軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

698 ナイトハルト

トーナメント表を確認しているカマキリ男を見ていると、不意にその顔がこっちを向いた。

グリンと首が回り、顔だけがこっちを向く。そのままクリッと小首を傾げる光景は、なかなかホラーチックだった。『怪奇、カマキリ男!』みたいな?

俺はいつでも念動を発動できるように、身構える。だが、カマキリ男から発せられたのは、意外な言葉だった。

「もしかして、黒天虎のフラン殿かな?」

「ん」

「おお! やはり、王都では僕の仲間たちがお世話になったようで」

王都? 王都で半蟲人ということは――。

『エリアンテの関係者か?』

クランゼル王国王都のギルドマスター、エリアンテは蜘蛛の半蟲人だった。それに、彼女が昔所属していたという傭兵団、『触角と甲殻』のメンバーとも知り合いになったのだ。

この傭兵団は、半蟲人だけで構成された、珍しい傭兵団であるという。

「……もしかして、エリアンテたちの知り合い?」

「そうです!」

当たりだったか。

エリアンテの名前を出すと、カマキリさんは嬉しげな声を上げる。ただ、カマキリの顔は全く表情が読み取れないので、あくまでも声から推測するだけではあるが。

「お初にお目にかかりますね。僕は傭兵団『触角と甲殻』の団長、ナイトハルトと申します」

ナイトハルトが丁寧にお辞儀をする。カマキリなのに優雅だ。

「団長なの?」

「はい。まあ、他にやれるメンバーもおらず、押し付けられただけですが」

そう言いつつも、ナイトハルトには人の上に立つに相応しい、存在感のようなものが感じられた。

本人の謙遜や、他のメンバーがまとめ役に向いていないというのも確かなのだろうが、それを抜きにしてもナイトハルトが団長というのは非常にしっくりきていた。

「可愛らしいお嬢さんだと聞いていましたが、噂以上に可愛らしい」

「?」

「失礼。不躾でしたね」

気障(キザ) な台詞なのに、全く嫌味さがない。その態度が紳士然としているからだろう。

「僕の友人たちを助けていただき、ありがとうございます。もし何か困っていることがあればお声がけください。仲間は見捨てず恩には報いる。それが活動理念ですので。ふふ、可愛らしいお嬢さんのピンチに駆けつけるのは、当然のことでもありますしね」

イケメン! 性格も所作もイケメン! カマキリなのに、超イケメンだよこの人!

「私も色々助けられた。おあいこ」

「いえいえ、命の恩人だと聞いていますよ? 感謝しているのは本当ですので、覚えておいてください」

「わかった」

「とは言え、もしトーナメントで当たった場合は手加減しませんよ?」

「望むところ」

ナイトハルトの言葉に、フランが不敵に微笑む。ナイトハルトの強さを想像して、楽しくなってきたらしい。

王都で見た感じ、半蟲人の傭兵たちはみんな強かった。団長と言うからには、団員よりは強いのだろう。

同じブロックにフェルムスやエルザがいるのだ。フランとの対戦が叶うには、彼が決勝まで上がってこなくてはならない。

どうなるかな?

「……他のみんなもいるの?」

「ロビンたちはまだ王都でエリアンテを手助けしています。そろそろ次の戦地へ移動する時期ですがね」

「ナイトハルトは団長なんでしょ?」

「ああ、なぜ僕だけがここにいるかということですか?」

「ん」

「新たな団員の勧誘のためですよ?」

ナイトハルトの目的はトーナメントで活躍することで目立ち、在野の半蟲人に興味を持ってもらうことであるらしい。

彼らは半蟲人だけの傭兵団だ。これはただ排他的なだけではなく、社会では奇異の目で見られることが多い半蟲人同士で寄り集まり、助け合うことが目的だ。

外見的特徴が薄ければ、風当たりはましである。だが、ナイトハルトのように蟲の特徴が強く出てしまった者の中には、迫害を受けて他種族恐怖症になっている半蟲人もいる。

そんな者たちにとって、半蟲人だけの傭兵団というのは安息の場所でもあった。

だからこそ彼らは、人間やエルフ、ドワーフなどの他種族を団に迎えることはせず、半蟲人だけの集団に拘るのだ。

ただ、親の特徴が強く出た半蟲人というのは、そう多くはない。団の人員を増やそうと考えても、そうそう良い人材が見つかるものでもなかった。

「というわけで、僕は各地で人材の発掘をしているんですね。この大会に出て活躍すれば、多くの半蟲人たちの目に留まりますから」

ナイトハルトの見た目は、確かに大きな話題になるだろう。そこで傭兵団の話も一緒に広がれば、入団希望者が現れるかもしれない。

「なるほど」

「フラン殿も、旅先で半蟲人に出会ったら、ぜひ我々のことを宣伝してください」

「わかった。じゃあ、そっちも黒猫族がいたら、進化の話を教えてあげてほしい」

「わかりました。互いに助け合いましょう」

ナイトハルトは黒猫族の話をかなり詳しく知っていた。それこそ、進化条件をかなり熟知していたのだ。

そういった情報も、傭兵団としての武器の1つになり得るからだろう。

「ああ、そうだ。1つ忠告です」

「?」

「どうやら、あなたのことを嗅ぎまわっている連中がいるようですよ。詳しい正体は分りませんが、多分冒険者ではないでしょう」

「トーナメントのために情報を集めてる?」

「かも知れませんが、この時期は色々とおかしな連中もこの町に入り込みます。有名人であれば知らずに恨みを買っている可能性もありますし、気を付けられたほうがいいでしょう」

「わかった。教えてくれてありがと」

「いえ。それではまたお会いしましょう」

「ん」

ナイトハルトは一礼すると、その場を去っていった。

『フランのことを嗅ぎまわる連中ね』

(敵?)

『分からん。有名冒険者の情報を調べているだけって可能性もあるからな』

ウルシはまだ監視のために離れている。俺が気を付けないとな。