軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

842 酒場で情報収集

犬獣人の男が、こちらをじっと見つめている。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「昨日から、随分とはしゃいでいるようだな?」

昨日からって……。もしかして俺たちの行動を把握している? だが、監視されている様子はなかった。

移動には転移だって使ったし、追尾も難しいはずなのだ。それとも、どんな場所でも追えるほどの監視網がある?

それよりは、脅したチンピラたちが上役に報告をしたという可能性の方が高いか? 脅し足りなかったのかもしれない。

「……なんのことだ?」

一応惚けてみたが、相手には確信があるようだ。

「脅しが効きすぎた。普段は路地裏でクダを巻いているだけの奴が、昼間っから寝床に潜り込んで震えてりゃ、誰だって不審に思う」

「あー……」

脅しが足りなかったわけじゃなく、逆だったらしい。

恐怖に震えるチンピラが挙動不審になりすぎて、何かあったとバレたようだ。俺たちに口止めされていたって、上役に問い詰められれば口を割るだろう。

そこで、闇奴隷商人について聞きまわる黒猫族の少女がいるという話が、アウトローの一部に広まってしまったらしい。

「あー、ここらの組織に敵対するつもりはないんだ。絡まれたから、ちょっとやり返しただけで」

「……だろうな。あんたたちくらいの力があれば、他にやりようもある」

俺だけではなく、フランとウルシの強さも感じ取ったか。よほど危機察知能力が高いのかもしれない。

「あの娘の手綱をしっかりと頼む。さっき、危なかっただろう?」

「ああ、後でもう一度叱っておくよ。さっきのは俺もちょいと肝を冷やした。今は反省してるし、次はもう少し考えて行動してくれるだろうよ」

俺がそう言って肩を竦めると、男が苦笑いをしながら首を横に振った。俺の態度を見て、俺とフランの関係を悟ったのだろう。俺は保護者だが、命令できるわけじゃない。そもそも、命令をする気もないしね。

「俺は、ここで暴れるんじゃなければ、それで構わん」

「情報さえ手に入れば消えるさ」

「……いいだろう」

男はそう呟くと、コップをゆっくりと持ち上げた。そして、俺の持つコップに軽くぶつけてくる。

それを見た周囲のアウトローたちからの視線の圧力が、驚くほど一気に薄れた。やはり、ただ強いだけの一匹狼ではなく、この辺りの顔役みたいなものなのだろう。

この犬獣人と打ち解けたように見えたことで、完全に敵ではないと認識されたらしい。

「知りたいことは、マスターに聞くといい」

「やっぱあの人が?」

「ああ」

「分かった。助かったよ」

「礼はいいからさっさと行け。できればこの辺りにはもう近づかないでくれるとありがたいんだが?」

「それは、俺たちの探し人の居場所次第だ。あんたは知らないんだろ?」

「俺も噂話以上のことは知らん。うちは無関係……のはずだ」

犬獣人の言葉に嘘はない。

男は、チンピラから事情を聞き出している。俺たちの探し人が、闇奴隷商人であると知っているはずだ。

それでいながら嘘を吐いていないとなると、本当に彼や、その所属組織は関係ないのだろう。ただ、組織を裏切り、個人的に奴隷売買に関わっている構成員がいる可能性は否定できない。

それゆえ、「はず」なのだろう。

「邪魔したな」

俺は男に再度謝意を伝えると、そのまま席を立った。そして、カウンターで肩を落とすフランの隣に座りなおす。

「マスター。情報が欲しい。いいか?」

「どんな情報を欲している?」

あの男と乾杯したことで、紹介状を貰ったのと同じような扱いになったらしい。

俺は風魔術で音を遮断してから、マスターに用件を告げた。

「闇奴隷商人についての情報なら何でも。一番欲しいのは、奴らの拠点について。あと、その組織にどんな強者がいるのか」

「……やはりな」

マスターが一瞬フランに視線を向け、そう呟いた。フランの情報はすでに仕入れていたらしい。最初から分かっていたんだろう。

「拠点に関しては、正確には分からん。立ち入り禁止区画のどこかだろう」

「立ち入り禁止区画? そんなところがあるのか?」

「町の中央。治療院の本部がある区画には、関係者以外立ち入り禁止だ。しかも、その奥には幹部やその配下しか入れん場所もある」

警備も異常なほどに厳しく、情報屋であっても詳しい情報を仕入れるのは難しいらしい。下手に探れば消されることから、アンタッチャブルな場所として情報屋からすら忌避されているという。

「つまり、治療院が……?」

「主導しているわけではないだろうが、幹部の中に闇奴隷商売に手を染めているものがいるのだろう。しかも、かなり上の方にな」

この都市で一番敵対してはいけない組織に、敵の重要人物が紛れ込んでいる可能性が高いのか……。厄介だな。

「捕まえた奴隷は最終的にその拠点に集められ、都市外へと連れ出されていると思われる。だが、その方法は分からん。地下道なのか、転移なのか。地上を普通に運ぶわけではないはずだ」

「最終的にその立ち入り禁止区画に連れていかれるとしても、その前に奴隷が集められたり、構成員が寝泊まりしている場所があるんじゃないか?」

「闇奴隷商人たちは、表向きは他の組織の人間として生活している。明確にこいつが怪しいと言える人物、組織は少ない」

「少ないってことは、心当たりがゼロってわけじゃないんだろ?」

「まあな。心当たりは3つ」

意外と多かった。

「1つは治療院の警備部隊。人数が多く、内部に潜り込みやすい。そして禁止区画に入っても不自然ではない」

「なるほど」

「警備部隊には青猫族も所属しているな」

青猫族と聞いたフランの眉がピクリと動いた。落ち込んでいても、天敵の名前は聞き逃さないのだろう。

だが、先ほどのことを反省しているのか、口を挟むことはなかった。ジッと動かず、マスターの言葉に耳を傾けている。

「2つ目は、冒険者たち。どんな経歴の人間がいてもおかしくはないし、依頼を受けて禁止区画に立ち入ることもある。紛れ込むには最適だろう。青猫族の冒険者も何人かいる」

ここの冒険者ギルドは特に訳ありの荒くれ者が多いのだろうし、その中に闇奴隷商人の関係者がいることは十分あり得るだろう。

「3つ目、獣人会のアウトローたち。獣人会ですら持て余すほどの、残忍な悪党どもだ。『血牙隊』と名乗っている。こいつらなら、何をしていてもおかしくはないし、構成員には青猫族もいる」

この血牙隊は粗暴過ぎるせいで、同じ獣人会の構成員にさえ嫌われているらしい。容疑者候補としては、一番可能性が高そうかな?

それにしても、マスターも青猫族が怪しいと考えているようだ。というか、繋がりがあることは確信しているっぽい。

「以上だ。あとは自分たちで調べるんだな」

「……青猫族を探せばいい?」

「うーむ。とりあえずそうするか」

結局、黒猫族の敵は青猫族ってことか。