作品タイトル不明
927 師匠とフランの代償
フランたちに万雷の拍手をしてくれていた市民たちだったが、彼らもかなりお疲れの様子だ。疲労に耐えきれず、座り込んでしまう者たちも多い。
また、怪我をしている者もいた。原因は戦闘だけではないようだ。
魔砲型によって破壊された城壁の瓦礫の下から、兵士や冒険者を助け出した時に怪我をしたのだろう。
他には、歌に全力を傾けすぎて、喉を痛めた者もいるようだ。
そんな人々の中でも、特にソフィの状態が酷い。
ハープを奏でていた指先は血だらけで、爪が剥がれてしまっていた。相当な負荷がかかっていたんだろう。
顔からは血の気が失せ、魔力もほぼ感じられなかった。全霊を使い果たした。まさにそんな状態だ。
だが、ソフィは疲れた顔ながらも、笑顔で出迎えてくれる。
「みんな。センディアを救ってくれて、ありがとう」
「ソフィたちのおかげ。お礼を言うのはこっちのほう」
「その通りだ! 本当は宴でも開きたいところではあるが……。少々、眠気が……」
「私もよ……」
フラン、メア、ベルメリアは今にも崩れ落ちそうだった。消耗し過ぎて、眠気を抑えきれないのだろう。
「ガオオォォ?」
『リンド! 助かった! ありがとな!』
「ガオ!」
姿がスーッと消え始めたリンドに、ギリギリ念話が届いたらしい。一鳴きして、消えていった。
「お嬢様、大丈夫なんですか?」
「お前は、平気なのか?」
「ここで眠るほどではないです」
「オン!」
「うりゅし、ねむい」
「オンオン!」
ゼフメートとウルシは、このまま寝落ちするほどではないようだ。やはり、個人差があるんだろうな。
「うにゅ……」
「オ、オン!」
フラフラしているフランに慌てて体を寄せて、ウルシが支える。
「どこか、建物の中へと連れて行きましょう」
「あ、あんないしやす!」
「フラン、もう少し頑張って」
「うみゅ」
「オン!」
「お嬢様、こちらへ」
「う、む……」
「竜人のお嬢さんもこちらへ」
ゼフメートがメアに肩を貸しながら、なんとかベルメリアの手を引いている。あっちは任せていいだろう。
ソフィがすぐ近くの民家へとフランたちを誘導してくれた。どうやら義勇兵に参加した誰かの持ち家であるようだ。普段は倉庫として利用しているっぽい。
俺はフランが次元収納から取り出した風を装って、布団を床に敷いた。とりあえず、5組取り出しておけばいいかね?
そこに、ウルシやゼフメートが少女たちを寝かせた。
『お休み、フラン』
「ん……すー」
限界だったのだろう。フランは軽く頷くと、夢の世界へと落ちていった。メア、ベルメリアもすでに眠っている。
『ウルシ、どうだ?』
「……オファ~」
ウルシとゼフメートも眠そうだ。ただ、ここでウルシたちまで眠りに落ちたら、フランたちの守りが心配なんだよな。
というか、俺の反動はどうなんだろうか?
すでに、邪気は完全に収まっている。スキルはまだ使えるっぽいが……。
『フェンリル? アナウンスさん?』
『師匠、終わったか?』
《邪気の減衰を確認。戦闘終了と予測》
『見えてないのか?』
普段のフェンリルとアナウンスさんだったら、俺の中から外が見えているはずだ。実際、どちらも俺の行動はだいたい分かっているようだったしな。
《活性化領域の暴走を止めるため、制御に全ての能力域を使用。その間、外界の情報は全て遮断されていました》
『要は、色々と頑張ってたんで、全然分かってねーってことだ。まあ、勝ったんだろ? あれだけの魔力と邪気を使って、負けるわけがねーしよ』
『ああ、抗魔は殲滅したよ。それで、この後俺はどうなる? 反動のせいで長く寝込むとなると、フランの守りが心配なんだが』
今のところ、反動が襲ってくるような様子はない。潜在能力解放の時のような、消耗している実感が薄かった。
『そこは安心しろ。師匠とフランへの反動は、俺たちが分散して引き受ける』
《是。両者は軽度の消耗のみで済むと予想》
『え? フェンリルたちが、俺とフランの分まで代償を背負うってことか? 大丈夫なのか?』
『またしばらくは師匠とコンタクトが取れなくなるかもしれんが、それだけだ。消滅だのまではいかんから、安心しろ』
『それで安心しろって言われても……。それに、フランの反動まで引き受けるって……。そんなことできるのか?』
『フランに発現したのが、神獣化でよかった。こちとら、元神獣だぜ? 繋がりさえ僅かでもあれば、どうにでもなるのさ』
元神獣であるからこそ、神獣化に干渉が可能ってことらしい。フェンリルがフランの消耗や代償を引き受け、それをさらにアナウンスさんと分け合うんだろう。
《これは、装備者である個体名・フランの安全を考えての措置です。主人格である個体名・師匠が眠りにつけば、個体名・フランの安全に支障が出ます》
『そういうこった。こういう時に協力し合えるのが、俺たちの強みだろ?』
『……本当に、フェンリルとアナウンスさんが消滅するようなことにはならないんだな?』
《是。一定期間の休眠に入りますが、短期間で復帰可能》
『ま、長くても数週間ってとこだと思うぜ?』
『そうか……』
確かに、フランのことを考えれば、俺が起きていられるのは有難い。ここは、アナウンスさんたちに頼るべきだろう。
『いつも、すまないな。アナウンスさんたちに、頼ってばかりだ』
《否。感謝するのはこちらです》
『アナウンスさんの言う通りだ。俺たちみたいな消滅を待つばかりだった存在が、曲がりなりにもやりがいのある仕事をできてるんだ。感謝しかねーよ』
《是。個体名・フェンリルの言う通りです。個体名・師匠、個体名・フランに感謝を》
『俺やアナウンスさんの権能が失われるわけじゃねーんだ。ま、しばらく休暇中だとでも思っておけ』
フェンリルの持つ、魔石の吸収能力。アナウンスさんが補助してくれている、翻訳やアナウンス機能。これらは今まで通り、使えるってことらしい。
『わかったよ。それと、もう1つ気になってることがあるんだが、聞いていいか?』
『もうちょっとの間なら、話せると思うぜ?』
『あの王狼剣・フェンリルとか、あれはなんだったんだ?』