軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

881 地下施設

どうやっても扉が開かなかったので、フランが蹴りを放った。しかし、それでもびくともしない。

頑丈というわけではない。強力な結界が張られており、攻撃が阻まれてしまっているのだ。ウルシの場合は、影転移で中に入ったから問題にならなかったのだろう。

ブライネとミランレリュも攻撃を仕掛けるが、やはりびくともしなかった。

地下でこれ以上強い攻撃は怖いしな……。

俺たちだけで中に転移して、開く方法を調べるか? まあ、まずはできることを試そう。

『フラン。丁度いい。魔力攪乱を使ってみろ』

「ん」

フランが前に出ると、ブライネたちは素直に場所を譲ってくれた。興味深げに、フランのやることを見ている。

『いきなり出力全開じゃなくて、ゆっくりとだぞ?』

「ん」

フランが集中し、魔力攪乱を使用していく。自分の魔力で周囲の魔力を掴み、強引に攪拌して乱すようなイメージだ。

最初は結界に阻まれていたが、その結界自体が次第に歪み、魔力攪乱スキルの影響を受けていく。

そして、数分後。扉に張られていた結界は完全に消え去っていた。本当は、途中で穴が開いていたんだが、練習も兼ねて最後までやってみたのだ。

結界っていうのは、多少穴が開いても自動修復されるようなイメージがあったが、そうではないらしい。

魔力攪乱で形が崩れてしまうと、途中でこちらがスキルを止めてもそのまま元には戻らなかったのだ。

結界全体の性質がそうなのか、魔力攪乱の効果なのか、様々な種類の結界があるのか。これだけだと分からないが、魔力攪乱が結界に対して通用しそうなのは確認できた。

「ふん」

「お、開いたな!」

「さすがだねぇ」

施錠もされていたが、その程度はフランには全く問題ない。扉を全力で押し開こうとすれば、巨大な南京錠もあっさり破壊されて吹き飛んでいた。

中は、石造りのこぢんまりとした部屋である。埃っぽさはみじんもなく、細かい塵すら確認できない。やり過ぎと思えるほどに、手入れが行き届いていた。

その部屋の壁際に、いくつもの檻が並べられている。

その檻の1つに、探していた人物が入れられていた。

「ガズオルじゃないか!」

「ミランレリュか……。あの黒いのは、約束を守ってくれたらしい」

「何を言ってるんだい? 傷が深すぎて幻覚でも?」

ミランレリュはガズオルの状態を見て、悲鳴を上げていた。ガズオルは高い再生力を持っているはずなのだが、その全身が傷だらけだったのだ。相当酷い拷問を受けたのだろう。

ミランレリュが檻を破壊しようとするが、竜人の腕力でも破壊できないらしい。

捕まえた竜人や獣人に逃げられないように、彼らでもおいそれと壊せない頑丈な檻を用意しているのだろう。

俺たちが檻を破壊してもいいのだが、ここは外の冒険者たちから斥候や盗賊技能のある人間を呼んできてもらうことにした。

その方が多くの人間がここのことを知るからな。ただ、ガズオルの傷だけは治しておこう。

フランが、檻越しにグレーターヒールを使う。するとガズオルがようやくフランに気づいたらしい。

「お、お主は……!」

「またあったね」

「なんだい? あんたら知り合いかい?」

「ん」

「ま、まあのう」

襲って返り討ちにあって、頭を下げた相手なのである。ガズオルは何と言っていいか分からないようだ。

「で? あんたをこんなとこに閉じ込めやがったのは、どこのどいつだい?」

「驚かないでほしいのだが……」

ガズオルが口ごもるのを見て、ミランレリュが顔をひきつらせた。その態度を見て、相手が余程の大物であると理解したのだろう。

「ここは、治療院の地下にある施設だ。そして、俺を捕えたのは、医長フィルリア」

「はぁぁ? おいおい、まじかい?」

「本当だ。俺を闇奴隷にしようと、散々痛めつけてくれたのは奴らだからな」

フラン以外の全員が、ガズオルの言葉にザワリと揺れた。その姿を見て、その言葉を聞いたとしても、信じ難いのだろう。

だが、ガズオルの仲間であるミランレリュや、元々組織に不信感を持つブライネは、彼の言葉をすぐに信じたようだ。

「そうかい。あの女かい……。澄ました顔して、とんだ毒婦だったってことだね!」

「どんな組織であっても、長く続いてりゃ腐っちまうってことなのかもな」

2人の言葉に頷きつつ、フランが奥の扉を指さす。

「この先を確認する。他に捕まってる人がいるかも」

呆然としていた冒険者たちも、フランの言葉でなんとか立ち直っていた。本当に治療院の仕業なのかどうか、先へ進んでみればはっきりと分かるとも考えたのだろう。

後続部隊の到着を待って、先へと続く扉へと突入した。

しかし、直ぐにその足は止まってしまう。

全員が、その部屋の異様な光景に、目を奪われてしまったのだ。

それはフランたちも例外ではない。目を見開いて、部屋の中を見回していた。

「むぅ……」

「こりゃあ、なんだい……?」

「人、なのか?」

その部屋には、円柱形の巨大なガラスケースが5つ設置されていた。中には赤っぽい液体が満たされ、いくつもの管がケース脇の棚へと伸びている。管はゴムではなく、ガラス製のようだ。

棚にはいくつものポーション瓶が置かれ、中のポーションが点滴のように、管を通してガラスケースの中に注入されている。

だが、最も異様なものは、ガラスケースの中の存在であった。何と、その中には2つを除いて人間が入れられていたのだ。少しだけ首を前に倒して、まるで項垂れているような姿の男性たちである。

液体の入ったガラスケースの中に浮かぶ3人の男。それだけでも異常なのに、さらにおかしいのはそいつらの顔が全く一緒であることだった。

見たことがある顔だ。

「ヌメラエエ……?」

「こ、黒雷姫。知ってんのかい?」

「ん。フィルリアの部下。でも、死んだはず」

目の前で粉々に吹き飛んだのである。生きていたなんてオチ、有り得ない。

『生命の魔力を感じるな……』

「ん……」

鑑定してみると、名前は『なし』と表示され、種族なども表示されない。説明には、生命の魔力と錬金術によって生み出された、人の形をした生命体、とあった。

ホムンクルス的な存在なのだろうか? じゃあ、あの時のヌメラエエも?

余りの異様な光景に、俺たちは警戒が疎かになっていた。普段のフランだったら、この部屋に結界魔石が置かれていることに気づけただろうし、俺もその可能性に思い至っていたはずだろう。

ガゴン。

鈍い音と共に、俺たちが入ってきたのとは逆側の扉が開いていた。