軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

699 フランvsデュフォー

『フラン。調子はどうだ?』

「ん。ばっちり」

『よしよし。ウルシもカレーをたらふく食って、エネルギーチャージは十分か?』

「オン!」

影の中から、元気な声が聞こえる。

ウルシは今日から俺たちのもとに戻ってきていた。シビュラたちもトーナメントに出場するということで、監視しやすくなったらしい。それに、参加者であるフランに相棒であるウルシを返そうと、冒険者ギルドが配慮してくれたのだろう。

フランはいつも通りの表情で、俺の言葉に頷く。多少ワクワクはしているようだが、必要以上の興奮はない。

この様子であればいつも通り冷静に、実力を十全に発揮できるだろう。

通路を抜けて、大勢の観客から降り注ぐ大歓声を浴びても、その態度に変化はなかった。

どうやら、去年の経験から歓声の煩さにも慣れたらしい。対戦相手が哀れになるほどの平常心だ。

さすがフランだ。頼もしすぎる。

そんなフランとは対照的に、舞台の反対側に立つ青年はどこか浮ついた様子であった。

「く、落ち着け俺……」

フランの1回戦の相手。幻剣士のデュフォーであった。

職業は幻剣士のままだが、以前よりはレベルアップし、ステータスやスキルが強化されている。

しかし、大観衆の前で戦うことには慣れていないのだろう。万を超える人間の視線を受け、明らかに委縮してしまっている。

だが、フランを視界に収めたことで、スイッチが入ったらしい。

キョドキョドと観客を見回していた青年の顔が、一人の戦士へと変化する。まあ、それでも顔色の悪さは変わらんが。

「き、きたかっ!」

メッチャ声が裏返っとる。もしかして顔が青いのは大観衆のせいじゃなくて、フランへの恐怖故か?

考えてみれば、前回はかなり酷い目に遭わされている。その時のことを思い出してしまっているのかもしれない。しかも、そんな相手が初戦の相手だ。

怯えてしまうのも無理はなかった。

「久しぶりだな! き、今日は、前回のようにはいかないぞ!」

『フラン、とりあえず頷いておけ』

「ん」

デュフォーが勇気を振り絞って虚勢を張っているのに、「誰?」とか言われたらさすがにかわいそうだ。

『さあさあ! 今年もやってまいりました! ウルムット武闘大会! 一回戦から、シード選手の登場だ!』

この解説も1年ぶりだな。相変わらずの早口で、まくし立てるように出場選手の紹介をしていく。

『去年は並み居る強豪をなぎ倒して、堂々の3位! 最年少入賞記録を樹立した、驚きの獣人少女! 今年はダークホースではなく、優勝候補として第1シードで登場だ! 黒雷姫のフラァァン!』

紹介された直後、爆発するような大歓声がフランに降り注ぐ。まるで、アイドルか何かでも登場したかのような、黄色い声が混じった歓声だ。

想像以上に、フランの知名度と人気は高かったらしい。

フランが活躍した去年の武闘大会からまだ1年。フランのことを覚えている人も多いのだろう。

ほとんどが応援と期待の声であった。

『今年はどのような驚きの闘いを見せてくれるのか、今から楽しみです!』

フランは慣れたもので悠然と立っているが、デュフォーが目に見えて狼狽した。改めて、大勢の人間に見られていると思い出してしまったようだ。

『対するは、今年本戦初出場! ランクD冒険者のデュフォー! まだ若い青年ですが、侮るなかれ! 堅実な剣術で、予選を無傷で突破した猛者です!』

実況の説明に、観客席がどよめく。だが、両者の人気を如実に表すように、歓声はフランに比べると圧倒的に少なかった。

観客のみなさん! 露骨すぎ! どっちにも拍手するのがマナーでしょうが!

だが、デュフォーはそういったことに全く気が付かないほど、緊張が最高潮なのだろう。少しぎこちない動きで、剣を抜き放つ。

初めての本戦。想像以上の大観衆。対戦相手は恐怖の黒雷姫。正直、哀れになるほどの逆境だ。

それでも、戦意を失わないところは評価できる。まあ、フランは全然気付いていないようだが。

「? どうしたの?」

「な、なんでもない!」

「ふーん」

緊張という言葉とは無縁のフランからすれば、なぜ動きが悪いのか理解できないのだろう。

フランもデュフォーに倣って剣を抜く。それを見たデュフォーの目が、微かに歪んだ。明らかに俺を恐れている。

俺に手を足をぶった切られた記憶が、まだ鮮明に残っているのだろう。これでウルシが顔を出したらどうなってしまうのだろうか?

ちょっと気になったが、あまりにもかわいそうなのでそれは止めておいた。

涼しい顔のフランと、青い顔のデュフォーが闘技場の中央で向かい合う。その対比だけでも、どちらが優勢なのか一発で分かる構図だ。

そして、戦いの火蓋が切られる。

『それでは――はじめ!』

「おおおお!」

試合開始が合図された直後、デュフォーが一気に突っ込んできた。放つのは、全身全霊を込めた横薙ぎの一撃だ。勿論、自分のスキルである幻剣により、刃をしっかりと隠している。

攻撃される前に、決めようというのだろう。だが、相手が悪過ぎた。フランは音によって見えない剣の軌道を察知し、身を屈めてその下を通り抜けたのだ。

「馬鹿な――ぐぁ!」

そのまま懐に潜り込んだフランの拳が、デュフォーの腹を抉る。その一発で、デュフォーの足は踏ん張りを失い、体が崩れ落ちていた。

「前よりは成長してる。でも、まだ私には届かない」

「……く、そ……」

「視線とかも隠さないと、動きを読まれる。あとは足の運びも」

「……」

幻剣を見たことで、ようやくデュフォーを思い出したらしい。

だが、デュフォーは聞いてないと思う。もう完全に意識を失っているからな。

『圧倒的だぁ! 開始5秒で決着がついてしまった! 見逃した方が多数いる模様! 今年も黒雷姫のフランからは、目が離せそうもなぁぁい!』