作品タイトル不明
777 指揮官フラン
抗魔の大群を迂回しながら南へと向かっていると、背後から低く重い金属音が聞こえた。
ドワーフたちが突撃を開始したのだろう。少し前から抗魔たちはドワーフに気付いており、新たな動きが生まれていた。
今までは東に向いていた彼らの視線が、背後である西にも向いたのだ。
指揮官個体は、群れを半々に分けて対応することにしたらしい。軍勢が左右に寄った分、中央が手薄になるのが分かった。
『あの辺が狙い目だな』
「ん。みんな、もう少し進んだら、中央部目がけて突入する」
「へい!」
ディギンズはいい返事をするが、他の冒険者たちは不安げだ。やはり、2万もの大軍を目にしてしまうと、どうしても恐ろしくなってしまうのだろう。
「だいじょぶ。危険になったら私が助ける」
「へへ! 黒雷姫さんがそう言ってくれるなら、勇気100倍でさ!」
「ん!」
「……」
まあ、フランが強いことは理解できても、どれほど強いかまでは分かっていないのだろう。
他の冒険者は、暗い目で盛り上がるフランとディギンズを見ている。
済まんな、冒険者諸君。いざとなったら、俺が助けてやるからな! まあ、ここで口に出すことはできんから、不安を解消してやることは不可能だが。
青い顔の冒険者たちを引き連れてさらに歩くフラン。これは、俺が一肌脱ぐしかないか? フランから励ましの言葉をかけてやった方がいいかもしれない。
フランは繁みの深い場所で立ち止まると、腰をかがめた。抗魔の注意が十分にドワーフに引きつけられたことを確認し、俺を引き抜く。そろそろ俺の出番かな?
「いく」
「うす!」
「……はい」
フランは、元気のない冒険者たちをちらりと見る。そして、おもむろに口を開いた。俺の指示ではない。
「私は治癒魔術も使える。即死しなければへいき。倒れても、絶対に見捨てないし、置いてきぼりにしない」
「……」
「それに、ウルシもいる」
「オン!」
ウルシが影から姿を現す。ずっと気配を隠していたので、ディギンズも気付かなかったのだろう。全員が驚きの表情だ。
「うわぁ! な、なんすかこのワンちゃんは?」
「グルルル!」
「ひぇっ!」
「ウルシは犬じゃない。狼。間違えたらおこる」
「オン!」
「お、狼のウ、ウルシさんすか。もう間違えねーっす!」
「オフ」
「許してやるって」
「へへぇ!」
ウルシ、犬に間違えられて怒る程度の狼属性は残っていたんだな。にしてもディギンズはウルシにも低姿勢か。
しかも、フランの従魔だからという理由だけではなく、ちゃんとウルシの実力を見抜いたらしい。中型犬サイズになっているうえに魔力を隠蔽中のウルシを見て、強いと思える冒険者がどれだけいるだろうか?
脳筋そうに見えて、しっかりとした眼力と、世渡りの上手さを持っているらしい。
「それに、この人数で指揮官を倒したら、凄い。きっと、報酬もたんまり」
「なるほどっすね!」
「だいじょぶ。私に付いてくればいい」
フランがあえて威圧感を放ちながら、ニヤリと笑った。まあ、俺以外は笑っているとは気づかんだろうが。
フランなりに、自分の強さを少しでも見せて、臨時の配下たちを勇気づけようというのだろう。
「ウルシも、凄い強い。ディギンズよりも強いから、みんなを護る。ね?」
「オン!」
冒険者たちに、少しだけ元気が戻ってきたかな? 先程よりも血色の良い顔で、フランの言葉を聞いている。
励まされたというよりは、こんな少女に気を使わせて恥ずかしいという感じであるようだが、それでも元気が出たことに変わりはない。
『フラン、凄いじゃないか! 本物の指揮官みたいだぞ!』
(ドナドロンドとかのことを思い出してた)
『なるほどな』
俺とフランが、初めて大勢での戦いを経験したアレッサの町。その時に指揮を執っていたドナドロンドの姿を、フランはしっかりと覚えていたらしい。
(他には、王都の騎士団長とか、獣王とか)
色々な場所と戦場で、色々な指揮官を見てきた。その経験が、フランの中で生きているようだった。
「私についてくればいい」
「オン!」
「はい」
「いい顔。私たちなら、きっとやれる。だから、自信を持つ」
「はい!」
ディギンズも一緒になって叫んでいる。士気は何とかなりそうだ。
「いく!」
「「「おう!」」」
フランが俺を力強く掲げ、そのまま遠くに見える抗魔の群れへと走り出した。冒険者たちもしっかり付いてくる。
『まずは先制攻撃だな』
「ん!」
俺たちはまず、ファイア・アローを放って前方の抗魔を攻撃した。俺とフラン合わせて40本ほどのファイア・アローが、抗魔の軍勢目がけて降り注ぐ。
さらに、それを3回4回と繰り返した。それだけで、100以上の抗魔が消滅していた。火の矢の数よりも討伐数が少ないのは、俺とフランで狙いが被った抗魔が結構いたせいだ。
「え? 黒雷姫さん! 広範囲に攻撃すんのはまずいんじゃ……!」
「だいじょぶ。抗魔にしか当ててない」
「え? あの数の魔術を、抗魔だけを狙って当てたんすか?」
「? そうだけど?」
「す、すげぇ!」
「あの数の魔術を、完全に制御してるっていうのか?」
「こ、これが異名持ちの実力か!」
フランの卓越した魔術制御を見て、冒険者たちが驚きの声を上げる。次いで、彼らに笑顔が戻るのが分かった。フランの実力を目の当たりにし、本当に安心したのだろう。
「突っ込む」
「うおっしゃぁぁ! やってやりましょうぜぇ!」
「こうなったら、やってやるさ!」
「私たちだって、ランクCなのよ! 意地見せてやるわ!」
「うおおおおお!」
みんな、頑張れ!