作品タイトル不明
887 フィルリア
『永遠に生きる……?』
自分を不老不死にするための実験かと思ったら、詳しく聞くと微妙に違っていた。
フィルリアがやろうとしていたことは、生命魔術を使って新たな肉体を作り上げ、そこに意識を移し替えようという実験だったのだ。
新しい肉体に常に乗り移り続けることで、永遠に生きようと考えたらしい。
『マ、〇モーみたいなことを考えていたってことか……』
(マ〇ー?)
『ああ、なんつーかお話の登場人物だ。気にしなくていい』
意識の移し替えに関しては、フィルリアの所持する精神同調というユニークスキルを使うそうだ。
他者の精神に干渉可能で、相手が精神耗弱状態であれば、一定時間体を乗っ取るような真似も可能であるという。
ただ、長時間の同調は互いの精神に変調を来たすため、他人の肉体を奪うような真似は不可能だった。
ゴーレムなどは長時間同調可能だが、人の体と違いすぎるため、フィルリアの精神が耐えられない。死霊魔術で生み出した死体などでも同じだった。
精神や魂が入っていないが、人と同じように過ごすことが可能な肉体。そんなものを求め続け、生命魔術による肉体構築――地球で言うクローニングのようなものに行きついたらしい。
そして、その肉体複製技術には生命属性の魔力や、それに適応する人間の血肉、さらには高価な薬が必要で、闇奴隷商売は都合が良かったのだろう。
ソフィを好待遇で迎え入れたのも、回復能力だけが理由ではなかった。生命魔術の素養が高い可能性があったというのも、ソフィを求めた理由だったらしい。
ただ、ソフィの回復は魔曲の効果によるもので、生命魔術の才能は全くなかったようだが。
「人の血や肉から、その人物の肉体を完全に複製することには成功していた……」
あのヌメラエエは、実験の成果だったのだろう。それをフィルリアが精神同調で操っていたのだと思われた。
「あとは生命属性の魔力を集めて、私の肉体を複製する実験が済めば……! 私は、この地に君臨する聖女として、永遠に生きられたっ!」
「そんなことのために、多くの人を不幸にしたの?」
「そんなことですって……?」
「ん。そんなことのために死んだ人たちが、かわいそう」
フランの怒りの視線を受けたフィルリアだったが、怯えよりも怒りが勝ったらしい。狂気に彩られた表情で、金切り声を上げた。
「私のような選ばれた存在が永遠に生きるための礎になったのよ! むしろ幸運でしょう! どうせ、生きる価値のないクズばかりなのだからっ! 私が永遠に生きて人々を導いた方が、結果的には多くの人間が幸福になるわ!」
自己中を通り越して、完全にDQNだな。神にでもなったつもりなのか? フランは完全に殺気を抑えられていないが、フィルリアの狂態は止まらなかった。
「そもそも、なぜ私が聖女と呼ばれないの? 家柄も、外見も、能力も、私こそが聖女と呼ばれるに相応しい! それなのに……ポッと出のガキが、なぜ聖女なんて呼ばれるっ!」
強く噛みしめ過ぎたのか、フィルリアの唇から赤い血が流れ出る。それでも彼女の怨嗟の言葉は止まらず、ブツブツと呟き続けていた。
その姿は、到底正気とは思えない。
俺たちが痛めつけたせいか?
いや、もしかして、フィルリアは最初から狂っていたのではなかろうか? ゴーレムや死体に意識を移す実験で、精神が耐えられなかったとか言ってたよな?
自分以外の存在に意識を移すっていうのは、けっこうヤバイ行為だ。剣になった俺だって、神様によって色々と対策がなされていなければ、今ごろは狂っていただろう。
フィルリアは、実験のやりすぎでもう狂ってしまっているのでは? 今まではまともに見せる程度の余裕があったが、俺たちのせいで正気の仮面が剥がれたのかもしれない。
「ああぁ……! あなたの生命魔術の腕があれば、実験がはかどるわぁぁ!」
生命魔術を利用した実験の話をするフィルリアだが、そこで少しの違和感を覚えた。
フィルリアの結界を魔力攪乱で消去した結果、鑑定ができるようになっている。だがフィルリアの所持スキルに、生命魔術が存在していないのだ。
錬金術や調薬系のスキルも低レベルだった。回復魔術や医術のレベルだけが高い。
これで、フィルリアが語る大それた実験が可能なのか? 協力者がいそうだな。そのことについて聞いてみると、元々は助手的な存在がいたらしい。
だが、契約期間が終了してしまい、今はこの大陸を出てしまったそうだ。しかし、繋がりが消えたわけではなさそうだった。
なんと、聖国シラードが聖女に興味を示しているという話を手紙で伝えてきたのが、その助手であったという。
フィルリアも詳しくは知らないようだが、今は聖国シラードにいるらしかった。
そこで、フィルリアは神剣騎士と何度かやり取りをして、ソフィを引き渡す約束をしたという。
そうなのだ。
表向きは神剣騎士が聖女を勧誘しにくるという形だが、裏では聖女を聖国に引き渡すという約定がすでに結ばれていたのだ。
そこを、功を焦った聖騎士が暴走して、あの騒ぎが起こってしまったらしい。
ソフィが呆然としている。まさか、自分が勝手に売られていたとは思っていなかったのだろう。
傷ついた顔のソフィを気遣い、話を変えようと思ったのか、フランがもう1つの疑問を口にした。
「抗争を煽ってたのはなんで?」
「実験に必要な奴隷が足りないのよ……!」
抗争を煽っていたのは、より多くの闇奴隷を手に入れるためであった。
アウトロー同士を潰し合わせ、恩着せがましく治療を行う。そして、生命属性を持っていそうな者たちを、死亡扱いで密かに闇奴隷にするのだ。
抗魔に対抗する戦力が減ることに関して、フィルリアは特に気にしていなかった。
「クズどもが減ったところで、特に問題はないでしょう? 冒険者も、警備の兵もいるのだし」
フィルリアは戦場経験が少なく、抗魔の脅威を本当には理解していなかった。
抗魔相手にレベルを上げたはずなんだが、多くの護衛を引き連れてのパワーレベリングだったため、フィルリアは抗魔をそこらの雑魚のようにしか思っていないらしい。
危機感が全くないようだった。
「それに、もう滅んだってかまいやしないわ。
生命の宝珠と実験資料さえあれば、どこでも研究は再開できる。問題ない」
「多くの人が死ぬ」
「だから? 私の役に立たないなら、死ねばいい!」
「……もう黙れ」
「あははははは! 私の役に立たないなら、ゴミ以下の価値しかないのよ!」
「黙れ!」