軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209 人材確保作戦 3

「教えないとなると、ベッドも、水や食料、着替えやその他諸々も……」

「そう、使えるのは最初に馬車に積んだものだけになるわよね、当然。

勿論、ベッドは使えないし、テントはいちいち組み立てなきゃ駄目。そして、宿に泊まった時には、夜のうちに 盗人(ぬすっと) やタチの悪い 厩番(うまやばん) 、その他の宿の従業員とかに積み荷を抜かれるわよね……。

勿論、夜営の時には新鮮な食材、大量の水とかをバンバン出すのもダメ、身体清浄魔法や衣服洗浄魔法とかも自粛よ」

「死んでしまうわっっ!!」

この世界では、 初(しょ) っ 端(ぱな) の、碌に準備もできていない状態での逃避行でさえ、アイテムボックスとポーション作製能力のおかげで楽ができた。以後、アイテムボックスとポーションのない生活は考えられず、常にその恩恵に 与(あずか) ってきたのである。いきなりそれが禁止となると……。

「死んでしまうわっっ!!」

……大事なことなので、2度言っておいた。

いや、普通の旅人は皆、それが当たり前なんだけど。

勿論、『死んでしまう』という方じゃなくて、そういう状態で旅をすることが、だけど……。

* *

「……まさか、こんな落とし穴があろうとは……」

レイコと相談して、仕方なく、ミーネとアラルに情報の一部開示をすることで合意した。

しかし、どこまで教えるか。また、『ふたりに理解できるよう、内容をどのようにアレンジするか』ということについては、まだこれから相談だ。

「アイテムボックスについては、教えざるを得ないよねぇ……」

「うん。で、その説明だけど……。そういう能力を持っている、ってことにする? それとも、無限に収納できる謎のバッグとか収納機能が付いた指輪とかのおかげとして、特別なアイテムを使ってることにする?」

う~む、悩みどころだなぁ……。

狂信者や、絶対の忠誠を、とかいうのは、もうお腹いっぱいなんだよねぇ……。

『女神の眼』のみんなは、女神としての私に対しては狂信者ではあったけれど、普段の私、つまり『同居人の、カオル』には普通に接してくれた。

でもあれは、同じ孤児仲間がいて、みんなでそうしようと決めたからだろう。私の望みをちゃんと理解して。

しかし、アラルはまだ幼い。だから、ミーネはアラルの分も含めて、全てを自分が背負い、自分が判断し、……そして自分が責任を取ろうとしている。

だから、ミーネにおかしな重圧や、判断に苦しむような負担をかけちゃいけない。

シンプルに、何も悩まず、何も考える必要がないように、うまく説明しなくちゃ。

そのためには……。

……。

…………。

………………いかん、いい案が浮かばん! 思考が堂々巡りして、無為に時間が過ぎるのみ……。

「いい考えがあるよ」

「ホント!」

さすがレイコ、年の功!

「で、どんな案?」

期待に満ちて、レイコの顔を見詰めていると……。

「私達が女神の御使いだということにするの。そうすれば、どんな奇跡や不思議現象を見ても驚いたり不審に思ったりしなくて済むし、私達が言うことは絶対だから、自分では何も考える必要がないので、悩んだり心配したりすることもない。……完璧でしょう?」

「思考停止かああああぁっっ! そして、狂信者ふたり、一丁上がりいっ、てかあああああっっ!

それ、私が一番避けたいヤツじゃん!!」

「あ、やっぱり?」

このヤロウ……。

分かっていて、わざとだな。そういうヤツなんだよ、コイツは!!

……いや、別に嫌がらせというわけじゃない。

こうして、考えが行き詰まった時に、わざと全てを台無しにするような案を出して、思考の沼に嵌まり込んでいる状態をリセットしてくれるんだ。

そうして思考が振り出しに戻り、嵌まり込んだルートではなく、他のルートで検討し直すことができる。

……うん、やっぱりレイコは頼りになるなぁ。

で、仕切り直して……。

「アイテムボックスは、私達ふたりとも使える、ってことにしとかないと、色々と面倒だよね。

そして、ポーション、特に治癒ポーションの存在は明かさないと、ミーネ達が怪我をしたり病気になったりした時に面倒なことになる。

……まぁそれは、『実質的には一発で治るけど、外見的や症状的には、ゆっくり治っているように見える』というポーションにして、『凄くよく効くけれど、あくまでも普通の薬の 範疇(はんちゅう) 』ってことで何とかするか……。私達の実家に伝わる秘薬、ってことでいいかな」

それくらいしか、やりようがない。

「ハングとバッドは、女神の愛馬の子孫で、飼い主の言葉が分かる神馬。盗賊や悪党に襲われたときに私が使う爆裂ポーションは実家の秘伝で、レイコの魔法は、女神に与えられた神力。

これらをうまく説明できる、この世界の子供達に対して説得力のある設定といえば……」

「「私達が、女神か、女神の御使いである!」」

「「…………」」

互いに眼を見詰め合う、私とレイコ。

「「だよね~!!」」

* *

「「えええええええっっ!!」」

私達の説明に、軽く握った両手の拳を口元に当て、眼を大きく見開いて驚くミーネと、同じく愕然とした顔で固まるアラル。

「カ、カカカ、カオル様とレイコ様が、魔法使い!!」

うん、そういうことになった。

……『魔女っ子』言うな!

油断してマミらないよう、気を付けよう……。

この世界には、ドラゴンとかの一部の魔物が使うものを除いて、実用的な魔法は存在しない。

でも、そういう『魔法の実在例』があるし、人間も、人生の全てを魔法の研究に懸けた金持ちの研究家とかがいて、ロウソクの炎くらいの火魔法や、 点滴(てんてき) の 滴(したた) りくらいの水魔法くらいは使えるらしい。

昔、ある国の王宮で王族に対してデモンストレーションが行われたことがあるらしく、人間が魔法を使える、ということ自体は、周知の事実らしいのだ。

……その威力は、今言った通りだけどね。

だから、人々は魔法の存在を疑うようなことはない。……というか、その存在を知っている、という方が正しいか。

まぁ、女神の実在と、その奇跡の力を何度も思い知らされているというのに、今更魔法の存在を否定するはずもないか……。

そして当然のことながら、多くの娯楽モノ、つまり芝居、英雄譚、吟遊詩人の持ちネタ等においては、超人的な活躍をする魔法使いが頻繁に登場する。

魔法が 欠片(かけら) も存在しない地球においてさえ、そういう物語が無数に溢れていたのである。魔法が実在するこの世界において、そうならないはずがないであろう。

そう、そして物語以外に『まともな情報』、『正確な知識』を得る方法を殆ど持たない普通の人達は、魔法というものを『そういうもの』だと認識しており、身近で魔法使いを見ることがないのは、『魔法使いは自分の能力を誇示したり驕ったりすることなく、 能力(ちから) を隠して普通に生活しているから』だと思っているのだ。

もしくは、王宮の秘密の研究室とか、辺境の地の高い塔のてっぺんとかに住んでいるとか……。

……そう、物語では大抵そうであるように……。

そういうわけで、この世界では『魔法使い』とか『魔女』とかいうのは憧れのスーパーヒーロー、スーパーヒロインであり、決して悪いイメージじゃない。

そして、女神やら御使い様やらの、宗教とか奇跡とか、そういうのとは違う。

魔法は、あくまでも普通の人間が、自分の努力と才能で辿り着き手に入れた力であり、王宮の近衛騎士団長とか、国で一番の大商家の創設者とか、そういった『人間の力で成し遂げた偉業』に過ぎない。

つまり、『雲の上の人』ではあるが、その存在は不思議でも何でもない、ただの『メチャクチャ凄い人』というだけのことだ。

……普通の人間が、ましてや15歳前後の小娘が到達できるようなものではないけれど……。

い~んだよ、細けぇこたー!!