軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

888 結界屋登場

「ああぁぁ! あなたの命を使えば、きっと素晴らしい魔力が絞り取れるのでしょうね。くひひ……くひひひひひ!」

ドロリとした欲望を感じさせるフィルリアの目が、フランを嘗め回していた。

フランは顔をしかめ、俺を振り上げる。いい加減、堪忍袋の緒が切れたのだろう。

しかし、フィルリアは哄笑を上げたままだ。そんな様子により苛立ちを掻き立てられたのか、フランが目を細め、俺を振り下ろした。

だが、その斬撃は、空中で阻まれ、止まってしまう。強力な結界が張られたのだ。

「ここで彼女を殺されるわけにはいかないんでのう。これ以上はやらせんぞ?」

「セリアドット……!」

ついに、現れてほしくない人物の登場である。なぜ遅れていたのかは分からないが、これで簡単にはいかなくなってしまった。

フランは、後ろに飛んで距離を取る。するとセリアドットは、悠然とした足取りでフィルリアとの間に立ち塞がった。

『ウルシ。いざとなったら全力で攻撃を加えるぞ』

(オン!)

相手はランクA冒険者だ。戦うことになったら、出し惜しみなどしていられない。

「儂の結界が見事に歪んでおるな。これは物理的な破壊力ではなく、魔力を操作する類のスキルか?」

一発見ただけで見破られた。ただ、セリアドットの様子が妙だ。殺気や憎悪はおろか、戦意すら感じられなかった。

フィルリアを庇うように立っているが、攻撃を仕掛けてくるような様子もない。

結界屋なんて異名だし、防御偏重の後の先タイプなのか?

ただ、それにしても、戦闘するつもりがあるようには見えない。

セリアドットは、フランとソフィを交互に見る。明らかにソフィが自分たちの敵に回っているというのに、驚いた様子はなかった。

元々、こうなることを予想していたかのようだ。

「彼女を治療せねばならんし、どうじゃな? ここで退くのであれば、この場では追わんと誓おう」

「……私たちを見逃すと?」

放心状態だったソフィだが、ようやく立ち直ったらしい。フランによる少々過激な尋問と、フィルリアの裏の顔が衝撃だったのだろう。

まだ顔が青い。そんなソフィが、気丈にもセリアドットに言い返していた。

「フィルリアの裏の顔を知らないからそんなことを言えるのよ。あなたも――」

「関係ないですな。契約ですからのう」

相手が外道であっても、契約を順守するってことなのだろう。薄く笑うのじゃロリに、その場を退く気配はない。

「この場で我らが戦えば被害も大きくなりましょうなぁ?」

確かに、ここでフランとセリアドットがぶつかれば、治療院に大きな被害が出るだろう。フィルリアの裏の顔を知っている者はほとんどいなかったわけだし、抗魔との戦いのことを考えればこの場所に被害を出すのはまずい。

セリアドットとしても、それは本意ではないのだろう。こちらを脅すだけではなく、本当に心配しているように見える。

だが、セリアドットの足元にいるフィルリアが、怒りの金切り声を上げた。

「逃がすわけがないでしょう! 何を言っているの! さっさと捕らえなさい! あの黒猫族の娘よっ!」

あれだけ痛めつけてやったのに、まだ心は折れていなかったか!

だが、セリアドットはのんびりにすら聞こえる声で、フィルリアの命令を拒否した。

「無理ですなぁ。医長殿、この2人は強い。戦えば被害が馬鹿になりませんぞ? お主を守り切れるかもわからん」

「ぅ……!」

セリアドットの脅すような言葉に、フィルリアが息をのむ。そして、失われた自身の足を見下ろした。

手足を切り落とされた痛みが再びぶり返したのか、その顔から急激に血の気が引いた。また、傷つけられることを恐れたのだろう。

「で、でも……」

「まあまあ、ここは儂に任せて、少々口を閉じていてくだされ。悪いようにはしませぬから。で、お主らはどうするかの?」

どうするべきなんだ?

セリアドットの力は分からないが、まだこっちが有利であることに変わりはない。ソフィとウルシにセリアドットを押さえていてもらい、その間にフランがフィルリアを捕らえるのがいいか?

そう考えていると、ソフィがフランを見た。その口からは、意外な言葉が飛び出す。

「ここは、退きましょう」

「む? でも、まだこっちが有利」

「かもしれない。でも、お願い」

ソフィが、懇願するようにフランを見つめる。何か考えがあるらしい。すると、フランがその言葉にコクリと頷いた。

「……わかった」

ここは、ソフィを信じることにしたらしい。

『フラン。いいのか?』

闇奴隷商人ではなかったが、関係者であることに変わりはない。この女の犠牲者には、黒猫族も多いだろう。

フランの仇敵の一人であることに変わりはないのだ。しかし、フランはソフィに従うことに決めたらしい。

(いい)

『なら、とっとと脱出するか』

こちらに駆けてくる気配は、警備兵たちだろう。彼らと事を構えると、さらに面倒だ。

『一気に行くぞ!』

「ん!」

俺は大地魔術を使って、陥没した地下道の床を持ち上げた。フィルリアに扇動されていた人々は、既に拘束されて一か所に固められている。巻き込む心配もないだろう。

まあ、動けたとしても追ってくるかどうかは微妙だが。フィルリアの尋問が全部聞こえていたのである。

奴の裏の顔は十分理解しただろう。付き従うとは思えなかった。

ただ、フランたちへの信用度が低いため、フィルリアに「あれは拷問に耐えきれずに口走った嘘の証言だった」とでも言われたら、そっちを信じる者はいるかもしれない。

悪人が信用を得ているというのは、本当に厄介だ。

『まじで、あの女ここで仕留めなくていいのか?』

(ソフィのことを信じる)

フランの決意は固かった。ならば仕方ない。

『あとはこのまま地面を変形させて、橋を作って外へと脱出する!』

さすがに、塔の周囲全部に結界が張られているようなことはなかった。俺が魔術で動かす大地はアーチとなって、塔の壁を越えていく。

チラリと背後を見ても、セリアドットが動く気配はない。本当に追わないつもりであるらしい。

聖女と結界屋の視線がぶつかるのが分かった。そして、セリアドットが意味深長な笑みを浮かべる。

「ソフィ?」

「あとで話すわ。今は逃げましょう」

「わかった」