軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

776 ゴルディシアの冒険者たち

バシャール王国の大敗によって、抗魔が大量に集まってしまったという報告を受けてから1時間後。

掃討に向かっていたベリオス王国軍の前に、凄まじい数の抗魔の群れが現れていた。ああ、ドワーフたちは移動があまり速くないので、ベリオス王国が先行しているのだ。とは言え、精々が300メートル程だが。

報告では2万だったか? 確かにそれくらいはいそうだ。

ただ、すでに戦闘が始まっているらしい。ほぼ全ての抗魔がこちらに背を向けていた。抗魔を挟んで逆側に、他の救援部隊がきているのだろう。

さらに、他からやってきたという救援部隊とも合流する。

30人程の冒険者の集団だ。1つのクランというわけではなく、複数のパーティによる合同パーティであるそうだ。

ただ、ここ何年もゴルディシアで活動している者たちばかりであり、時おり一緒に仕事をしているらしい。気心も知れているようなので、彼ら同士がいがみ合う心配はないだろう。

戦力的には、ランクBが1人に、ランクCが5人。残りは全員ランクDという、平均レベルが高い集団だ。しかも、全員が近接戦闘もできるスキル構成だった。

魔術師も数人いるが、スキルに剣術や槍術がある。ウィリアムも言っていたが、この大陸で活動するには接近戦もできなくてはいけないのだろう。

ランクDの者の中には、他の大陸に行けばランクCとして通用しそうな者もいる。こっちにドワーフ戦士団や、デミトリス流の集団が一緒でなければ、非常に頼りにされたはずだ。彼らもそれは分かっていたらしい。

実際、最初は少しいきり気味だった。無礼というほどではないが、主導権を握ろうとしていたのだろう。

「おうおう。そちらさんが、ベリオス王国の方々で? 俺はディギンズ。この辺じゃあ、ちいと名の通った冒険者よ」

「そうかい。俺はブルネン。この部隊の責任者だ。後ろからきてるのはスノラビット軍。あっちは俺たちとは指揮系統が違うんで、後で紹介させてもらおう」

「おう。それは頼むぜ。で、どうする? この辺は俺たちの庭みたいなもんだ。こっちで指示を出してやってもいいが?」

余所者に舐められたくないという想いもあったに違いない。彼らがこちらを見る目には、僅かな棘があったのだ。

ただ、それもヒルトやフランと正式に顔を合わせるまでであった。特に、ただ1人のランクB冒険者は目も肥えており、瞬時に彼我の実力差を感じ取ったらしい。

「ディギンズね。私はランクA冒険者のヒルトーリア。よろしくお願いするわ」

「え? ランクA? ヒルトーリアさんといや、あの穿拳のヒルトーリアさん? た、確かに、すげえ強ぇ!」

「そう呼ばれることもあるわね。それと、そちらが黒雷姫のフラン。ランクはBだけど、その実力はランクA級よ」

「ん。よろしく」

「げぇ! こ、黒雷姫さんだってぇぇ! そ、そういや、進化してらっしゃる……! へ、へへぇ!」

このディギンズは、実は進化した熊の獣人であった。しかも、人間タイプではなく、獣タイプの顔である。完全に、熊その物の顔が乗っていた。

種族は黄熊となっている。こいつ、覚醒したらもしかしてあの熊みたいにならんよな? いや、赤い服を着てないからギリギリセーフなはずだ!

まあ、人間タイプの顔じゃなくてよかったのかもしれん。厳ついオッサンの頭の上に、可愛い熊耳が付いている地獄絵図を見ずに済んだのだ。

当然、フランの素性にもすぐに思い当たったらしい。マウントを取ろうとする上から目線の態度から、ヘコヘコした舎弟ムーブに変わるまで10秒かからなかった。

その変わり身の早さ、俺は嫌いじゃないよ?

一番強い者が従えば、他の冒険者もそれに倣う。

結局、新しく合流してきた冒険者たちも、こちらの指揮系統に組みこまれることになっていた。

その後、追いついてきたドワーフたちと協議し、決定した作戦がブルネンから告げられる。作戦というほど細かいものじゃなかったけどね。

「抗魔に囲まれたという竜人、バシャールの連合部隊がどうなっているか分からん。万が一巻き込まないように、範囲攻撃は慎むように頼む」

「わかった」

「我らとスノラビットの戦士団は、このまま戦線を押し上げる。冒険者組は北と南へと迂回して、抗魔の軍勢への横撃を頼む」

「少数の遊撃ですか?」

「そうだ。危険な役目だが、頼めるか?」

「無論」

「ん。任せて」

ヒルトとフランが頷けば、決定したようなものだ。他の奴らに、この2人に反対できるやつなんていないからな。

反対しそうなのはフォボス君くらいで、デミトリス流の他の奴らは大歓迎って表情だ。ゴルディシアの冒険者たちも心配そうな顔だが、反対する勇気がないらしい。

「こちらに護衛を残さずとも良いのですか?」

「ドワーフたちと一緒だからな。大丈夫だ」

「分かりました。では、我らは行きますね」

「お前さんらに不要だと思うが、無事を祈る」

やることは非常に簡単である。現在、抗魔の群れは東に陣取ったどこかの軍と戦闘中だ。そこに、ドワーフたちが西から蓋をして、さらに二手に分かれた冒険者たちが南と北から襲い掛かるというわけだ。

冒険者たちの役割は、少数で吶喊して抗魔の群れの中に取り残されている者たちを救出すること。もしくは、指揮官個体を仕留めて、群れを弱体化する役目である。生き残りは絶望的だと思うが、救出を試みない訳にはいかないのだろう。

ドワーフから戦士を回してもらうという話もあったが、冒険者側がそれを断った。意地もあるのだろうし、速さを重視したいという想いもあるのだろう。ドワーフの唯一の欠点が、足の遅さだからな。

ただ、俺からすれば、ここにいるドワーフたちだったらかなり素早く動くと思う。何せ筋力が桁違いだし、身体強化系の能力も充実しているのだ。

行軍時まで消耗するわけにはいかないので、ここまでくる足は遅かったが。そのせいで、全力時でも遅いと勘違いされたんだろう。

「じゃあ、私たちが北。そちらが南でいいかしら?」

「ん。それでいい」

「では、また後で会いましょう。他の冒険者もいるのだから、無茶し過ぎないようにね?」

「ん。わかってる」

「……ならいいけど」

そうして、ヒルトたちは北へと向かって移動していった。

『俺たちもいくぞ』

「ん。みんな、付いてきて」

「うす! 了解っす!」

30人の地元冒険者だが、2手に分けて、ヒルトとフランの下に付けられていた。フランの下にはディギンズを始めとした3パーティ、18人が付き従っている。

最初は断ろうとしたんだが、フランが乗り気だったのだ。どうも、ランクAに上がるためには指揮経験が必要だと言われたことを覚えていたらしい。

「私が先頭。その後ろにディケンズ」

「ディギンズでさぁ。黒雷姫さん」

「ん。ディギンズ。あと、指揮官個体を見付けたら教えて」

「わかりやした! みんな、聞いたな?」

「「「はい!」」」

まあ、今回は配下たちも強いし、数も多くはない。いい経験と言えば経験だろう。

願わくば、彼らに無茶させて死人が出たりしませんように!