軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

793 肉の重要性

「マスターが申し訳ありませんね」

「……助かった」

「まあ、マスターの毒牙から冒険者の方々を守るのも、私の仕事ですので」

今日は自分の家に泊まっていけと引き留めるリプレアの誘いを必死に断る中、サブマスターに助け出されたフラン。

ギルドマスターであるリプレアも、サブマスターであるこの老人には逆らえないらしかった。柔らかい笑みを浮かべる好々爺だが、その身長は非常に高く、筋肉の鎧は若い冒険者と比べても分厚い。

高レベルの戦士なのだろう。

「ギルドマスターとのやりとりが面倒でしたら、私をお呼び下さい」

「ん」

強い奴が好きな変態って聞いてはいたけど、まさかストレートな意味だとは思わなかった。

フランがその意味を理解できてなくてよかったぜ。

性別や種族、年齢関係なく、強者であればいいとは……。あれで良識のあったウルムットのエルザよりも、余程恐ろしい相手だったかもしれない。

まあ、フランに好意的なあの様子ならば、青猫族から情報を引き出してきちんと「お仕置き」してくれるだろう。

裏であいつらとつながっている衛兵も探すと言っていたので、期待していいと思う。

リプレアは、メチャクチャしつこそうだしね。多分、フランのことも諦めていないだろう。

その魔の手から逃れたフランは、冒険者ギルドの訓練場へと向かっている。

でも、模擬戦が目的ではない。そっちも頼まれたけど、それ以上に相手が食いついてきたことがあったのだ。

「新鮮な肉はこの大陸では貴重ですからね。非常に有り難い」

「たくさんある」

「それは楽しみですなぁ!」

老爺が本当に嬉しそうに笑う。心なしか、その足取りが軽くなったようだ。

そう、俺たちが頼まれたことは、次元収納に仕舞いこんである魔獣素材の放出であった。肉も素材も、この大陸では貴重品だ。

特に肉。

武具に使うための素材は、各大陸から一定の量が送られてくるらしい。修理などに必要だからだ。

だが、肉類に関してはそうもいかない。

必需品でもないし、長距離の運搬も難しいのだ。できない訳ではないが、コストなどの面を考えれば現実的ではないのだろう。

それ故、ゴルディシア大陸の主食は海で穫れる魚であった。むしろ、魚はウルムットなどと比べても非常に安いだろう。

肉は、冒険者が狩猟してくる動物の肉が僅かに出回る程度だった。

そこにやってきたのが、次元収納に大量の肉を保有しているフランである。その話になった時の、ギルマスやサブマスの食いつきが凄まじかった。

「肉ですってぇ!」

「肉ですと!」

「あと素材」

「肉ですってよ?」

「肉だそうですぞ?」

下手したら、肉の話がなければサブマスは助けてくれなかったんじゃなかろうか?

魔獣素材なんざどうでもいいから、とにかく肉! どちらもそんな反応だった。よほど肉が欲しいのだろう。

ただ、問題もあった。

魔獣素材が持ち込まれることがほぼないこのギルドには、碌な解体施設がなかったのだ。

普段は小さい解体部屋で鹿や猪を解体するくらいだし、仕方ないが。

そこで、訓練場だ。解体場が小さいのに対し、このギルドの訓練場は非常に広かった。冒険者の数も多いうえ、普段から鍛錬を欠かさない者も多いからだ。

「ここが我がギルドの地下訓練場です」

「おお、広い」

「そうでしょう」

ウルムットなどのギルドに比べれば、5倍くらいの敷地があるだろう。そこでは、100人近い冒険者たちが思い思いの訓練を行っていた。

彼らの視線が一斉にこちらを向く。フランのような少女を、サブマスターがわざわざ案内して来たからだろう。

「サブマス、その子供は?」

「……コゾンか。ただの子供に見えるかね?」

「見えんな。だが、下の奴らにはただの子供に見えているだろう」

「見る目のない事だ」

「くくく」

入り口にいたコゾンと呼ばれた戦士は、かなりの腕前だ。多分、訓練場にいる者たちに稽古をつけてやるような立場なんだろう。

フランを見て、好戦的な笑みを浮かべた。

「まあ、すぐに見る目が変わるだろう。では、フラン殿、よろしくお願いいたします。今、冒険者たちをどかしますので」

「ほう?」

サブマスがフラン相手に敬語を使ったことで、ただ強いだけの相手ではないと理解したようだ。

「今から訓練場を使用する! 中央にいる者は壁際によれ!」

「おいおい。俺たちゃ、今訓練を始めたばかりなんだぞ? それをいきなり――ごべっ!」

えええ? このサブマス、文句を言ってきた戦士を問答無用で蹴り飛ばしたぞ? 退かないなら物理的に壁際に寄せるってことか?

男は壁に激突して、痙攣している。死なんよな?

「これはギルマスも承知のことだ。文句があるなら実力で排除することになるが?」

権力と暴力。両方で説得されては、文句を言うわけにもいかない。他の冒険者たちは聞き分けよく、訓練場の壁際に逃げて行ったのであった。震えている奴らは、蹴り飛ばされた男の仲間かな?

「では、こちらにどうぞ」

「ん」

コゾンが壁から僅かに体を離すと、ニヤリと笑う。特別な模擬戦でも始まると思ったのかな?

残念だが、違うのだよ。

「じゃあ、出す」

フランが最初の魔獣を取り出した。真っ二つに斬られた、ファング・ボアの半身だ。まあ、下級の猪である。

肉は質よりは量が重要だと言われているので、下級でも体が大きい魔獣を中心に、訓練場へと並べていく。

魔獣の死体が出てくる度に、冒険者たちから感嘆の声があがった。彼らも、これが肉になると理解しているようだ。

途中からは大歓声であった。

「ありがとうございます。こちら、すぐに代金を用意させます。できれば、少し解体を手伝っていただきたいのですが、いかがでしょう? 勿論、解体指導料として色を付けさせていただきますぞ?」

「わかった。待ってる間暇だし、それでいい」

この大陸の冒険者たちは解体下手そうだし、それくらいのサービスはしてやらないとね。