軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

928 頼りになる2人の休眠

『あの王狼剣・フェンリルとか、あれはなんだったんだ?』

『あれか……。強化されると言っても、まさか中途半端な名付けが行われるレベルだったとはなぁ。俺らも驚いたぜ』

《是。名称変更の凍結により、行き場を失った力が一部暴走寸前でした》

『そこだ。名付けが行われそうになったけど、結局名前は付かなかったってことか?』

王狼剣・フェンリル。まるで、神剣のような名前だった。

俺の体は廃棄神剣なわけだし、フェンリルさんたちの力があれば、神剣に準ずる力を発揮できる可能性もあるだろう。

だが、戦闘前にした俺の精神が耐えられないという話も踏まえると、一時的に名前が変化する程度ではないっぽいのだ。

『あれは……未来の可能性だ。もしかしたら、師匠が――俺たちが辿り着いてしまうかもしれない、未来の1つ』

『俺が、神剣になれるってことか?』

『そうだ。俺の力を秘めた神剣、王狼剣・フェンリル』

『でも、なんか嫌そうだな?』

『さっきも言ったが、今の師匠じゃ俺の精神との融合に耐えられん。耐えられるようになっているということは即ち、師匠が師匠でなくなっているということ』

『も、もしかして、剣化してなきゃダメってことか? レーンに見せられた、あっちの俺みたいに?』

『その通りだ。だからこそ、今の師匠が王狼剣の銘を手に入れるのは、最悪の事態を招くだろう』

『なるほどな……』

剣化しなければ神剣にはたどり着けず、神剣になった時には俺が俺でなくなってしまう。確かに強くなれるのだろうが、それは……。フランが悲しむ。

ないな。その道はダメだ。

『じゃあ、邪狼剣とか、智信剣ていうのは?』

《王狼剣とはまた違う可能性です。邪気に侵された個体名・フェンリルの力をそのまま引き出した邪狼剣。既に滅んだ、神剣の残滓を統合した、紛い物の神剣、智信剣。それらが、可能性として提示された結果です》

『それもまた、1つの可能性ってことだ』

一見すると、良いことのように思えるが、フェンリルたちの口調からするとそうじゃないんだろう。苦々し気な口調のフェンリルが、さらに説明を続けてくれる。

『師匠の器は元々神剣で、神属性を操り、能力はすでに準神剣と言える。そんな師匠が強化されれば、名付けの条件は満たすんだろうな。存在としては、神剣に届かない、神剣の成り損ない。つまり、廃棄神剣扱いだろうが』

《ですが、個体名・師匠の名が一時でも変われば、主導権が個体名・フェンリルや仮称・アナウンスさんに変更されてしまいます》

『そしたら、邪神の欠片を抑えきれなくなる。だから、名前の変更は阻止させてもらったという訳だ』

名付けのシステムはいまいちわからんが、神に認められると、自然と名前が付くという。フランの装備品みたいにな。

普通は勝手に名前が変わるんだろうが、俺の場合はアナウンスさんやフェンリルがいるお陰で、名付けに介入可能であるらしい。

そして、名付けが成立すると危険であると判断し、拒否してくれたという訳だ。

『結局、安易に名前を変えるのは良くないってことか』

『そういうこった。師匠は師匠のまま、強くなれ』

《是。それは、個体名・フランの願いでもあります》

己惚れる訳じゃないが、アナウンスさんの言うことは正しいだろう。

俺が神剣としての力を得る代わりに機械のような存在になってしまうとしたら、フランは神剣なんかいらないと答えてくれるはずだ。絶対に。

『おっと。そろそろ時間だ』

《暫し、休眠状態へと入ります》

『じゃあ、ちょっとの間お別れか』

《休眠中、個体名・フランをよろしくお願いします》

『フランによろしくな!』

そして、俺の中にいた両者の気配が、一気に小さくなっていくのが分かった。強化の効果が完全に失われ、休眠に入ったのだろう。

数日から数週間、頼りになる仲間とのお別れだ。この世界に来たばかりの時に戻っただけなんだが、妙に心細い。それだけ、俺が2人を頼りにしてしまっていたってことなんだろう。

これで大きな失敗でもしたら、起きた2人に怒られる。俺がしっかりしなきゃな。

俺の気配が変化したことは、ウルシにも伝わったんだろう。眠そうな目で、こっちを見てくる。

(オン?)

『どうやら、俺は眠ったりはせずに済みそうだ。フランの護衛は、俺に任せておけ』

(オン!)

『今回も本当に頑張ったな。お前がソフィと一緒に行ったからこそ、彼女の援護を得ることにつながったんだ。目立たないけど、ファインプレーだったぞ』

(オン!)

『分かってるって。起きたら、御馳走だ。だから、今は休め』

(オンオン!)

ウルシは嬉し気に尾を振ると、フランの匂いを軽く嗅いで、影に沈んでいった。

そんなウルシを見て、隣にいたゼフメートが呻いた。

「むぅ。まだ、眠るわけには……」

ゼフメートは眠気に抗い、メアの前で仁王立ちだ。もう少し落ち着くまでは、護衛として頑張ろうというのだろう。

これは、俺の存在を知っているウルシと、知らないゼフメートの差だった。俺が見てるから眠っていいよと言ってやりたいが、今は無理だよな。

だが、そこに救いの女神が現れる。まあ、女神というほど優しくはないけど。いや、この世界の女神はむしろ厳しいから、女神で正解かな?

「ゼフメート。説明を」

「クイナ、様」

「随分と憔悴しているようですね。お嬢様もあれで警戒はする方なのに、このような場所で寝入ってしまうとは……」

メアの侍女、クイナであった。相変わらずの無表情だ。

「抗魔の、群れと戦いまして。そこに、聖女様の助力が……」

ゼフメートが説明をしようとするのだが、眠気のせいで全く的を射なかった。クイナはすぐにその状態を理解し、ゼフメートからの聞き取りを諦めたらしかった。

その視線がこちらを向く。

『クイナ。俺が説明するから、ゼフメートを休ませてやってくれ』

(師匠さんならそう言ってくれると思っていました。根掘り葉掘り聞かせていただきましょう)

『お手柔らかに頼む』

クイナに問い詰められたら、何でも喋っちゃいそうなんだよな。う、感じるはずのない寒気が!

「ゼフメート。後は私が護衛を行うので、あなたは休みなさい」

「わかり、ました……」

ゼフメートはクイナの言葉になんとか頷き返すと、フラフラとした足取りで部屋の隅に向かうと、その場で寝転がった。主であるメアと同じ部屋だが、それを気にする余裕もなかったらしい。

「「「「「すーすー」」」」」

部屋と影の中から、寝息の5重奏が聞こえてくる。外が妙に静かなのは、市民たちが気を使ってくれているからか?

いや、市民たちの中にも寝てしまった者がいるらしい。動けているのは元々魔力が高く、消耗が少ない者なのだろう。

(それで? こちらの状況は?)

『どっから説明すればいいか……』

(できれば最初から)

『じゃあ、簡単にだが、最初から説明しておこう』

どうせ時間はあるのだ。