軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

843 ガズオル

酒場からの帰り道。

『フラン。ウルシ』

「っ」

「オフッ」

俺が声をかけると、フランとウルシが同じタイミングでビクリと震えた。

フランが恐る恐る振り返って、背中の俺を見る。その目には、怯えの色が浮かんでいた。同時に、申し訳なさを感じているのも分かる。

自分が少々暴走気味だったということを、分かっているのだろう。

その捨てられた子猫のような眼を見れば、しっかりと反省しているのも理解できた。

『……ここは敵地みたいなものだ。慎重に行動しよう』

「ん」

「オフ」

しっかりと頷く2人。これで、余程のことがない限り、暴走するようなことはそうそうないだろう。

『反省しているようだが、罰は罰だ。カレーは1杯しか食べちゃダメだからな?』

「ん。罰は必要」

「オフ」

わずかな口答えもなく、即座に頷くとは……。俺の想像以上に、反省の念が強いようだ。

『とりあえず――む!』

「ん!」

「グルル!」

この後のことを相談しようとした直後、俺たちは咄嗟に臨戦態勢をとる。

暗い路地の奥から、鋭い敵意が放たれたのだ。どう考えても、こちらを標的にしている。

(どうする?)

『相手が何者か見極めよう。いざとなったら転移で逃げる』

(わかった)

近づいてくる敵意の主を待ち構えること10秒。

闇の中から姿を現したのは、異様な風体の巨大な竜人であった。

普通の竜人は、人の体に僅かに竜の特徴が表れている。頭の角や、目元や腕に生えた鱗くらいだろう。

だが、現れた竜人は、二足歩行の竜と言っても差し支えない姿をしていた。

頭部は完全に竜だ。人らしい部分は一切ない。腕などもすべての部分が鱗に覆われ、肌色の部分は見えなかった。

外套の後ろからは長いしっぽがはみ出し、足はレッグガードなどを付けてはいるものの、基本は裸足だ。靴を履くよりも、自前の鱗の方が頑丈なのだろう。

腰に下げた剣はショートソードに見えるが、実際は長剣だろう。この竜人の身長が3メートル近いため、小さく見えるのだ。

ゆったりとした灰色の外套の上からでも、金属鎧を身に纏っているのが分かった。

金属鎧が擦れ合うカチャカチャという音を響かせながら、警戒するようにゆっくりと向かってきていた竜人は、フランの間合いギリギリの場所で歩を止める。

「……誰?」

「……」

身構えるフランの言葉に応えようともせず、竜人はジッとこちらを見下ろしていた。その視線には、やはり強い敵意が籠っている。

鑑定すると、かなり強かった。名前はガズオル。男だ。種族は風竜人となっている。

剣聖術:Lv4、剣聖技:Lv3、格闘技や風魔術も高レベルだ。風竜化という固有スキルも所持している。

ただ、それら以上に目に留まるのが、防御系や体力増強系のスキルだ。

強靭、筋肉鋼体、硬気功、体力上昇、忍耐、痛覚無効などに加え、高速再生、生命吸収などのスキルまで持っている。しかも、全てが高レベルであった。

あと、竜鱗という固有スキルが強力である。魔力を鱗に纏わせることで、第二の鎧とすることが可能なスキルらしい。

これらのスキル以外に、ガズオルは魔鋼製の鎧を着こんでいる。この大陸で出会った人間の中でも、その守備力は随一だろう。

『かなり堅い相手だ。気を付けろ』

(ん)

そんな男が、何も言わずに剣の柄に手を伸ばした。

フランも、肩越しに俺の柄を握る。

「物盗り?」

「……!」

『問答無用かよ!』

男は再度の問いにも反応を示さず、いきなり斬りかかってきた。

大上段から、鋭い一撃を見舞ってくる。その一撃を冷静に受け流したフランは、その場で身を屈めた。

しゃがみこんだフランの頭上を、竜人の巨大な足が空を裂いて通過していく。剣と前蹴りの二段攻撃だったのだ。

まあ、フランは完全に見切っていたが。

多分、闇討ちのつもりで、人気のないこの路地を襲撃場所に選んだのだろう。だが、どう考えてもこの男に合った戦場ではなかった。

開けた場所で、その体格を活かした方が絶対に得意なはずなのだ。むしろ、この狭い路地では動きが制限されてしまう。

案の定、攻撃が単調だった。

対するフランは、この場所でも十分に動き回ることができる。

「しっ!」

「ガッ!」

ガズオルの前蹴りを回避したフランは、俺を振り上げてガズオルの足の腱を断っていた。本当は足を切り落とすつもりだったのだろうが、相手の防御力が想像以上だったのだ。

魔力で覆われたガズオルの竜鱗は、それだけで鋼鉄以上の防御力があるようだった。

ただ、フランはその場合も考えていたらしい。だからこそ、傷さえつければ相手の動きを制限できるアキレス腱を狙ったのだろう。

さらに、フランはしゃがんだ状態から一気に跳び上がると、三角跳びの要領で左右の壁を蹴り、竜人の頭上を飛び越えた。

当然、ガズオルも反応している。振り上げた拳はかなりの威力があるのだろうが、俺の念動で弾かれていた。

慌てて反転しようとするが、足の傷とその巨体が邪魔をし、動きが一拍遅れている。

どうやら、市街地での戦闘経験が少ないらしい。その強さの割に、動きが大分お粗末だ。普段は町の外で抗魔を狩っているのかもしれなかった。

それに、この男の攻撃には殺気が乗っていない。どうやら痛めつけることが目的らしく、殺さないように手加減すらしていたのだ。警告目的だったのだろう。

だからと言って、フランは容赦しないが。

「はぁぁ!」

「グアッ!」

どれだけ鱗が硬かろうとも、空気抜刀術の直撃を受けては無事では済まない。ガズオルの右足は膝から切断され、その場で巨体が横倒しになったのであった。

「我が足を……! 黒猫族が……?」

目を見開くガズオルの顔は、怒っているようには見えない。どちらかといえば、驚愕の表情だろうか?

まあ、竜の顔のせいでいまいちわからないけどね。呆然とするガズオルに対し、フランが剣を突き付ける。

「お前は、何者? なんで私を狙った?」

「……くそ。獣人会の助っ人が、これほどの強者だったとは……」