軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

997 心臓

通路を抜けた場所は、異様な場所であった。

広さだけではなく、高さもあるドーム状の部屋に、灰色の根っこのようなものが無数に張り巡らされ、一部が鼓動を打つかのように蠢いている。

シューティングゲームのラスボスの部屋とか、こんな感じだった気がする。

その部屋の中央に、巨大な灰色の心臓が鎮座していた。

「嬢ちゃん。あれが深淵喰らいの核だ」

「ん……。あれは、壊せない」

普段だったらやってみなきゃ分からない精神のフランが、最初から無理だと口にしている。それほどに、深淵喰らいの核は尋常ではなかった。

放つ魔力に交じる邪気や、その内に眠る力の大きさ。そして、それらが霞むほどの存在感。

邪神の欠片を元に作られた深淵喰らいの核に相応しい、見るだけで精神を汚染されてしまいそうな禍々しい雰囲気を放っていた。

ウィーナレーンが滅ぼした湖の大魔獣ですら、この心臓の前では格下に思える。

その形状は、人間の心臓と変わらなかった。だが、大きい。全長50メートル以上あるんじゃなかろうか?

その前に立つ竜人たちと比べることで、よりその巨大さが際立っている。

「ベルメリア! ティラナリア様! 大丈夫か!」

「おいおい、どう見ても全員正気じゃねぇよなぁ」

心臓の前に立っている竜人たちの中に、ベルメリアの姿があった。だが、フレデリックの言葉にも応えず、イザリオが呟いた通り正気には見えなかった。

ベルメリアと、その隣に立つ赤い髪の竜人女性は、目の焦点が合っていないのだ。あの女性が、ベルメリアの母親にして神竜の巫女であるティラナリアだろう。

いや、彼女たちだけではないな。もう1人いる大柄な竜人男性も、意識があるようには見えない。

トリスメギストスのような金色の鱗を持った、凄まじい魔力の竜人である。この男が竜人王ゲオルグか? だとしたら、なんで理性を失っているように見える?

「どうなってやがる?」

「ベルメリア! ティラナリア! くそ! ゲオルグ、貴様の仕業か!」

フレデリックが声をからしながら叫び続けても、竜人たちは反応を見せない。やはり、何かがおかしいのだ。

三人の竜人の脇に、小柄な人影がある。ローブを深くかぶっているせいで顔などは見えないが、竜人ではなさそうだ。

あのローブ野郎が何かしている? セリアドットの結界と似た効果があるらしく、ローブの中に鑑定が通らない。何者だ?

よく見ると、ローブ野郎が剣を心臓に突き立てていた。鑑定が弾かれるレベルの格を持った、魔剣だ。それこそ、廃棄神剣クラスの力を持っているかもしれない。

核を攻撃している風にも見えないが、一体何をしているんだ?

その剣の形は、異様である。一見すると2本に見えた。柄も2つあるし、まるで剣を十字に交差させているような姿なのだ。だが、重なった部分が実は結合しており、1本の剣になっている。

どう使うんだ? ブーメラン的な?

俺は再度鑑定を試みた。意識して神属性の魔力を練り上げ、天眼スキルを起動する。神属性を使うことで、スキルをより強化可能なのだ。

単純に出力が上がるというよりは、スキルが一段深くなるという感じだ。

身体強化系であれば操作性が上がり、魔術などではより自分のイメージを再現しやすくなる。天眼であれば、格上相手でも通用するかもしれなかった。

『ぐぬ……見えた!』

ほんの一瞬。それもすべてが見えたわけではないが、それでも多くの情報は得た。

『何だ、あの剣のステータスは……?』

名称:堕天剣・フォールダウン、邪蝕剣・エビル・イ――

攻撃力:1970 保有魔力:8000 耐久値:7700

魔力伝導率・A+

スキル

自動修復、邪気吸収、邪気支配、邪気侵食――

かなりの性能だが、それ以外が気になり過ぎる。まず、名称。どうやら、2つの剣を融合させているってことで間違いないらしい。

それに、スキルも気になる。邪気を操る能力を持っているようなのだ。もっと近くで確認したいが、迂闊に近づくわけにもいかない。

向こうにいる竜人たちが、一斉に臨戦態勢に入ったのだ。

『フラン! くるぞ!』

「ん!」

「俺が竜人王とやる! あれは、俺じゃないと無理だろ」

トリスメギストスは、ゲオルグの名前を憶えていた。つまり、そういうことだ。他人に興味のないあの男が、名前を覚えるレベルの強さということである。

トリスメギストスは動く気配がない。勝手に殺しあえってことなんだろう。手助けはしてもらえないが、ティラナリアやベルメリアが奴に殺される心配はなくなったか?

「俺はティラナリアだ! ベルメリアを頼む黒雷姫!」

「ん」

見たところ、ティラナリアはさほど強くはなさそうだ。対するベルメリアは、神竜化を発動していた。確かに、フレデリックでは荷が重いかもしれない。

『俺たちだって、やばいけどな!』

(でも、やるしかない)

フランが決意のままに俺を構えた瞬間、ベルメリアたちが一気に動き出していた。

『ローブ野郎の前に、ベルメリアたちを大人しくさせなきゃならんか!』

「ん!」

フランも前に出て、俺を上段から振り下ろす。

「ガアアアアアアアアアアア!」

「はぁぁぁ!」

俺とベルメリアの爪がぶつかり合い、甲高い音が響いていた。剣じゃなくて爪が、なんて硬さだよ! 俺と互角って……!