」
『『 お任せあれ(ぶひひひん) !!』』
自分から 輓具(ハーネス) を装着する位置へと移動したハングとバッドを見て、固まっているミーネとアラル。
何だか、馬車を出した時より驚いてるなぁ。……どうしてだろう?
「どうしてそんなに驚いてるの? ちゃんと説明したじゃない、この2頭は昔女神様とも御使い様とも言われていた人の愛馬だった、神馬の子孫だって。だから、飼い主が言ったことはある程度理解できる、って……」
私がそう言っても、アラルは『納得できない』というような顔をしている。
そして、ミーネが私の顔をじっと見詰めて……。
「い、いえ、今のは、『馬が主人の言葉を理解した』というのじゃなくて、カオル様が馬の言葉を喋りましたよね?」
「え?」
あれ?
え?
えええええええ?
レイコの顔を見ると、口を半分開けて、ぽかんとした顔をしていた。
「しまったああああぁ~~!!」
その設定だと、私達は人間の言葉で喋り、ハング達がそれを理解できなきゃならない。
私が馬の言葉を喋れば、どの馬でも理解できて当たり前だ。
私もレイコも、そこには全然気付いていなかった。
完全な、設定ミスだった……。
「も、もしや……」
「カオル様が……」
ああっ、マズい! ふたりに本当のことがバレる!
どんだけ勘が鋭いんだよ、このふたり!
「「カオル様が、神馬の子孫!!」」
「何でやね~~ん!!」
* *
「誰が、馬の子孫じゃい!」
「「ご、ごめんなさい……」」
いや、まぁ、いいけどね……。
既にハングとバッドに 輓具(ハーネス) を付け終え、移動を開始している。
ダミー人形(オスカー) を御者台に乗せるのは、街を出て、少し離れてからだ。でないと、街の人達に『御者台に座っているのは何者だ?』と思われちゃうからね。
今は、レイコが御者台に座っている。そして私は、客室内でミーネとアラルに説明中。
「あれは、人間の言葉で馬に話し掛けていると『気の毒な人』だと思われちゃうし、ハング達が人間の言葉を理解する馬だと思われたら良からぬことを考える者が出るから、私が馬との親睦のために適当に馬っぽい鳴き声を真似ているだけ、と思わせるためにああやってるの。
神馬の子孫として飼い主の言うことが分かるのは、別に人間の言葉を理解しているわけじゃなくて、飼い主の思いを感じる力のおかげだから、口から出す言葉は関係ないからね」
「「なるほど……」」
よし、チョロい!
「じゃあ、私は御者台に戻るから、ふたりはゆっくり休んでいてね。但し、寝るのは禁止! 夜、眠れなくなっちゃうからね」
「「はい!」」
これでOKだ。
あんまりひとりで御者台に座らせているとレイコが怒るから、話し相手をしてやらないと……。
街から充分離れれば、 ダミー人形(オスカー) を座らせて、みんなで客室でワイワイやればいい。 元孤児院(リトルシルバー) では、どうしても雇用主と使用人、という感じで壁ができちゃうけど、狭い馬車の中で向かい合って座っていれば、砕けた会話もできるだろう。
ミーネとアラルは、ちょっと固すぎる。
いや、ふたりの立場としてはそれが普通なんだけど、ミーネは特に私達に対する態度が固いし、ミーネをお手本とするアラルも、当然のことながら、それを真似る。もう少し自然にして欲しいんだよねぇ。
……そう、あの、『女神の眼』のみんなのように……。
* *
「……カオル様はああ言っていたけど、どうするの、ミーネ姉ちゃん……」
「勿論、カオル様とレイコ様がああ言われているのだから、そのようにするのよ。
なぜ私達にそう言われるのかは分からないけれど、おふたりが『そういうことにしておきたい』とお考えなのであれば、私達は『そういうことだということにする』しかないでしょ?
だから、おふたりは『魔法使い』なのよ、決して『御使い様』ではなく!」
「うん、分かった!」
アラルにそう指示しながら、ミーネは首を 傾(かし) げていた。
女神の知恵。
孤児達に対する慈悲。
数々の奇跡。
神馬が 牽(ひ) く、女神の馬車。
動物と言葉を交わす。
それらは、教典の『御使い様の御慈悲』の章に出てくるお話であり、子供用であろうが大人用であろうが、その章が記載されていない教典などない。
どこの国でも、孤児院で教典の読み聞かせをしないところなどないし、一般家庭の子供達も、神殿での礼拝で、そして家庭で両親から、何度も教えられる。
……つまり、今まで見聞きしたことと先程の説明は、はっきりと『私達は御使いである』と宣言したに等しかった。
聡明なミーネにそれが分からないはずがないし、そのことは当然、カオルとレイコも知っているはずである。
(なのに、どうして本当のことを教えておきながら、表向きはそれを隠しているようなことを言われるのだろう……。私達には分からない、何か深いお考えがあるのかなぁ……)
ミーネ、察しが良すぎであった。
……そして、深読みのし過ぎである。
しかし、仕方がなかった。
まさか、御使い様が自分より馬……そのようなポカをやらかすなどとは、思ってもいなかったのだから……。