軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

908 ソフィ参戦

ポロロン……!

微かに聞こえた、ハープの弦の音色。しかし、その効果は、音の小ささと反比例して絶大であった。

俺たちを囲む抗魔の動きが、ビタッと止まったのだ。

音に魔力が乗っており、それが抗魔の注意を引きつけたらしい。

「きてくれた」

『ああ!』

「オン!」

誰がやったのか、言うまでもないだろう。ソフィが駆けつけてくれたのだ。

フランの顔に力が戻った。やはり、援軍がくるかどうかも分からないという状況は、フランの精神を少しずつ削っていたのだろう。

ソフィのハープの音色を聞いただけで、元気が湧いてきたらしかった。

フランは勇んで躍り上がり、抗魔に切り込んでいく。

しかも、ソフィの援護は一度で終わらなかった。曲ではなく、音が等間隔に、連続で紡がれる。

その音に反応し、抗魔たちの注意がフランたちから逸れていく。

何年もこの大陸で戦っているソフィは、俺たちよりも抗魔の生態や習性に詳しいんだろう。魔力の籠った音を利用して、抗魔の動きをコントロールしているようだった。

ただ、これはそうそう長くは続かないと思われる。これだけで抗魔の動きを封殺できるのであれば、カステルでも使っていただろう。

案の定、動きを止めない抗魔が現れ始めた。抗魔が、ソフィの音に対して興味を失いつつあるらしい。

『フラン! ウルシ! やるぞ!』

「ん!」

「ガルッ!」

抗魔に効果が上がっている今が、包囲を脱するチャンスだ。

フランは俺を構えると、ウルシと共に前へと跳んだ。一時的に後ろに下がったところで、事態は打開できない。

それよりも、抗魔の指揮個体だ。

強い個体を減らせばそれだけ楽になるし、指揮官がいなくなることで抗魔全体の動きも鈍くなるのだ。

俺が光魔術と風魔術を使って作り出した細い道を、フランたちが駆け抜ける。その先にいたのは、赤い角を持った騎士型抗魔だった。

この周辺の抗魔の中では、圧倒的に内包する力が強い。魔獣としての強さは脅威度Cに達するだろう。

こいつ一体がセンディアに入り込むだけで、千人規模の被害が出るかもしれない。それほどに強力だった。

だが、だからこそ、狙い目だ。

こいつを倒せば、この周辺の抗魔の力を大きく削ぐことができる。

「覚醒! ウルシ、あわせて」

「オン!」

フランの言葉を聞いたウルシが、自身の影に飛び込んだ。水面に飛び込んだかのように、その姿が影の中にトポンと消えていく。

ウルシの気配が完全に影の中へと沈んだ直後、フランはさらに速度を上げた。

風に包まれた足が大地を蹴る度に速度が増し、背後へと放出された火炎によって無理矢理に体が前に押し出される。

今のフランに発揮できる、最高速度だ。影すら置いてきぼりにするほどの速度から繰り出されるのは、必殺の空気抜刀術。

フェイントも何もない、ただただ最速を求めた斬撃が放たれる。

速度も威力も十分ではあるが、相手はカステルで散々手こずらせてくれた赤角騎士。一筋縄ではいかない。

フランの斬撃に反応し、剣を俺の軌道上にかざしていた。

だが、刃と刃がぶつかり合う直前、赤角騎士の体勢が大きく崩れる。

「オフ!」

影から飛び出したウルシが、赤角騎士の右足を噛み千切ったのだ。

結果、受けに失敗した赤角騎士は、フランによって首を落とされていた。首を失い、その動きが止まる。そこへと俺の魔術が突き刺さり、その体は完全に消滅していた。

抗魔の動きが乱れる。やはり、こいつがこの部隊の指揮官だったのだろう。

だが、抗魔たちの再起動は、俺たちの予測よりも数段速かった。周囲にいた副官級であると思われる黒角騎士が雄叫びを上げると、全ての抗魔がフランへと殺到してきたのだ。

俺は準備していた短距離転移を使い、一気に包囲を脱出する。黒角騎士では転移を追い切れないようで、上空にいるフランを一瞬見失っていた。

すぐに気づかれたが、その一瞬が重要だ。俺たちの溜めが終わり、抗魔たちの攻撃よりも先に魔術を放つことができる。

視界を奪うことを優先に、火炎魔術をばら撒いた。

ダメージはさほどではないだろうが、魔力を帯びた火炎が抗魔たちを包み込んだ。抗魔が右往左往する姿を見れば、その探知が阻害され、再び俺たちの姿を見失ったのが分かる。

その間に、フランは抗魔たちと町の間に降り立っていた。影転移を使い、ウルシも戻ってくる。

『奇襲は成功したが、まだまだ数は多いぞ』

「だいじょぶ。まだ戦える。それに、ソフィも来てくれた」

「オン!」

フランの小さい声が聞こえたわけではないだろうが、タイミングよくソフィの援護が開始された。

柔らかいハープの調べに乗って、優しい魔力が飛んでくる。

フランとウルシの体が光に包まれ、体力が僅かに回復していた。上がっていた息は整えられ、心拍数は落ち着き、傷口がゆっくりと塞がっていく。

効果は大きくないが、今のフランにとっては有難い。

フランが振り返ると、城壁の上にいるソフィと目が合った。小さく頷くソフィ。もしかして、本当にフランの呟きが聞こえていたか? この戦場で?

そう言えば耳がいいと言っていたな。あの場所から、小さな呟きを聞き取るとは……。想像以上の耳の良さだった。

フランが軽く手を振る。ソフィも軽く手を挙げて返してくれるが、その顔は曇ったままだ。どうやら、引き連れてきた戦力の少なさを気にしているらしい。

ソフィが連れてきたのは、兵士や冒険者を併せても、50人に満たなかったのだ。

本当に、戦力が不足しているのだろう。フランも、気配察知で兵士の少なさを感じとったはずだ。だが、気落ちすることはなかった。

「だいじょぶ。ソフィが手伝ってくれれば、わたしはもっと戦える」

その呟きの直後、ソフィが泣きそうな顔で俯いた。しかし、直ぐにここが戦場であると思い出したのだろう。

悲痛な顔を上げると、そのまま弦に指を添えるのだった。