作品タイトル不明
204 レイア、やりたい放題!
「『おかね』がなくなったわよ。おかわり!」
うちにやってきて、開口一番、そんなことを平然と言ってのけたレイア。
「ふっっっざけんなよオオオオォッッ!!」
大声で怒鳴りつけた。
ああ、本気で怒鳴りつけたよ!
だって、この街で一番高い宿の、一番いい部屋の10日分の宿賃(朝夕の食事付き)を前払いして、金貨30枚(日本での300万円相当)を渡したのは、5日前なんだぞおおおおぉっっ!!
「どうしてそんなに早くなくなるんだよっ!」
「……さぁ? 使ったからかしら?」
のほほんと、そんなことを言いやがるレイア。
「放せ! コイツを殴らせろオオオオォッッ!!」
私を 羽交(はが) い締めにして、がっしりと抱き留めるレイコ。
いや、殴らせろよ!!
はぁはぁはぁ……。
* *
「あのね、レイアちゃん。『お金』っていうのはね、手に入れるのが結構大変なんだよ。蛇口を捻ればいくらでも出てくるというものじゃないんだよ?」
うん、知らないものは仕方ないよね。だから、教育に務めた。頑張って。
そうしたら……。
「それくらい、知ってるわよ。だから、さっさと集めてきなさい!」
「うがああああああぁ~~!!」
「どうどうどう……」
また、レイコに羽交い締めにされた。
レイコは、セレスのぽんこつ具合を知らない。だから一応、『転生させてくれて、チート能力をくれた女神様』として 敬(うやま) っている。なので、コイツに対してもまだセレスと同じ女神様として敬意を抱いているのだ。
……でも、既に私には、そんな 敬意(モノ) は欠片もねぇよ!
「放せえぇ! 殴らせろおぉ!!」
見た目は少女でも、実年齢は何万歳か何億歳だろう。だから、殴っても児童虐待にはならないから安心だ。心ゆくまで、思い切り殴れる!
* *
「はぁはぁはぁ……」
……落ち着いた。
コイツは常識がないだけで、悪人ではないはず。
……多分。
そうであるに違いない。
そうであってくれ……。
「ちょっとついてきてくれる? ミーネも来て頂戴」
「?」
「はい!」
そして、レイアとミーネのふたりと、当然ついてくるレイコとアラル、つまり我が家の全員。
行き先は……。
「ここは?」
「干物の加工部屋よ」
レイアの質問にそう答えたけれど、レイアは魚の干物などというものを知っているのかどうか……。
「ミーネ、これを干物にして頂戴」
「え? ……あ、はい!」
私が戸棚から出す振りをしてアイテムボックスから1匹の魚を取りだしたけれど、誰も不思議に思っている様子はない。
いや、レイコとレイアは当たり前だろうけど、ミーネとアラル、キミタチは少し疑問に思おうね?
……って、レイコとレイアって、一字違いだな。
ま、聞き間違えるほどには発音が似ていないし、レイアはどうせすぐいなくなるだろうから、問題ないか。紛らわしいから名前を変えろ、なんて言えないよねぇ……。
とか考えている間にも、さっさと手早く魚を開いているミーネ。
レイアはなぜ私がこんなことをさせて、そしてそれをみんなに見せているかは理解していないだろうけど、時間に関する感覚が私達とは全く違う種族だから、たとえ一日中見させていたとしても、気にもせずに眺めていることだろう。
勿論、作業に慣れてきたミーネは、たった一匹の処理にそんなに時間を掛けるようなことはないけれど……。
そして、ミーネが大体の下処理を終えたところで……。
「レイアちゃん。今、この子、ミーネがやった作業は、うちで作っている干物の作業工程の一部なの。この他にも、事前に市場で魚を仕入れたり、洗っておいたり、この後は塩を擦り込んだり調味液に浸けたり、冷暗所や日陰で干したり、街に売りに行ったり……。勿論、そのためには事前に販売先を探して売買の約束をしておかなきゃならないし。
……で、そこまでして売って、魚の仕入れ代金や塩、その他の経費を抜いた利益は、1枚当たり、小銀貨2枚くらいなの。あなたがこの5日間で使ったお金、宿代は別にしての金貨30枚の、1万5000分の1、ね」
「……え?」
きょとんとした顔の、レイア。
「1日30枚の干物を作るとして、500日分。週2日休みとして、約2年。この世界の人間の平均寿命が50歳として……」
そして、右手を伸ばし、人差し指で、びしぃっ、とレイアを指差した。
「つまりあなたは、この子が自分の寿命のうち25分の1を費やして稼ぐお金を、たった5日間で無駄に使っちゃったわけよ! あなたにとっては取るに足らない下等生物かもしれないけれど、この世界に生を受けて、一所懸命に生きている生命の、25分の1を無駄に!!」
「え……」
呆然とした顔の、レイア。
いや、分かってる。
私の言い分はメチャクチャだし、酷いどんぶり勘定だし、あのお金はミーネが稼いだものではなく私が昔ポーションを売り捌いて稼いだ金貨を両替したやつだし。
でも、コイツがセレスと同系列の生物なら、……そしてセレスと同じくその本体の超劣化版なら、勢いに押されて流される可能性は充分にある。あの時のセレスのように……。
いくら私達がレイア達から見て下等生物であっても、憐れな生物に対する憐憫の情の幾ばくかはあるだろう。あまりにも隔絶した生命体である本体ならばともかく、セレスと同レベルまで超劣化したバージョンであれば……。
そう、私達が必死に生きるアリンコを見て抱く程度の感情は……。
「25分の1……。寿命全ての、25分の1……。この弱く憐れな生命のそれを、私が5日間で、食べ物と飲み物と遊びと悪ふざけで、一瞬のうちに……」
ありゃ、思った以上に効いてる?
年数で言ったんじゃ、この連中には実感が湧かないと思ったから、『全寿命のうち、どれくらいを占めるか』という表現にしたんだけど、この連中にとっての『寿命の25分の1』というのがインパクトがあったのか、それとも、僅か50年しか生きられないという儚い生命にとっての2年という年月を、自分にとっての数億年に等しいものと捉えたのか……。
とにかく、何だか反省しているようなので、良しとしよう。
このまま、勢いでたたみ掛ける!
「分かった? この世界では、『お金』というのは大事なものなの。
割と簡単に手に入れられる者もいるけれど、大半の者はそうじゃない。そしてお金があれば何でもできて絶対に幸せになれるかといえば、そうじゃない。……でも、お金は幸せになるための道具としては役に立つの。
お金で全ての幸せは買えないけれど、そのうちの大半は買えるのよ……」
後ろで、レイコが『買えるんかい!』とか呟いているけれど、スルー。ミーネは、こくこくと頷いているし。うん、ミーネは『お金』というものの怖さもありがたさも、骨身に染みて知っているだろうからねぇ。
「……ごめん」
ありゃ、急に素直になったぞ……。ちょっと、予想外だ。
こりゃ、正攻法で行けるか?
「レイアちゃん、セレスの監査に来たっていうの、あれ、嘘だよね?」
「うっ……」
あ、やっぱり。
「いや、別に構わないよ。私達に迷惑が……、『あまり』迷惑がかからないなら、気の抜けない大変なお仕事のたまの息抜きくらい、誰に文句を言われる筋合いもないでしょ。
セレスみたいに、担当している区域のたくさんの生物や次元世界のために、ずっと『歪み』の監視をしてくれているんでしょ? それくらい、当然の権利だよ。気にしない気にしない!」
「え……、あ、うん、まぁ……」
あれ? 何だか歯切れが悪いなぁ。
「レイアちゃん、担当区域の管理は大丈夫なの? もし今、レイアちゃんの担当区域で『歪み』が発生したら……」
そしてレイコが、心配そうにそう言うと……。
「ああ、大丈夫よ」
なんだか、軽く流されたぞ?
「ここのセレスティーヌに相当するレベルの『私』は、今もちゃんと担当宙域の管理をしてるわよ。
私は、その『私』が創った、更にそこから派生した低位存在で、レベルを下げた分身体のひとつだから……」
「ぽややん状態のセレスより更に低レベルの分身体、キタ~~!!」
知能レベルを下げすぎて、知識や神様的な能力はともかく、普通の思考力や知性は既に普通の人間以下になっとるやんけ~~!!
そりゃ、チョロいはずだよ……。