軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

709 シビュラvsコルベルト

コルベルトとシビュラの戦いが始まる。

コルベルトがフットワークを使い、一見様子見をしているように思える。だが、そのじつ隙を窺って一気に決める気なのがビンビンと伝わってきた。

それでも無謀に攻めかからず、待つことができるのがコルベルトの強みだ。

対するシビュラはあまり動かず、完全にコルベルトの動きを面白がっている。戦闘狂の立ち上がりとしては、予想通りだろう。

フランもモルドレッド戦でそうだったのだ。そして、その余裕を逆手に取られた。逆に言えば、相手が戦闘狂ならば、俺たちがその隙を突けることもありそうだった。

コルベルトが一定の距離を保ちながら闘技場の中をゆっくりと回る。

「へぇ、格闘家かい」

「剣士とはやり慣れている。素手だからといって、油断していると痛い目見るぜ?」

「そうかい! そりゃあ楽しみだ!」

楽し気に笑いながら、互いに言葉を掛けていた両者だったが、次第に間合いが詰まってくる。

「ぶっ潰れときなぁぁ!」

「それはごめんだ!」

コルベルトが動く前に、シビュラが攻撃を仕掛けていた。

シビュラの放った大上段からの一撃が、闘技場の中央に小さなクレーターを生み出す。それが激闘開始の合図であった。

コルベルトは以前に比べ、レベルは2つしか上がっていないが、スキルが大分増えた。戦闘よりも、失ったデミトリス流を補うための自己鍛錬に費やしたのだろう。

シビュラはビスコットと同じで鑑定できない。コルベルトが鑑定妨害の魔道具を壊してくれたら見れるんだけどな。

そんなことを考える俺の前で、軽い打ち合いが始まった。基本はシビュラが攻め、コルベルトが躱しながらカウンター狙いだ。

シビュラのかなり速い斬撃を、時には躱し、時には手の甲で弾くコルベルトの防御は、以前よりも大分洗練されている。

シビュラの攻撃はかなり荒い印象だ。フェイントなどを織り交ぜているが、どちらかというと直線的で一撃重視の戦闘スタイルだ。対魔獣戦であれば大正解だが、対人では読まれやすい。

「うらあああぁぁ!」

「くぉ! なんつー馬鹿力だ!」

「はははは! 力だけには自信があってねぇ!」

「しかも、頑丈すぎだろ!」

「そっちも自信があるんだよ!」

本来であれば、シビュラのような力任せの相手は、コルベルトのいいカモであるはずだ。実際、時おり剣を弾かれて体勢を崩したシビュラに、コルベルトの攻撃が当たっている。

柔よく剛を制すの見本のような戦い方だ。

だが、シビュラのタフさは見ていて驚くほどだった。

コルベルトの放つ武技のフックがいい角度で腹に決まっているのに、呻く様子さえない。今の、顔面への攻撃もそうだ。

鋭いジャブが鼻っ面に入っているのもお構いなしに、前進して剣を叩きつけた。

コルベルトの打撃はどれも、ゴブリンくらいなら爆散させる程度の威力はあるはずだ。

ダメージはある。だが、それ以上に回復力、突進力が上回っているのだろう。苦痛無効も持っている公算が高かった。あとは、衝撃耐性や忍耐などのスキルもあるかもしれない。

まさか、シビュラがこんなパワーファイターだとは思わなかった。

ただ、シビュラの乱暴な戦闘スタイルに驚いていたコルベルトも、すぐに調子を取り戻してきた。

効かないならば、効くまで。しかも、無防備に食らってくれるというのであれば、大技を急所に当てていけばいい。

一段階ギアを上げたコルベルトは、連続でシビュラの腹を打っていった。いわゆるボディで足を止め、攻撃が鈍ったところを畳みかける。そういうつもりなんだろう。

しかし、シビュラの頑丈さはコルベルトの予想を上回っているようだった。見ている俺たちも、まさかここまでとは思ってもみなかった。

腹を十発も殴られたというのに、その動きに全く陰りが見られなかったのだ。相変わらずの獣じみた笑みを浮かべつつ、グイグイとコルベルトに圧をかけていく。

しかも、次第にコルベルトの動きが鈍り始めた。疲れたのかと思ったが、そうではない。

「はは! その動きは見た!」

「くぉ! あぶねぇ!」

「おらよぉぉ! 受けてみな!」

「まじかっ!」

シビュラの攻撃が、コルベルトの動きを先読みするかのように、厳しさを増し始めたのだ。

コルベルトの防御し辛い角度で剣を繰り出し、躱す方向を先読みして回り込み、カウンターで繰り出される攻撃を受け流してカウンターを返すことさえし始めた。

どうやらシビュラは、戦闘中にコルベルトの動きに慣れ始めたらしい。恐ろしいまでの戦闘勘と順応力だった。

そして、ついにコルベルトの体にシビュラの剣が掠める。それだけで、コルベルトの体勢が大きく崩れていた。やはり、単純な破壊力は相当なものがありそうだ。

「うごぉ!」

「はっはー! いただきだぁ!」

「させねぇよ!」

「その状態でまだ反撃してくるとは、やるねぇ!」

コルベルトは、追撃にきたシビュラに、蹴りを放ってなんとか距離を取ることに成功する。左腕の傷は、筋肉を締めることで軽く止血をしたらしい。すでに血が止まっている。

だが、これで左腕を使い辛くなったことは確かである。対するシビュラは、まだまだ元気そうだった。

「シビュラ、凄い」

『ああ、あのタフネス……。ただステータスが高いだけじゃないだろうな』

(スキル?)

『だと思うが……』

障壁ではないだろう。魔力が動く様子はなかった。物理攻撃無効にしては、拳が当たった場所が赤く変色するのはおかしい。

コルベルトも、そのことには気づいているのだろう。

「……どんなカラクリかは分からんが、一定以下のダメージ無効……いや、軽減か? ともかく、弱い攻撃を何発入れても無駄だってことは分かった」

「へぇ? なかなかよく見てるじゃないか。だったら、どうする?」

「軽減されようが、問題ないほどの重い一撃を入れる!」

「ははははは! 正解だ!」

おいおい、シビュラのやつ、認めたぞ? 嘘じゃないし、マジでダメージ軽減系のスキルを所持しているらしい。

哄笑を上げるシビュラに対して、コルベルトがゆっくりと歩きだす。構えもなく、ただ普通の歩行である。歩法すら使っていない。

だが、その体内では凄まじい魔力が練り上げられていくのが分かった。一度丹田に集中した魔力が今度は体内を巡り、再び集中するという循環を繰り返し、次第にその全身に強大な魔力が浸透していく。

十数秒後。両者の距離が5メートルほどに近づく。だが、コルベルトはまだゆっくりと歩いているだけだ。

「しぃぃぃゃぁ!」

そんなコルベルトに向かって、どこかワクワクした表情でシビュラが斬りかかる。

そして、次の瞬間。凄まじい衝撃音とともにシビュラの姿が消えていた。

シビュラがいた場所には、さっきまでゆっくりと歩いていたはずのコルベルトが、直突きを繰り出した体勢で静止していた。

『見えたか?』

(ん! 足の裏と背中から魔力を出して、凄い速く動いた)

魔力放出を使って、一瞬で超加速したのだ。速度自体はフランよりもやや遅い程度だが、瞬間的に急加速をしたせいで、より速く感じた。観客の多くには、まるで瞬間移動したように見えたに違いない。

それに、攻撃の予備動作がほとんどなかったせいで、非常に察知しにくかった。静からの動。筋力をほとんど使わずに加速をしたことで、シビュラやフランでさえ虚を突かれたのだろう。攻撃の気配がほぼなかったのである。

凄いのは、殺気さえ感じなかったことだ。これは、精神をコントロールできなければ不可能だろう。

シビュラが凄まじい勢いで水平にぶっ飛んでいく。このままでは場外負けになる。誰もがそう思った直後だった。

「うるあああああぁぁぁぁ!」

シビュラが獣のような咆哮を上げる。すると、その体が空中でピタリと静止した。空中跳躍ではない。魔力放出などでもなかった。勢いが一瞬で殺されたのだ。しかも、静かにその場に浮いている。強いていうなら、俺の念動に似ていた。

「ぶっ……! だあああああ!」

内臓を損傷したのだろう。シビュラが口から血の塊を吐き出す。やられたのは肺か? 呼吸音が大分苦しそうだ。

だが、シビュラは動きを止めなかった。その左手を、勢いよく前方に突き出す。両者の距離は20メートル以上離れているんだが――。

「ぐごぉ!」

今度はコルベルトが弾き飛ばされた。念動に似ているというか、完全に念動だ。シビュラはかなり強力な念動の使い手であるらしい。

そして、空中に投げ出されたコルベルトに向かって、シビュラが飛ぶ。念動カタパルトではなく、全身を念動で浮かして飛んでいるようだ。

まあ。人間の体では念動カタパルトは凄まじい負荷がかかるだろうからな。だが、込めている魔力が膨大であるからか、その速度は十分に速い。

「うらああああああああ! ぶっ潰れなぁ!」

「ちぃぃぃ!」

魔力放出を使って空中で体勢を変え、シビュラの斬撃をなんとか躱したコルベルトだったが、その動きに精彩がない。

先程の攻撃で、全身が悲鳴を上げているらしい。距離を取りきれなかったコルベルトの右腕を、シビュラがガシッと掴んだ。

「捕まえたぁぁらぁぁぁぁ!」

凶悪な笑みを浮かべるシビュラの頭突きが、コルベルトに炸裂した。そう、ただの頭突きである。

振り下ろされたシビュラの頭が、コルベルトの頭部とぶつかり合った。

ゴキャァァという耳障りな音と共に、コルベルトが落下していく。そして、受け身を取ることなく、そのまま舞台に叩きつけられるのであった。

「はぁはぁ……ごふっ……。いい、戦いだったよ……」

未だに口の端から血を流しながらも、シビュラが嬉し気に笑う。

『決着だぁぁぁ! なんと、最後は頭突き! 凄まじい音が聞こえました! コルベルト選手の頭は無事なのでしょうかぁぁ! 治癒魔術師さん! 急いでください!』

即座に魔術師が駆け込んでくるが、コルベルトの奴は大丈夫だろうか?

「……コルベルトのとこ、いく」

『ああ、そうだな』