軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8.許せない、という感情

決行は、その日の夜。

私とミリアとアシェルの三人は、その足で城に向かうことにした。

(やっぱり、ふたりを巻き込むのはどうかと思って私ひとりで向かおうと思ったのだけど)

今から私がすることは紛れもない、王家への反逆行為。

もし、これが失敗すれば、私を待っているのは処刑場であり、断頭台だ。

だから、ふたりには、オー・ヴォワールで待っているよう説得を試みたのだけど──

『姉さんがもし、逆の立場なら。

……それに頷けると思う?』

『それは』

『酷いわ、姉様。こんな時に、大人しく待っていられるとでと思う!?もしそうなら、姉様は私たちのことを侮りすぎよ!!』

『僕は言ったよ、姉さん。国を出よう、って。だから、もし失敗しても。その時は亡命すればいいだ。万が一に備えて、旅券は手配済みだからね』

ミリアとアシェルにそこまで言われて、断れるはずがない。

それに……正直、嬉しかったのだ。

双子にここまで言ってもらえて。

彼らとはら確かに血の繋がりはないわ。

だけど、それが全てではない。

血が繋がっていなくても、ミリアとアシェルは、私にとって誰よりも大切なひとだ。それは、紛れもない事実だった。

「この先、ねっ」

ミリアが小声でいい、バルコニーとバルコニーの間を軽々と飛ぶ。

(さ、さすがの身体能力……!!)

アシェルとミリアは夜の城を軽々と駆け抜けた。

途中立ち寄った、オー・ヴォワールで、城の警備図は確認済み。ふたりはそれを完璧に頭に入れたようで、僅かな警備の隙を掻い潜って夜の城を駆け抜けた。

そして──あっという間に、目的地に辿り着いた。

(す、すごい……。これがミリアとアシェルの実力)

双子の思わぬ姿にドキドキしていると、先にバルコニーに着地したミリアが低くふせながら囁いた。

双子はもちろん私も、黒のフードを深く被っている。

「ここが、王太子の私室のバルコニー」

続いて、私を抱えたアシェルがバルコニーに降りる。

ミリアもアシェルも、相当の距離を走り、跳んだにも関わらず、息ひとつ上がっていなかった。

アシェルに丁寧にバルコニーに降ろされて、彼が私を見た。

はちみつ色の瞳が、気遣うように私を見る。

「……姉さん、本当にあの男と会うの?」

「ええ。もちろんよ」

「だけど会って何を話すの?メルンシアの居場所なんて知ったところでどうでもいいだろ」

「だけど、メルンシアの最後の目撃情報は、1階の地下室に続く、階段前だと聞いたわ。理由は分からない。だけど、メルンシアは地下に向かった。それなら、彼女は地下にいる可能性が高いわ」

私の言葉に、ミリアが膝を抱え、小声で呟いた。

「メルンディア公爵の命で、地下を守る近衛騎士は、メルンシアを見逃したんでしょ?近衛騎士第3隊は、メルンディア公爵のお抱えだものね」

「メルンディア公爵と、メルンシアには何か目的があった。だから、メルンシアは地下に向かったんだわ。それ以降、彼女の目撃情報は途絶えている。……ネイサンが何か知っているかどうかだけでも、確認しておきたい」

ミリア同様に、私も呟くように言葉を返すと、声を潜めてアシェルも言った。

「……オー・ヴォワールで確認した情報だ。メルンシア・メルンディアが地下に入ったっていうの間違いない情報だと思う。それでも、僕は反対だ。姉さんがネイサンと会う必要は無いと、僕は思う」

「アシェル……」

顔を上げると、アシェルは真っ直ぐに私を見つめていた。

ちょうど雲の狭間から月明かりが顔を出して、彼のはちみつ色の瞳が黄金のように煌めいた。

「地下に行くだけなら、僕とミリアがいれば可能だよ。姉さんがあんなクソ野郎に会う必要、ある?」

「……ごめんなさい、姉様。私も、どう意見」

「ミリア……」

困ったように眉を下げるミリアに、私はまつ毛を伏せた。彼らの言うことはよく分かる。

私も正直、進んで会いたい相手ではない。

だけど──それでも、会わなければならない理由があった。

なぜなら。

「メルンシアの居場所を尋ねる。確かにそれが目的だけど。でも、それだけではないのよ」

さらに声を潜め、私はふたりを見る。

(これは、私のわがままだわ)

どうしようもない感情を優先させたいと思っている。ただの、感情論。

だけど、この機会を逃したらもう、一生タイミングには恵まれないと思ったのだ。

だから、今会うのだ。ネイサンに。

私は苦笑を浮かべて、ふたりを見た。

「ネイサンに、文句が言いたいの。ただ、それだけなのよ。私への嫌がらせで 私の妹(ミリア) を巻き込んだ。その挙句に、勝手に儀式の生贄に捧げるですって?……許せないのよ」

これは、私怨だ。

個人的な感情からくる怒りだ。

「私はただ、単純にね。私のために、ネイサンに会いたいの。──このままでは、気が収まらないもの」

ずっと、押し殺してきた【許せない】という感情。

歩み寄る選択肢を取ったこともあった。

だけど、そんな甘いことを言っていられる相手ではないと知った。

大切なものに手を出されてもなお【許す】という手段を選べるほど、私は優しくなかった。

私のシンプルな感情論に、ミリアはびっくりしたように目を瞬いた。

アシェルもまた、目を丸くしていた。

驚くふたりの表情はいつもより幼く見えた。

そして──やはり、双子だわ。

ふたりの顔は、よく似ていた。