軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

995 トリスメギストスの事情

広大な地下の空間を黄金の光が縦横無尽に駆け巡り、当たるを幸いに抗魔を消滅させていく。トリスメギストスの殲滅速度は下がるどころか、どんどん上がっていっているようだった。

その強さの底が見えない。

(師匠?)

『いや、なんでもない』

気付かない内に、震えてしまっていたようだ。人としての感覚が、揺さぶられるのが分かる。湧き上がる、怖れと不安。

俺たちはこの後、あの化け物と会って話をせねばならないのだ。あの力がフランに向けられたら?

立場的にも精神的にも信用できる相手ではないことで、必要以上に不安感を掻き立てられてしまっていた。

だが、今は敵じゃないんだ。先のことを不安に思うよりも、トリスメギストスの戦いを目に焼き付けよう。

そう思って高速戦闘を必死に目で追っている内に、俺はトリスメギストスに起こり始めた変化に気づいていた。

『生命力が、減っている……?』

「確かに」

俺の呟きを聞いたフランが、ハッとした表情でトリスメギストスを今まで以上に凝視する。やはり俺たちの気のせいではない。

トリスメギストスの全身に細かい傷が穿たれ、明らかにダメージを受け始めていた。

「嬢ちゃん、どうした?」

「トリスメギストス、攻撃受けてないのに血が出てる」

「ああ、あれかい」

フランの呟きを聞きつけたイザリオが、何故か憐れなものを見るような眼を金の竜人へと向けつつ、教えてくれた。

「あれだけ全力で動き続けているんだ。トリスメギストスの体には恐ろしいほどの負荷がかかっている。それこそ、命を削るほどのな」

神竜化を使い、全力で動き続けているのだ。そりゃあ、無事では済まないらしい。フランが閃華迅雷と潜在能力開放を使い、全てを振り絞って戦っているようなものなのだろう。

「だいじょぶなの?」

「大丈夫じゃねぇな。このままいけば、自滅するさ」

「?」

「奴は不老不死と言われるが、少し違う。正確には、瀕死の状態になったら復活するんだ。玉座の間でな。それが、奴にかけられた不滅の呪いだ」

この城の敷地から出ることもできず、抗魔を殺さねば無限に続く激痛に襲われる。そして、死んでも復活して、闘いを強制される。それが、トリスメギストスにかけられた呪いの正体であった。

死んでも復活できるということを利用して、消耗で自滅しかねない強化スキルを全開で使用する。それが、トリスメギストスの強さの秘密だ。

むしろ、そうせねばあれだけの抗魔を日々駆除できないのだろう。

俺がトリスメギストスの強さを見て戦慄している横で、フランは微妙な表情である。

『フラン。どうした?』

「……ん」

フランの顔に浮かぶ感情は、憐れみだろうか?

考えてみれば、今のトリスメギストスは神によって奴隷にされているようなものだ。世界を滅ぼした大罪人という実感がなければ、感情移入してしまうのかもしれない。

城から出られずに、永久に復活して戦い続けなければいけないという話の過酷さには、俺も少し引いたしね。

豪華な城に住んでいることなんて、なんの慰めにもならないだろう。

「む」

『ファンナベルタが光ったな』

インテリジェンス・ウェポンと思われるファルシオンのファンナベルタだが、その刃が銀色の光を放った。

どうやら魔力を放出して、刃を伸ばすことができるようだ。その切れ味は、抗魔を試し切りの藁のように切断するレベルだ。

単純な切れ味で言えば、俺は負けているかもしれない。元々の性能なのか? それとも、トリスメギストスの魔力の影響か?

ともかく、最強の竜人の愛剣として、相応しい能力を持っているようだった。

フランがファンナベルタを見つめていることに気づいたのだろう。イザリオが口を開く。

「嬢ちゃん。トリスメギストスの剣に興味があるのか?」

「ん」

「そうか。だったら、1つ忠告だ」

「?」

「あの剣の事になると、トリスメギストスは揺らぐ。他人に興味がない――言い換えれば、何をされても咎めることのないあの竜人が、剣が絡んだ時だけは何を仕出かすか分からん」

トリスメギストスが持つ唯一の剣にして、相棒と言わしめる白銀のファルシオン。誰だって興味を持つ。

中には剣を解析しようとしたり、奪おうとしたものもいた。そういった者たちを咎めることなく許すこともあれば、ただ触ることを頼んだだけで首をねじ切ることもあるらしい。

その際も、怒っているようには見えなかったという。

ただ殺す必要ができたから。誰かに殺せと言われたから。だから殺した。そんな風に見えたそうだ。

「単純にこうすれば怒るってわけじゃない。剣が絡んでいる時だけ、地雷がどこにあるか分からん」

『そりゃあ、恐ろしいな』

(ん)

目の前で上級抗魔を殲滅し続けている超越者が、いきなりこちらを殺しに来る? 悪夢でしかないのだ。

「だから、違和感を覚えたらすぐに逃げろ。何を措いても、一目散にな」

「わかった」

フランは頷いているが、そもそもこのままトリスメギストスに話を聞いても大丈夫なのか? 俺が狂ってしまわないためのヒントが得られると思って、俺たちはファンナベルタに会いにきた。

だが、それでフランの命が危険にさらされては、本末転倒だ。

『フラン、無理に話を聞かなくてもいいんじゃないか?』

(ダメ)

『だがなぁ……』

(絶対話聞く!)