軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

996 地下の違和感

トリスメギストスが30分ほど戦い続けた結果、地下空間の抗魔は殲滅されていた。

「ふぅぅぅぅぅ……」

トリスメギストスが神竜化を解除した時、抗魔はただの1体も残っていない。

抗魔の痕跡は、激しい戦闘によって穿たれた地面の傷だけである。

それも、既に修復が始まっていた。ここも城の一部であり、神によって備え付けられた自動修復機能があるらしい。

あと数時間もすれば、完全に傷跡は消えるという。そして、明日になればまた、トリスメギストスと抗魔の戦闘によってボロボロになるのだ。

目を瞑って傷を再生していたトリスメギストスだが、傷が癒えきる前にすぐに歩き出す。見えない消耗もかなりあるはずなんだが、その足取りは相変わらず優雅だ。

こちらを振り返りもしないことにはもう慣れたが、ダメージを全く感じさせないのには驚いた。慣れのせいか?

ともかく、まだまだあの竜人の底は知れないようだった。

「俺たちもいくぞ」

トリスメギストスの後を追い、フレデリックが動き出す。皆を急かすように動き出すが、全速力で駆け出すような真似はしなかった。

トリスメギストスの後ろを、やや苛立った様子で歩いている。

どうやら、この先でも戦闘があるようだ。それ故、まだトリスメギストスを置いていくことができないのだろう。

一行は静かに、暗い地下の空間を歩き続ける。トリスメギストスや抗魔が放つ魔力の光がなくなってしまえば、そこは闇の支配する世界であった。

だが、ここにいる全員が普通ではない。フランたちは一切怯むことなく、進んでいく。

そのまま歩き続けること10分。ようやく、この広大な地下の終わりが見えてきていた。これまでのスケールの大きさが信じられないほど、小さな扉が壁に存在している。

だが、扉の先から放たれている異様な気配は、これまでが前座であったかと思うほど、強烈であった。

なるほど。この先に深淵喰らいの核があることは間違いないだろう。

それにしても、俺は道中で気になることがあった。戦闘の痕跡が、全く残っていなかったのだ。トリスメギストスの、ではない。

先行しているはずの、竜人王たち一行の痕跡だ。

地下に向かったということが確かならば、ここを通っているはずである。

瞬時に修復されるわけではない以上、戦闘によって破壊された地面などがそのまま残るはずなのだ。

しかし、痕跡のようなものが欠片たりとも残っていなかった。

『ウルシ。ベルメリアの匂いはあるか?』

(オン!)

『間違いないな?』

(オン!)

ウルシが間違いないという風に、何度も頷いている。ここに、ベルメリアの匂いが強く残っているらしい。

フレデリックの捜し人が、この先にいることは間違いなさそうだ。

では、どうやって通り抜けた?

隠密能力で、姿を消したのか? だが、あれだけいた上級抗魔の目を、全て欺くことなどできるか? しかも、隠密特化の個人ならともかく、集団なのだ。

考えられる可能性としては、集団全体を隠すことが可能な能力を持っている。それで、戦闘を全くせずにすり抜けたと考えれば、納得がいく。

フランの持つ戦乙女系の称号に似た能力は、有り得た。

2つ目が、転移。連続転移で一気に通り抜ける。これなら、やってやれないことはないと思う。

ただ、この場所は深淵喰らいの魔力に包まれている。正直、俺ではまともに転移は使えないだろう。1回程度ならともかく、連続発動は無理だ。

相手がそれが可能なら、戦闘ではかなりのアドバンテージを取られることになる。

3つ目は、抗魔を操った可能性。巨人型などを完全に操れるなら、ここにいる上級抗魔も操れただろう。

トリスメギストスが最初に呟いていた、抗魔が少ないという話も、竜人王たちによって同士討ちさせられたと考えたら?

どの方法でも厄介な能力を持っているし、違っていたとしても油断はできない。俺がそんな考察をしている間にも、トリスメギストスが扉を押し開けた。

生暖かい空気が押し寄せ、金の竜人の前髪を揺らす。匂いなど感じられないはずの俺が、血生臭さを感じた気がした。

それほどに、空気が澱んでいる。

今は、トリスメギストスの無関心さが有難かった。

スタスタと扉をくぐるトリスメギストスに続き、皆が先へと進んでいく。俺たちは最後尾から彼らの後を追った。

高さはあるのに、横幅が狭い不思議な通路だ。竜人仕様なのか?

相変わらず装飾の一つもない武骨な通路を、縦一列になって進んでいく。

フランはイザリオたちがブラインドになって先が見えていないはずなんだが、段々と緊張感が高まっていくのが分かった。

完全に臨戦態勢だ。

通路の先から放たれる殺気を感じ取っているのだろう。

深淵喰らいの、食欲交じりの殺気ではない。もっと直球の、敵対者に向ける刺すような殺気である。

『フラン。ベルメリアの気配だ』

(ん……。でも、変)

『ああ。操られているかもしれん』

殺気の主は複数。その内の1人は、確実に青髪の竜人の少女であった。