作品タイトル不明
208 人材確保作戦 2
「……なるほど……」
レイコと一緒に、領主邸の資料庫で例の件の記録を調べている。
勿論、ここを管理しているお役人さんが一緒に来て、色々と手伝ってくれている。
いや、ここの担当者がいなきゃ、どこに何があるのか分かんないよ!
そして更に……。
「これで大体、必要な情報は揃ったかな……」
なぜか、領主様もいる。
いや、『こんな面白そうなこと、 放(ほう) っておけるか!』とか言って……。
「……で、どうやるつもりなのだ?」
「……」
「ちょこっとだけでいいから、教えてくれ」
そんな、『先っちょだけでいいから』みたいに言われても……。
「…………」
「なぁなぁ、作戦を、ほんのちょびっとでいいから……」
……ウザい。
まぁ、領主なんか、責任ばかり大きくて、ルーティンワークのつまらない仕事が多くて、自由に遊びに出ることもできない、退屈な仕事なのだろう。
自分の指示に反論したり 諫言(かんげん) したりしてくれる部下もおらず、使用人達はただ自分の顔色を 窺(うかが) うのみ。そんな生活の、どこが楽しいのか。
下手すれば、部屋住みの三男坊とかの方が、よっぽど自由奔放に楽しく遊び回れて幸せなんじゃなかろうか。
権力や身分は、そこそこあればいいよねぇ。
あまり大きすぎたり多すぎたりすると、人生、楽しくなくなるからねぇ。
私があまり目立つのを好まないのも、そういうのがあるからだ。祭り上げられ、神輿に担ぎ上げられて、常に人の目があって自由にできない人生なんか、全然楽しくない。
多すぎても困らないのは、お金だけだよ! うむうむ。
でも、いくら娯楽に飢えているであろうことを気の毒には思っても、ウザいものはウザい。ここは、穏便な理由をつけてお引き取り願おう。
「ウザいから、さっさと自分の仕事に戻ってくださいよっ!」
(領主様のお手を 煩(わずら) わせるのは申し訳ないですから、ここは部下の方と私共にお任せください!)
「え……」
引き攣った顔で固まった、領主様。
え、何で?
「……カオル、多分、口に出した台詞と心の中で 呟(つぶや) いたであろう台詞が、逆……」
「あ……」
信じられない、という顔をしている領主様と部下の人の様子から見て、多分、レイコが言う通りなんだろうなぁ……。
失敗し(シクっ) た!!
* *
「カオルうぅ!」
「ごめんってば!」
うん、一歩間違えれば、不敬罪で大変なことになっていたかもしれない。苦笑いしながら執務室へと戻ってくれた領主様、やっぱり人間ができた、いい人だな。
そして、同じく苦笑いしていた部下の人と一緒に半年前の調査や取り調べの記録を全て確認し、ミーネ以外の3人の孤児達が養子として引き取られていった先、そして隣国側の仲介者のことを全て把握した。勿論、メモを取ってある。
当時、領主様は悔しい思いをしながらも自領の者である二代目の孤児院院長を処罰することしかできなかったらしいけど、当然のことながら、この国の上層部や他領の領主、孤児院等の全てに情報を廻し、連中が同じようなことを繰り返せないようにしたらしい。
……少なくとも、この国においては。
他国についてはどうしようもなかったらしいが、それは仕方ないであろう。国内の他領に情報を廻して警告しただけでも、立派なものだ。
まぁ、領主によっては、僅かばかりとはいえわざわざお金を払って、役立たずで金を食うだけの孤児を引き取ってくれるのであれば良いことではないか、と言って取り合おうとしなかった者も居たそうだけど、それは仕方ない。人、考えはそれぞれだし、世の中、馬鹿な者もいる。
孤児院ではなく、浮浪児をスカウトすればいいのに、と思うんだけど、孤児院だと幼い時から読み書きや簡単な算術を教えているし、行儀やら一般常識やらの 躾(しつけ) や教育もしているし、そして健康状態もきちんと管理されているから、……つまり、そういうことなのだろう。
言い方はちょっと悪いけど、『野良犬を拾うより、ペットショップかブリーダー、もしくは里親 斡旋(あっせん) 組織でちゃんと躾済みで、予防注射とかもしてあるやつの方がいい』ってことだ。
最初に少しお金が掛かっても、結果的にはその方が安上がり、という……。
人間を犬や猫と同列で論じるのは不謹慎だけど、ま、子供達を実質的に奴隷扱いするような連中なのだから……。
よし、調査完了! あとは、領主様のところに顔を出して、もう一度さっきのことを謝って、引き揚げだ。
……明日の干物とジャーキー、ちょっと張り込まなきゃなぁ。実家から送ってきたということにして、飴玉も付けるか……。
あと、頑張って資料確認を手伝ってくれたおじさんにも、何か贈ろう。
お酒なんか、喜んでくれそうだな。私とレイコ用に能力で出している、地球のやつ。
飲めなければ、換金してもらえばいいし。多分、そこそこの値段で売れるだろう。
* *
そして、3日後。
全ての準備が調った。
情報入手、ヨシ!
お得意さんへの商品の納入と、しばらく仕入れの旅に出るから店はお休みとの告知、ヨシ!
……かなり渋られたけど、仕方ない。多分向こうもそれくらいのことは分かってくれていて、ちょっと愚痴を溢しただけだろう。
家の防犯対策、ヨシ!
地下1階から下へ降りる階段は、アイテムボックスから岩を出して塞いでおいた。
あんなところにスッポリと嵌まった岩を、 盗人(ぬすっと) 如(ごと) きにどうこうできるわけがない。
釣り用のボートは、アイテムボックスに収納済み。
地下1階には、孤児院の時の家具やらゴミ同然の無価値なものやらを少し置いて、金目のものは全部アイテムボックスに収納した。
……いや、『餌付け』は良くないからね。『リトルシルバー』に盗みに入ったら稼げた、なんて既成事実を作ったら、後が面倒だ。
そして勿論、罠を仕掛けた。
うん、来るだろうからねぇ、美味しくて高値で売れる干物やジャーキーの製法の秘密を探りに、とか、金持ちの娘が隠しているであろう金貨や宝石とか、色々なものを求めて……。
勿論、あちこちに貼り紙をしたり、立て札を立てておく。凶悪な防犯装置があるから、侵入者の命の保証はしないこと。そして、罠には毒が塗ってあることを、はっきりと明記して。
一応、罠は引っ掛かっても死なない程度にしておくか。
トゲに塗るポーションは、激痛と発熱、そして患部が腐り落ちそうな不気味な色に変色して腫れ上がるやつにするかな。罠の 側(そば) には、『解毒薬あり 〼(ます) 。金貨10枚』と書いた貼り紙でもしておくか……。
私達が戻るまで、いつ死ぬか、いつ手足が腐り落ちるかと、気が気じゃあるまい。ふはははは!
「鬼か!」
「いや、レイコもそれくらいやるじゃん、いつも。あの、涼子ちゃんに付きまとっていたストーカー野郎を嵌めた時に……」
「その話はするなああああァ~!!」
うん、『認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを』ってやつだよね。
「ミーネとアラルの準備……、ヨシ!」
いや、ふたりには元々荷物というか私物というか、そういうものは一切なかったから、荷造りもクソもない。
そもそも、私達には『荷物を纏める』だとか、『持っていくものを選択する』というような概念がない。全部アイテムボックスに突っ込んどきゃいいんだから。
「ヨシ!」
「私はスルーかいっ!」
レイコが何か 喚(わめ) いているけど、とにかく、ヨシ!
アラルはよく分かっていないようだけど、ミーネは完全に理解している。
私達が、ミーネの昔の仲間達のために危険(笑)を冒そうとしていることを。
少し後ろめたそうな、申し訳なさそうな、そして心配そうな眼。
そりゃまぁ、私とレイコのことを、 ただのお金持ち(ふつう) の子供だと思っているだろうからねぇ。……でも……。
「カオル、ふたりに教えるの?」
「え、何を?」
レイコが、また何やら言ってきた。
「いや、一緒に旅をするなら、アイテムボックスのことと馬達と会話ができることはバレるでしょ。
まさか、旅の間ずっと、アイテムボックスを使わず、馬達とも会話しない、ってことはできないでしょうが。……あまりにも不便すぎて……」
あ。
あああ。
「あああああああっっ!!」
気が付かなかった……。