軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

708 勝利と反省

試合に勝利したフランは、特別観戦席に引き上げるために通路を歩いていた。

閃華迅雷を使ったうえに、魔力も体力も相当消耗している。ダメージもかなり受けただろう。できれば宿で休ませたいが、試合の情報集めも重要だ。

明日はしっかり休ませることにして、今日は観戦しながら大人しくさせればいいだろう。

黙々と歩くフランに、俺はモルドレッド戦で気になっていたことを尋ねた。

『なあ、フラン。1つ聞いていいか?』

「なに?」

『モルドレッドの操ってた金属球を、溶岩の中でどうやって感知したんだ? 魔力も隠蔽されてたし、気配も掴みづらかっただろ?』

「なんか、ビリッとした?」

『ビリッ?』

「ん」

ビリッと言われてもな……。何か野生の勘で察知したってことか? それとも、他に何かあるのか?

『ビリッか~。もう少し詳しく教えてくれないか?』

「ん。私が使った魔術のビリッが、球に少し残ってた」

『ほほう?』

フランの魔術でビリッとくれば、雷鳴魔術だろう。

どうやら雷鳴魔術を防いだ時に、その魔力が金属球に残留していたらしい。帯電したってことかもしれない。

その僅かな雷鳴属性を、閃華迅雷で研ぎ澄まされたフランの感覚が捉えたようだ。黒天虎は雷鳴属性に親和性が高いことも、無関係ではないだろう。

俺も頑張ればなんとかなるかな?

『それにしても、俺が参戦しなくても、勝てたな』

「ん」

去年、同格であるランクB冒険者のコルベルトと戦った時は、俺が力を貸し、物理攻撃無効を使ってのごり押し勝利であった。

それが、今回はフラン1人での勝利である。フランの成長が実感できた。

ただ、フランはどこか浮かない顔をしている。

『……悔しいのか?』

「ん……」

『まあ、相手はベテランだからなぁ。主導権を握られるのは、仕方ない部分もある』

「分かってる。でも、悔しい。それに、私ちょっと調子に乗ってた。次はもっとちゃんとがんばる」

最後の最後は出し抜いたものの、それまではモルドレッドに翻弄されっぱなしであった。

ただ巧いだけではなく、フランの戦闘を楽しむ性格まで見越した試合運び。

ある意味全てが伏線で、最後のヴォルカニック・ゲイザーまではモルドレッドの狙い通りに動かされていた。

多分、事前にいくつものシミュレーションを行い、フランがこう動いたらこうするというプランを複数用意していたのだろう。

勝ったとはいえ、フラン的には不本意な試合だったらしい。

「凄かった」

『だな』

閃華迅雷、剣神化、次元魔術、剣王技。それらを使って全力を出せば、試合開始数秒で勝てた可能性もある。

だが、それは結局のところ、力ずくでのごり押しだ。もし同じレベルの力を持つベテランが相手だったら、通用しないかもしれない。少なくとも、簡単に勝てはしないだろう。

そして、そんな相手に心当たりがあった。

『ディアスは、もっとヤバいぞ』

「ん」

対策なんか練れそうもない。ただ、モルドレッドとここで戦えたのは、俺たちにとっては大きな経験だろう。少しでもこの勝利を、今後に生かさねば。

そうして歩いていると、前方で何やら騒ぎが起きているのが聞こえた。

「申し訳ありません!」

「ちっ! 謝るくらいだったら最初からふざけた態度をとるんじゃねーよ!」

冒険者と誰かが揉めている。一見、冒険者側が悪いようだが、駆け付けた兵士が怒っているのは土下座している方の男だ。

多分、シャルス王国の勧誘なのだろう。ギルドで教えてもらった通り、方々で騒ぎを起こしているらしかった。

警備の人間が苛立ったように注意しているが、シャルス王国の人間は反省していなかった。何せ、謝罪の言葉が全て嘘なのだ。これからも勧誘する気満々だろう。

『フラン、巻き込まれないうちに通り過ぎるぞ』

(わかった)

シャルス王国の人間の目的は本当になんなんだろうな。こいつらのせいで警備員がメチャクチャ大変そうだ。そのうち、出禁にでもなるんじゃなかろうか?

観戦席に戻ると、まだ試合は始まっていない。モルドレッドが試合場全域を溶岩に変えて、それをフランが収納してしまったからね。

ただ、もう準備が完了しそうだった。土魔術を使える魔術師たちが複数人で、整地と舞台設営を進めたのだ。その手際はかなり良かった。

そうして第2試合が始まったのだが……。

『決まったぁぁ! 傭兵ビスコットが鮮やかな一撃で、勝利をもぎ取った!』

「終わっちゃった」

ビスコットが秒殺で終わらせてしまったのだ。その動きや戦法を何もチェックできなかった。まあ、見れなかったものは仕方ない。

それよりも、次の次の試合だ。無名選手同士のそこそこの試合が終わり、俺達にとっては必見の試合がやってくる。

フランもそれは分かっているらしい。ご飯やおやつをしまい込むと、モフっていたウルシから手を離した。背筋を伸ばし、静かに闘技場を見つめる。

何せ、次の対戦カードはシビュラとコルベルトなのだ。

『やってきたのは、ランクB冒険者、鉄爪のコルベルトォォ! デミトリス流の門下から抜けたという話ですが、いったいどのような戦いを見せつけてくれるのか! 1回戦はほぼ瞬殺でしたが、次はどうでしょうか!』

さすがに破門というネガティブな言葉は使わないか。それでも、デミトリス流がなくなったコルベルトがどう戦うのか、ぜひじっくりと観察しておきたい。

『対するは、赤髪の傭兵シビュラ! コルベルト選手同様に、1回戦は見事な瞬殺劇を見せてくれました! さあ、どこまでコルベルト選手に迫ることができるのか!』

その解説と観客の反応を聞けば、明らかにシビュラが格下に扱われているのが分かる。無名の傭兵の扱いは、こんなものなんだろう。

ただし、本人たちの感覚は違っているようだ。シビュラは面白がるように含み笑いを漏らし、コルベルトは厳しい表情でシビュラを睨む。

コルベルトのレベルになれば、シビュラの実力も分かるはずだ。その体内で練り上げられ始めた魔力は、最大限の警戒の証だろう。

「コルベルト、最初から全力?」

『ああ、多分な』

「シビュラは、私とおんなじ」

最初は様子見に徹するということだな。さて、どうなるか。

『それでは、試合開始!』