作品タイトル不明
7.地下に何がある?
メルディアン公爵邸の中は、荒れに荒れていた。公爵は、あまりの進展のなさに腹を立て、爪を噛んでいた。
「まだか!……まだ、メルンシアは見つからないのか!?」
メルンシアの行方不明は事実だった。
ただ、新聞屋には言っていないことがひとつだけある。
「メルンシアの行方不明は王家の責任だ……!!あのクソ王太子が……!!何の役にも立たないじゃないか!あいつは畑にぶっ刺さってるカカシか!」
あの日。
一週間前、メルンシアは王城の地下を探ってみる、と話していた。
もしかしたら、ローレンシア公爵家と王家の間には隠された秘密があるかもしれない、と賢いメルンシアは考えたのだ。
そして、その日以降、メルンシアは帰ってこない。
これだけを聞けば王家が怪しい。
だが、ネイサンは何も知らないようだった。
メルンシアが行方不明になったと聞いた時、ネイサンは、相当動揺し、慌てふためいていた、と報告を受けている。
だから、何だという?
メルンシアを守るとか吐いておきながら何も出来なかった腑抜けが!
公爵はステッキで、床を強く叩いた。
「ええい!まだメルンシアの所在は掴めないのか!!このろくでなし共が!!」
勢いに任せて、執務机の上を薙ぎ払う。
騎士は顔を青ざめながら、平身低頭した。
「お嬢様の行方は……まだわかっておりません、申し訳──」
「謝って何になる!いいか。今日中に見つけられなかったらお前の首と胴体は泣き別れになるだろうな!この言葉を忘れるなよ!?」
「っ……そ、れは」
「役に立たんお荷物は我がメルディアン公爵家には不要だ!!娘ひとり守れない腑抜け共が!!」
メルンシアはどこに消えたのか。
メルンシアは王城に行って、消えた。
それしか分かっていない。
彼女の持ち物が落ちていたという報告も、彼女が連れ去られたという話も聞かない。
メルンシアの最後の目撃情報は、地下に降りていったという、騎士の報告だけ。
そこで何かあったと考えるのが筋だ。
だけど、王家は誘拐事件とみている。
「……王家は、王太子はなんと言っている!?」
「先程お伝えした通りです。外部犯の可能性が強いとの見解で、ネイサン王太子殿下はご自身の権限で近衛騎士を動かしていると──」
「それはさっきも聞いたわ!!そうではない!何かわかったことは無いのかと私は聞いているんだ!……クソ、ここにいても仕方ない!あの無能どもと顔を突き合せて、話をせねば……!おい、支度をしろ。城に向かう!」
メルディアン公爵は、穏やかで、滅多に声を荒らげることはないひとだ。
だけど、本来はこっちが素なのだろう。
公爵が支度のために立ち上がると、その時、執務室の扉が叩かれた。
滑り込むように入室したのは、メルディアン公爵家に仕える従僕だ。
彼は頭を下げると、すぐさま報告にうつった。
「ご報告です!ネイサン王太子殿下は、ローレンシア公爵家の令嬢に連行状を取得したとのことです!犯人は……ローレンシア公爵家のご令嬢、フローラ・ローレンシアです!」
フローラが主犯とは、にわかには考えられなかった。
「なに……!?」
(メルンシアが邪魔になったのか……?)
だけど、フローラはネイサンとの婚約を解消しようとしていたという。
それなら、なぜこのタイミングで?
いや、理由などどうでもいい。
メルンシアが無事にこの手に戻ってくるなら、それで構わない。
公爵は深くため息を吐いた。
怒りと動揺と混乱で、頭が鈍く痛む。
元々公爵は頭痛持ちだった。従僕に薬を持ってこさせると、取り急ぎそれを水で流し込み、それから公爵は顔を上げた。
「まずは、王太子殿下に拝謁願おう。我が娘をこんな事件に巻き込んでくれたのだ。責任を負ってもらわねばな」
もし、フローラが犯人なら。
その動機は、間接的原因は、王太子そのひとにある。
ネイサンが、立場もわきまえずにメルンシアを手元に置こうと欲をかくから、こうなったのだ。
(あの子の願いで、婚約者は持たせていなかったが……)
こんなことなら、ネイサンとは昔に縁を切らせて、どこかに嫁がせておけばよかった。
そうすれば、こんな面倒な関係に巻き込まれることもなかったはずだ。
この国には愛人文化があるが、それなら海外に出してしまえばいい。
幸い、隣国のレルエピシアは一夫一妻を王国法で決められている。
女神の教えだとかで、夫婦は愛し合うものという考えらしい。
だから、レルエピシアでならメルンシアは幸せになれるはずだった。
……今更言っても仕方の無い話だが。
だいたい、婚約者がいるくせにメルンシアに想いを寄せるなど、都合がいいにも程がある。
そんなにメルンシアを愛しているなら、フローラとの婚約を破棄するなり、解消するなりして、メルンシアを本妻にするくらいの気概は見せてもらわねば。
(だから言ったんだ!
あの優男はやめておけ、と)
案の定、あの口だけ男はメルンシアを守りきることが出来なかった。
だいたい、メルンシアから聞くネイサンの言葉とやらは、全て上辺のものにしか聞こえなかったのだ。
メルンシアをいかに刺激せず落ち着かせようとしているか、そのことしか考えていないような内容がほとんどだ。
公爵は、正直、フローラよりも、ネイサンの方に頭にきていた。
「今の若者はできもしないくせに、守るとか抜かす。心底、愉快だよ。これが喜劇だというのなら、最後まで見てやらなくもない。もっとも、当事者にされるのは非常に不本意だがね」
公爵は侍従からコートを受け取ると、執務室を出た。
向かうは、王城。
──玉座の間だ。