軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

886 フィルリア尋問

フィルリアは、右腕の傷を押さえながら呻くように罵声を上げる。

「わ、私に、傷をっ! ば、馬鹿なの? 私にこんなことをしたら、この都市では生きていけないわよ!」

「だから?」

「は、はっ?」

「別に、構わない」

「えっ?」

フランの答えを聞き、フィルリアが呆けたような顔をした。余程信じられない態度であったらしい。

閉ざされた違法都市で生きてきたフィルリアにとって、都市内で追われる立場になるということは、最悪の状況なのだろう。

死にも等しいと考えていてもおかしくはなかった。

だからこそ、そのことを盾にすれば、フランが慌てて許しを請うとでも思っていたようだ。まさか、自分の脅しをあっさり流されるとは思っても見なかったという顔である。

一般市民をけしかけてこちらを挑発しておいて、自分が攻撃されるだけの覚悟もしていなかったとは……。

フランが少し呆れた顔になる。これだけの小物、久々に見たのだろう。

毒気の抜けた顔で軽くため息を吐くと、フィルリアをヒールで止血してそのまま尋問を始めた。

「お前は闇奴隷商人と繋がりがある?」

「うるさいっ! 私の腕を――ぎゃあああぁぁぁ!」

「うるさい。お前は私の質問に答えればいい」

「ああああ、なんでぇ……!」

右腕だけでなく左腕も失ったフィルリアは、喘ぐように絶望の声を漏らす。フランを見上げるその目には、強烈な恐れが浮かんでいた。

ようやく、目の前にいる黒猫族の冒険者が、ただの少女ではないと理解したのだろう。

「お前は闇奴隷商人と繋がりがある?」

「な、ないわ! あるわけが――」

『嘘』

「ふん」

「ぎぃぃぃぃぃ! こ、答えた! 答えたのに!」

「嘘を言うから。本当のことを言う」

フランによって俺を突き立てられた左足を見ながら、フィルリアの顔に驚愕の色が広がった。フランが嘘看破系統の能力を持っていると、分かったのだろう。

「なんで……なんで、こんな……」

「ふん」

「いぎゃあぁぁ!」

「時間稼ぎをするな。本当のことだけを話せ」

「うぁ……」

「それ以外は許さない。グレーターヒール」

「ひぃぃ……!」

斬り飛ばされた右腕が繋がっていく光景に、フィルリアは絶望の表情を浮かべている。自分が意に添わぬ行動をすればフランがどう動くのか、理解できてしまったからだろう。

『セリアドットがいつ戻ってくるか分からない。手早く尋問を済ませちまおう』

市民たちはブライネたちがすでに押さえてくれている。あちらは無視していいだろうが、セリアドットの存在だけが不安だ。

「……ん」

フランが塔の方を軽く見た。

『もしかして、セリアドットの気配があるのか?』

(わかんない)

『ふむ。まあ、この塔には監視結界が大量にあるようだし、それの気配かもな』

(ん)

ただ、セリアドットの場合は気配を察知することが非常に難しいので、急いだほうがいいことは変わりなかった。

『ちょっと、情報を話しやすくしてやろう』

「ん。ペインブースト」

「え?」

フランが使った魔術は、生命魔術のペインブースト。これは、対象が受けた痛みを倍増させるという魔術だった。

神経に作用する魔術であるのだろう。ただ、こちらの世界の強者の場合、大抵は痛覚軽減系のスキルを持っているので、雑魚相手にしか使えない魔術だった。ただ、こういう場合には最適の術だろう。

「ふむ?」

「ぎいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!」

フィルリアに俺を軽く突きさしただけで、今日一番の悲鳴を上げる。数倍に増幅された痛みに襲われたのだろう。

涙と唾液を流しながら、過呼吸のように荒く息を吐いている。

「せいめい……まじゅつ……」

「ん」

フィルリアがそう呟き、濁った眼でフランを見上げる。なんというか、不快な目だった。

奴隷商人が商品を見る目と同じだ。地下でも生命属性の魔力を感じたし、こいつの研究に生命魔術が関わっているのかもしれない。

だが、すぐにその目には恐怖だけが浮かぶようになった。

フランが足でフィルリアの傷を踏みにじり、激痛を与えたからだ。泣き声を上げ、許しを請う。

「も、もう……やめてくださぃぃっ!」

「なら、闇奴隷商人に関して知っていることを、全て話せ」

「わ、わか、わかったわっ……! わかりましたぁ!」

そこからの尋問は、いつも通り非常にスムーズだった。

こちらの質問に、フィルリアが答えていく。その結果、いくつかの情報が手に入っていた。

まず、治療院で闇奴隷売買に関わっている人間。これが、意外に少なかった。フィルリアと、その配下の警備兵数人だったのである。

セリアドットも関わっていなかった。地下の結界は、抗魔侵入への対策という形で設置させたらしい。

また、闇奴隷売買組織に所属しているわけではなく、あくまでも取引相手でしかなかった。

研究のための実験体を探すため、闇奴隷を仕入れていたらしい。また、自身で捕えた闇奴隷は、自分の研究に使えるかどうか確認し、利用価値があれば生贄、なければ売り飛ばすということをしていたそうだ。

売り買いに関しては、定期的に接触してくる組織の人間と商売を行うだけであった。ここから闇奴隷売買組織を辿るのは難しそうだ。

「研究って、なに?」

「せ、生命の魔術に関する実験よ」

「詳しく」

「え、永遠の命よ!」

「は?」

「永遠に若く生き続けるの! そのためには、生命の魔力が必要なのよ!」