軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

882 地下室での攻防

地下室の扉が開くとそこには、黒い肌をした1人の男性が立っていた。結界魔石が設置されていたせいで、隣の部屋に人がいることに気づけなかったのだ。

見覚えのある顔だった。この部屋のガラスケースの中に入っている男たちと同じ顔をしていたのである。

「ヌメラエエ?」

「……」

フランが声をかけても、ヌメラエエにそっくりな男は反応しなかった。鑑定をしてみると、名前なしとなっている。種族は人間だ。ガラスケースの中の奴らとは、違うのか? そこが分からん。

あと、スキルも表示されない。スキルを1つも所持していないようだ。

あの時死んだヌメラエエのクローン的な存在なのだろうか?

扉が再び閉じ、ヌメラエエがこちらへ向かって歩いてくる。

敵であると判断して、こちらが武器を構えた直後であった。偽ヌメラエエの纏う魔力が一気に増し、無手のまま身構える。

「……!」

「くるぞ!」

ヌメラエエの動きは、俺たちの予想をはるかに超えて速かった。フランがカウンターを入れることができないほどだ。

しかも、どうしても先日のイメージがあるため、ほんの一瞬だけ対応が遅れてしまっていた。

まあ、俺が魔術をぶっ放しているけどね!

フランがヌメラエエの拳を俺の腹で受け止めた直後、雷鳴魔術を多重起動させる。

ヌメラエエだけを狙ったはずなんだが……。

「うぉぉぉ?」

「ひぇぇ!」

電撃はヌメラエエを逸れ、何故か周囲に拡散していた。

これまた、結界の効果だ。結界魔石のように、魔力を受け流すようなタイプの能力があるのだろう。ヌメラエエの胸元に光るペンダントの1つが輝くのが見えた。

あれが、結界を張るための魔道具なのだろう。

結界によって軌道を逸らされ、周囲の人間に襲い掛かった雷鳴魔術が数人を麻痺させてしまった。

元々麻痺させるための呪文だったため、大怪我をしたものがいないことがせめてもの救いだろう。

皆に回復魔術を飛ばして麻痺を治しつつ、俺は魔力攪乱を使用した。同時にフランが斬りかかり、ヌメラエエを牽制する。

ヌメラエエはフェイントにあっさりと引っ掛かり、その斬撃の直撃を――受けなかった。

また結界だ。

魔術も物理も、結界で防ぐ戦法なのだろう。再び防御無視で突っ込んでくる。

やはり速い。しかし、その動きは非常に直線的だった。

高い身体能力を使いこなせていないのだ。また、体術スキルがないせいで、動きも非常に雑だ。

ステータスはランクB冒険者並みなのに、スキルは一切なし。ただし、結界と合わせると非常に厄介。

そんなアンバランスな存在である。

普通の冒険者からすれば、強敵と言っていい相手だ。だが、フランからすればそこまで恐ろしい存在ではない。

腕力では劣るかもしれないが、速度はフランが勝っている。しかも、このタイプの相手とは、以前にも戦った経験があった。

ウルムットの武闘大会で戦った、赤剣騎士団長のシビュラである。彼女の場合は、防御は耐性スキルに任せ、攻撃をひたすら繰り返すというスタイルだった。

シビュラは攻撃も相当な腕前なうえに勘も鋭く、体力も無尽蔵だったので、戦いが長引けば長引くほどに向こうが有利になるという戦いだった。

それに比べると、ヌメラエエは攻撃も戦闘勘もシビュラには遠く及ばない。スタイルが似ているだけだ。

そんな相手に、フランが苦戦するはずもなかった。

唯一の厄介事であった結界も、魔力攪乱スキルには抗えない。

1分ほどヌメラエエの攻撃を往なしている間に、ヌメラエエの纏う結界に綻びが生まれていた。

魔力視によってその穴を見つけたフランは、正確に斬撃を叩き込む。

「……!」

腕を切り落とされたヌメラエエは、全くの無表情のまま残った拳を振り上げた。痛覚もないらしい。

しかし、もうここからの逆転はないはずだ。結界は魔力攪乱によって次第に薄くなり、ダメージの蓄積により動きが鈍くなっていく。

それに、この凄まじい身体能力は偽ヌメラエエに凄まじい負担をかけるらしく、生命力が凄まじい速度で減っていった。

3分ほど戦っただけで、相手はもう瀕死だ。

「とどめ!」

「……!」

最後は結界を完全にはぎ取られ、フランの剣で首をかき斬られる。

だが、俺とフランには勝利を喜ぶ余裕はなかった。倒れ込んだ偽ヌメラエエの胸元で、魔力が高まりをみせるのを察知したのだ。

ヌメラエエが自爆させられた時よりも、魔力がより強い。

『フラン!』

「ん!」

俺は咄嗟に念動で偽ヌメラエエを覆ったうえに、火炎を遮断できるフレイムバリアでさらに偽ヌメラエエを囲む。

フランは大地魔術で俺たちと偽ヌメラエエの間を遮断し、さらに障壁を本気で張り巡らせた。

直後、轟音と衝撃が走り抜け、地下室を揺らす。俺たちが防いでなかったら、タダでは済まなかっただろう。冒険者たちに死者が出たかもしれない。

それほどの爆発だった。

壁の左右から吹き込んだ爆風が、部屋の中のガラスケースを全て破壊する。もしかして、証拠隠滅が目的か?

中に入っていたヌメラエエにそっくりな男たちも無事では済まない。衝撃によって四肢は捥げ、ガラスの破片で全身から血が噴き出していた。

ただ、全く動きがない。まるで、人の姿を模して作った人形のようである。もしかしたら、ゴーレム的な感じで命を吹き込まねば動かないのか?

部屋の中の惨状に対し、最も偽ヌメラエエに近かったはずの扉は、無傷だ。どうせまた結界だろう。

完全にこの部屋を密閉し、フランたちを閉じ込めてからの大爆発。殺意が凄まじい。

ブシューッ!

『何の音だ……?』

「上」

フランの視線の先には、天井に取り付けられたスプリンクラーのような装置があった。そこから、緑色の煙が噴き出している。

確実に毒だろう。俺は風魔術で一気に冒険者たちを覆うが、数人が咳き込んでいる。軽く吸い込んでしまったらしい。

『フラン、毒吸収で俺がすべて吸い込むから、アンチドートでみんなを癒せ!』

「ん!」

『まったく! 次から次へと!』

俺たちだけで逃げるなら、簡単なんだけどな。