軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

207 人材確保作戦 1

「じゃあ、ミーネが売られたのは、この国の北西側に接する国、つまり海の反対側ってことね? それなら、移動は陸路になるか……」

私がそう呟くと、横からレイコが……。

「人材確保のために、陸路を行く。……まさに、『 陸(リク) ルート』……」

うるさいわっ!

とにかく、ミーネから売られた時のことや、向こうでのことを色々と聞き出した。

まぁ、当時は『売られた』とは知らず、自分はお金持ちの商店主に養女として引き取られたと思っていたらしいけど。

そして、状況に気付いた後も、孤児院の新しい院長は何も知らず、ただ騙されただけ、と思っていたらしい。私が本当のことを教えるまでは……。

「なっ! おじさん……、いや、あの中年のクソおっさんが、全ての元凶!! いつか必ず復讐してやる……」

「いや、とっくに捕まって、処罰されてるから!」

というような遣り取りもあったけれど、ま、事情聴取は順調に終わった。相手が完全に協力的なんだから、当たり前だけど……。

そして次の情報収集先は、あそこ。

そう、領主様のところだ。

ここの経営者を取り調べた時の記録を見せてもらわなきゃならないし、一応、きちんと話を通しておかなきゃならないからね。

あの時、領主様は経営者を捕らえて処罰したらしいけれど、それ以上のことはできなかったらしいんだ。

……でも、それは仕方ない。決して領主様がサボったり、賄賂で 日和(ひよ) ったりしたわけじゃない。

領主様は、他国に官吏を派遣して調査させることも、他国の商人を取り調べることも、そして捕縛することもできない。

そして勿論、一応は正式な手続きを経て養子に出された、今は既に他国の者となっている子供達を、何の証拠もなく一方的に奪い返すことも……。

何しろ、自国の孤児院が礼金を貰って正規の手続きで養子に出しており、その書類にはちゃんと領主様の部下のサインが入っているのだから。これでは、下手に手出しすると相手国から自国の王宮にクレームが来て、領主様の立場が 危(あや) うくなる。

これでは、手出しできるはずがない。

……でも。

私達は、この領地の者でも、この国の者でもない。

もし何かしでかしたとしても、『そいつらは他国の者だ、うちは関係ない』と言えば済む。

そして領主様は、当然のことながら、私達には『有力な実家がバックに付いている』と思っているだろうし、隠れ護衛と、何か問題が起きた時のためのお目付役がこっそりと見守っていると考えているだろう。『なんちゃってお目付役』という触れ込みのレイアではなく、本当のお目付役が。

……そう、もし誰も止める者なく私達が何かをしでかしたとすれば、それはお目付役が『問題ない』と判断したということであり、それ即ち、『実家にとっては、それくらいどうとでもなる、何の問題もない些細なこと』だということである。

ならば、『貴族としては』善人で、孤児に対する配慮をしてくれる領主様は『賭ける』だろう。

たとえ負けても自分には何の損失もない、その賭けに……。

よし、とりあえず、嘆願書を出そう。

* *

あっさりと、面会の許可が出た。

『リトルシルバー』の免税願いの時は、ただ嘆願書を出して、使いの人が返事の手紙を届けてくれただけで、別に領主様に直接会ったわけじゃない。

でも、今回使いの人が届けてくれたのは、返事の手紙じゃなくて、招待状だった。

うん、『招待状』。召喚状とかじゃなく。

まぁ、私達を他国の貴族か何かの娘だと思っているから、 下手(したて) に出てくれているのだろう。それに、今回はただ私からの嘆願書を読んだだけで簡単に許可できるようなことじゃないだろうから、直接会おうとするのは当たり前だろう。

……で、指定された時間に領主邸に行ったわけだ。私とレイコのふたりで。

いや、話だけなら私ひとりで充分だけど、 荒事になった(まんいちの) 場合には、レイコがいてくれた方が安全だからね。

大勢の敵に囲まれた状況から脱出するには、やはりポーション能力より魔法無制限の方が圧倒的に便利だろう。

領主様と大立ち回りを演じたりすれば、当然のことながら、この街に住み続けることはできない。その場合は、ミーネとアラルを連れて脱出、逃避行だ。なので、あまり無茶をやらなければ、魔法の行使もやむなし!

ポーション能力の限界は、この前、充分思い知らされたよ。

ミーネとアラルは、念の為、地下室に隠れさせておいた。地下室には、ちゃんとトイレも設置してあるから安心だ。そしてミーネには、アラルに文字の読み書きや色々なことを教えてあげるように指示してある。

そして、使用人に案内されて、領主様に会って挨拶して、向こうからの最初の言葉が……。

「飛び抜けて旨い干物と干し肉を売っているそうだな。うちにも納入してくれ!」

何じゃ、そりゃあああ~~!!

いや、旨いけどね。

ポーション製の汁に浸け込んで、レイコが学んできた製法で作る。化学変化により旨味成分が凝縮されて、何とも言えないあの味になる。その辺りの魚屋や肉屋、市場のおっさんとかが適当に干したやつとは、モノが違うよ!

……って、今はそんな話をしに来たわけじゃない!

「……は、はぁ、恐悦至極、光栄の至り……」

そう言って、適当に返事をすると……。

「あ~、よいよい! そのような堅苦しい喋り方はしなくてよい。面倒だから、普通に喋ってくれ」

どうやら、上下関係の作法やしきたりにはあまりうるさくない人らしい。

こっちも、王族とタメ口を利いたことのある身だ、そう言ってくれるなら……。

ツンツン!

分かってるよ、そう 突(つつ) かなくても、さすがにタメ口じゃ喋らないよ!

くそ、レイコのヤツ、私がそこまで馬鹿だとでも思ってるのか?

いや、それは置いといて……。

「はい、後程届けさせます。もしお気に召しましたら、次からは御注文いただければ……。

但し、しばらく皆で旅に出ますため、次の納入はその後となりますが……」

「何、旅に出るとな? 里帰りか何かか? どれくらいの期間になるのだ?」

よし、いい導入部だ。

「ちょっと、虚偽の申し出により不当に拉致されました子供達を奪回しに行こうかと思いまして……」

「な、何!」

驚いて、思わず椅子から腰を浮かせかけた領主様。

ま、そりゃ驚くか。小娘ふたりがそんなことを言い出せば。

「…………」

黙り込んじゃってるけど、多分、頭の中で色々と考えてるんだろうな。

私が予測したとおりの結論になってくれるといいんだけど……。

「……詳しく聞こう」

よっしゃ!

* *

「……そういうわけで、取り調べの時の記録、特に相手方についての情報が欲しいのですが……。

それと、『領主様の黙認』という裏取引を……」

さて、領主様は、どう出るか。感触としては、良さそうな感じだけど……。

「……記録を見せるのは構わん。しかし、黙認はできん!」

え?

しまった、領主様には内緒で、こっそりやるべきだったか!

いや、しかし、売られていなくなったはずの孤児達の姿があれば、すぐにバレて調査されるよねぇ……。イカン、ちょっとマズいことになっちゃったか……。

「誰が黙認などするものか! 公認だよ、公認! 立場上、具体的な命令をすることはできんが、孤児支援組織『リトルシルバー』による孤児救済のための活動に対し、我が領は全面的支持を宣言する!!」

……あれ?

『貴族としては、いい人』って聞いていたんだけど、これ、普通に『いい人』じゃね?