軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

841 フランの焦り

フランが肉食獣のような笑みを浮かべている。絡んできたチンピラたちから、力ずくで情報を聞き出すつもりなのだろう。

しかし、俺は反対だ。ここで暴れて追い出されでもしたら、これ以上情報収集もできなくなるのだ。

ただ、フランが情報を求めるあまり焦ってしまう気持ちは、分からないでもない。

闇奴隷時代は、よっぽど過酷で悲惨だったのだろう。どこかで闇奴隷にされようとしている人たちがいるかもしれないと思うだけで、冷静さを失って暴走気味になってしまうほどに。

だが、ここでいきなり騒ぎを起こすのは得策ではない。俺は大慌てでフランを止めに入った。

「フラン! ちょっと落ち着けっ!」

「師匠?」

「まったく、待てって言ってるのに……」

フランとチンピラたちの間に割って入り、彼らを庇う。まあ、男たちは全く感謝してくれないだろうけどね。

「なんだてめぇ?」

「邪魔すんなよ」

メッチャ睨んでくる。分かっていたことだが、俺の強さも感じ取れないようだ。今にも殴り掛かってきそうである。

まあ、こいつらの拳くらいじゃ、大したダメージにはならないけどね。今回の体は、かなり強くしておいた。ランクC冒険者レベルはあるだろう。

そう、フランを止めたのは俺の分体である。

大急ぎで店の外に分体を生み出し、全速力で酒場に突入したのだ。店の外に人がいなくてよかった。

『フラン! 気持ちはわかる。だが、一人で突っ走るな!』

(……だって)

『だってじゃない! いいか? このチンピラたちが大きな組織の一員だったら、町全体が敵に回るかもしれないんだぞ?』

(……)

『俺の前世には急がば回れっていう言葉があった。急いでいても、近道をしたりせずに、安全確実な道を行った方がいいって意味だ。闇奴隷商人を探したい気持ちは分かるが、ここで騒ぎを起こして相手に隠れられたら、困るのは捕まっているかもしれない人たちなんだぞ?』

(……ん)

俺が普段以上に強く諭したことで、自分の行動がまずいものだったと理解したのだろう。フランの瞳が揺れる。

(師匠……でも……)

『ここは、俺に任せろ』

(……)

『今は落ち着こう。な?』

(わかった……ごめんなさい)

フランから完全に殺気が消えた。

自分が暴走していたことを自覚し、反省しているのが分かる。だが、ここで甘やかしてはいけないだろう。

俺は心を鬼にして、フランに罰を与えなくてはならない。

『明日から10日間、カレーは1日1杯だからな』

(師匠!)

(オン!)

『2人してそんな顔をしてもだめだ!』

フランが絶望の表情を浮かべるが、それだけ俺が怒っていると伝わっただろう。ガクリと肩を落とした。

後は、チンピラたちをどうにかするだけだな。

フランを諭している間にも、分体はチンピラたちを宥めていた。同時演算スキルのお陰である。

フランが人を探しており、ここにその人物のことを聞きに来た。騒がせて悪い。そんな感じに話を持っていったのだ。

「まあ、この娘が少し不躾だったことは確かだが、ここは一つ大目に見てやってくれないか?」

俺は最初に声をかけてきたチンピラと肩を組み、そのまま軽く力を込めた。チンピラが顔色を変える。

俺がいつ自分と肩を組んだのか分からないうえ、見た目からは想像もできないほど力があると分かったからだろう。

痛がらせないように。それでいて身動きができないように、格闘技能も使ってホールドする。

さすがに力の差が理解できたらしい。チンピラたちは途端に黙ってしまった。これで、こいつらはしばらく大人しいだろう。

最後は、金貨を一枚取り出してマスターの前に置く。

「これで、ここにいる全員に一杯奢らせてくれ」

「「「うおおぉぉぉぉ!」」」

酒をタダで奢ってくれる相手に、悪い感情を覚える奴などいない。それはどこの酒場でも同じなのだろう。

聞き耳を立てていた周囲から、歓声が上がった。同時に全員がジョッキを掲げて、俺に軽く振ってくる。礼儀の分かった新顔を、とりあえずは受け入れたらしい。

そして、チンピラたちはこれ以上俺たちに絡んでくることはできなくなった。何せ、それをしたら周囲の人間が全員敵に回る。俺たちの機嫌を損ねれば、タダ酒がふいになるかもしれないからだ。

酒場を出た後は、金目当てで狙ってくる奴がいるかもしれないが、この酒場にいる間は大丈夫だろう。

さて、後は情報を得るだけなんだが……。

酒場を見回すと、1人の獣人が目に入った。この騒がしい酒場の中にあって、隅っこでチビチビと酒を舐めるように飲んでいる初老の男性だ。

だが、かなり強い。ランクC上位。進化していれば、ランクBは確実だろう。それでいて、威圧感の欠片もない。

地味に、周囲に紛れ込んでいた。

獣人では珍しいタイプだろう。普通の獣人がこれだけ強ければ、覇気丸出しで周囲を従えようとするはずなのだ。

あの耳は犬系統かな?

「フランとウルシはここで待ってろ」

「……ん」

「……オフ」

カレー1杯制限がよほど応えたのか、フランはしょぼんとした様子で椅子に座ったままだ。ウルシもその横で黄昏ている。

絡まれても不干渉だったマスターが、つまみ用のナッツをそっと出してくれたほどだ。

なんだかんだナッツをポリポリし始めたし、時間がたてば復活するだろう。

俺は1人カウンターを離れ、犬獣人(仮)さんが酒を飲むテーブルに近づいた。特に隠形などしていないので、すぐにこちらに気が付いたらしい。

だが、逃げるようなことはせず、相変わらず静かにコップを傾けている。

「やあ、さっきは騒がせてすまなかったな。あの娘がちょっと先走ってしまって」

「ああ」

「お兄さん、雰囲気あるな」

「……そちらこそな」

互いの値踏みする視線が絡み合う。やはりかなりヤルな。俺の強さを即座に感じ取り、それでいて緊張することもない。むしろ、敵か味方か冷静に判断しようとしている。

「実は人を探していてね。情報に詳しい人物を探しているんだが、心当たりないかい?」

「なぜ、俺に聞く?」

「あんたが知らなきゃ、誰も知らなさそうだからだよ。マスターは教えてくれなさそうだしな」

「……」

こちらの心の内を見透かそうと、探る眼で見てくる男。

さて、この男は俺たちをどう判断するか。無視するか、敵対するか。それとも友好的に接してくるか。

「どうだい?」

「……」