軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6.自作自演、ではないとしたら

私たちは、地下の隠し通路に降りた。

私たちが隠し通路に身を隠すのと、玄関扉が壊されるのはほぼ同時だった。

間一髪、間に合ったようだ。

「間に合ってよかったわ!最悪、毒刃で眠らせるっていう手もあったけど……」

地下通路を歩きながらミリアが可愛らしく首を傾げた。

「扉は施錠したし、偽装もしてある。すぐには気付かれないと思うよ」

アシェルがランタンを手に、先を歩き始める。

この隠し通路は、万一に備えて造ったものだ。

(こんなに早く出番が来るとは思わなかったけど、ね……!)

丘の上に建つこの家を買った理由は、その地下を通路にできるからだ。

私はこの家と土地を買いあげると、オ・ヴォワールに所属している職人に依頼し、この地下通路を造った。

歩き始めるとすぐに、三つに別れた通路が出てくる。

ミリアが首を傾げて私を見てきた。

「確か次の道は左、よね?姉様」

「ええ、正解よ」

答えると、アシェルが魔力灯を入れたランタンを掲げて、左の道を照らす。

「その次は真ん中で、次は一番右だよね」

「……すごい。よく覚えてるのね」

こんな時なのに、思わず弟の出来が良くて感心してしまう。

驚くと、アシェルがクスッと笑って答えた。

「これでも、オー・ヴォワールで生まれ育った身だからね」

「すごおい!正直私はあんまり自信ないんだけど……でも!アシェルがいるなら安心ねっ」

パチン、と手を合わせてミリアが微笑む。

それに、アシェルがため息を吐いた。

「ミリアと組むといつもこんな感じで、記録関係は僕の担当になるんだ。ミリアだって、できないわけじゃないのに、面倒だからって僕に押し付けてくるんだ。どう思う?姉さん」

「うーん。そうねぇ……」

「アシェル、 記憶力いい(そういうの得意) でしょ?ひとには適材適所ってあるし、得意なひとが請け負ったほうが事故だって少ないわ!ね?そう思うでしょ、姉様?」

「うーん。そうね……」

どっちの言いたいこともわかる。

八方美人な私の答えに、ミリアはくちびるを尖らせたけれど、その話を続ける気はなかったらしい。彼女はちらりと背後を振り返った。

「でも、ここの迷路は流石だわ。道を知らないひとが入ったら、まず迷う」

「地下に続く扉を見つけても、僕らに追いつくことはできないだろうね」

「早速役に立ったわね。この地下通路」

私は答えながら、ショールの両端を掴んで胸元に引き寄せた。

地下に降りる前にミリアが持ってきてくれたものだ。地下通路は冷えるから、と。

それにしても──

「メルンシアが誘拐されたなんて……どういうことなのかしら」

呟くように言うと、ミリアがグルンッとコチラを振り返った。

「それ!!本当なの?なんだか怪しいわ」

彼女の言葉に同意だ。

(メルンシアを誘拐するメリットは?)

身代金目当て?

……だとしても。

よりによって、私とネイサンが婚約を解消し、ミリアとの再婚約に向けて話を進めている、この時に?

それとも、私が知らないだけでメルディアン公爵家はトラブルを抱えていたのかしら……?

私怨か、それとも、別の目的か。

「自作自演、じゃない?」

そこでアシェルが口を開く。

顔を上げると、魔力灯に照らされて、アシェルはちみつ色の瞳がいつもより濃く見えた。

「自作、自演……」

そんな、まさか。

だけどその可能性は十分考えられた。

(でも、そこまでするかしら……)

……するかもしれない。

私の思考に補足するように、アシェルが言った。

「いくらなんでも、突然すぎる。いきなりやってきて、誘拐事件の首謀者だって?連行状も持っているようだし……そんな早業ができるのは王家だけだ」

(もしそうなら、ネイサンの狙いは何かしら。

……もしかして、私を貶めるために?)

その推測は、あながち間違いともいえなかった。

地下通路を出ると、そこは王都の大通りだ。

私たちは人混みに紛れるようにして歩き、私は特徴的な瞳を隠すように俯いた。

そして、ふたりに聞こえる最低限の声で言う。

「例の作戦だけど……決行は今夜にするわ」

「今夜!?」

「そうだね。僕もそれがいいと思う」

ミリアが驚き、アシェルが頷く。

「今日で全て終わらせる。最悪、魔道具が見つからなかったとしても、祭壇を壊すわ」

私が決意を込めて言うと、ミリアが頷いて答える。

「そうね……こうなった以上、急いだ方がいいと私も思う」

その時だ。

向こうの通り……かしら。

大声が聞こえてきた。

「号外、号外だよ!!メディリアン公爵家のひとり娘が行方不明になった!」

「!!」

私たちは揃って息を呑む。

(もう……情報が出てる?)

早すぎない??

新聞屋に記事を書かせるにしても、数日はかかるはず。

驚く私たちの耳に、さらに声が風に乗ってこちらまで届いてきた。

「メディリアン公爵は、ご令嬢を見つけたら巨額の報奨金を出すと仰せだ!!」

「──」

その時、私は違和感を覚えて、思わず足を止めていた。

(──情報を、表に…….?)

「姉様?」

ミリアに呼びかけられるも、答えられない。

だって。おかしい。

おかしいわ。

ここまで大事にしてしまえば、いくら王家といえど。メルディアン公爵家といえど、揉み消すことは難しいはず。

貴族の令嬢が誘拐されることは、名誉が傷つけられることを意味している。

それは、社会的な死と変わらない。

(こうなってしまったらもう、メルンシアは社交界には戻って来れない)

だから、恐らく──。

振り返り、ふたりを見る。

「アシェル、ミリア」

私は言葉を区切って、声を潜めるとさらに言葉を続けた。

「メルンシアの誘拐事件は……事実だわ」

そう。これは、ネイサンにとっても、メルディアン公爵家にとっても。

そして──メルンシア本人にとっても。

不本意で、予想外の展開だったに違いない。