軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

700 モルドレッドvsナリア

『勝ったな』

「ん!」

デュフォーに勝利したフランは、そのまま観戦席へと向かっていた。

一瞬で終わった試合だったが、フランは満足げだ。去年もそうだったが、やはり試合で勝つのは嬉しいのだろう。

『一回戦突破のお祝いだ。今夜は豪勢にしような』

「カレー?」

『おう。メンチカツと特大目玉焼きも付けよう』

「トンカツも!」

『分かった分かった。山盛りで付けてやろう』

「おー」

「オンオン!」

拍手するフランの足下で、ウルシが首だけを影から出して自分もいるよアピールする。フランの股の間に狼の首が挟まれているような絵面だ。

『分かったから! お前の分もちゃんとあるから首だけ出すな!』

「オフ」

そんな風に歩いていると、通路の向こうに一人の男が立っていた。40がらみのだらしない体型の男だ。

フランの姿を見た直後、尊大な態度で口を開く。

「貴様が黒雷姫だな?」

「ん」

「ふん。本当に子供ではないか――」

フランは男の問いかけに頷くが、一切足を止めずにそのまま前を通り過ぎた。何故かフランが止まると思い込んでいたらしい男が、慌てた様子でフランの背に声をかける。

「ま、待て!」

「またない。次の試合が始まる」

モルドレッドとナリアの試合の勝者が、次の対戦相手だ。少しでも情報を得るため、ぜひ観戦しておきたかった。

当然、名乗りもしない不審者と話す暇などあるわけがない。

これが実力者だったりすれば、フランの気も引けただろう。しかし、男は戦闘能力の低い雑魚であった。

鑑定もしたが、あまり強くはない。一応戦闘系のスキルはあるが、本人のステータスが低すぎる。

恫喝や交渉系のスキルがあることから、言葉で相手を威嚇して、脅迫まがいの交渉をすることが得意なのだろう。

フランには通用しないが。

「待て! 儂は――」

男がなにか言おうとしたが、フランは一気に加速して男を置き去りにした。曲がり角では壁を蹴ることで一切減速せず、驚く他の通行人の横をすり抜け、特別観戦席にあっという間に到着する。

『フラン、やり過ぎだ』

「?」

『はぁ。にしても、さっきの奴なんだったんだろうな?』

わざわざフランを待っていたように思う。どこかからの使者?

「どうでもいい。それよりも試合」

『ま、仕方ないな』

無視したことをなかったことにはできんし、相手の態度とタイミングが悪かった。これで文句を言ってくる奴がいたら、改めて考えればいいさ。

『試合は今からか』

「ん。間に合った」

フランが姿を現すと、特別観戦席にいた人々が微かに騒めいた。ここは関係者席のはずなんだが、中にはフランを間近に見たのが初めての人も多いらしい。

とは言え、無理に話しかけてくるような者はいなかった。ちゃんとマナーを分かってるのだろう。

それどころか、席を譲ってくれようとする人までいる。

「ここに座るといい。対戦相手を見たいのだろう?」

「いいの?」

「ああ、私の娘が君のファンでね。席を譲ったと話したら、きっと羨ましがる」

「ありがと」

吟遊詩人の影響がこんなところにまで出ていた。

お言葉に甘えて席に座ると、ちょうどいいタイミングである。眼下の試合場では、ちょうどモルドレッドが仕掛けるところであったのだ。

対するのは弓使いの少女、ナリア。高速で近づいてくるモルドレッドに対して、後退しながら弓を矢継ぎ早に放つ。

以前は持っていなかった速射というスキルを得ていることからも、弓の腕を大分上げたのだと分かった。

ゴブリン程度は即死させる威力の弓が、モルドレッドの顔面目がけて正確に襲い掛かる。

弦を引く手にはすでに数本の矢が握られており、それを高速で番えては放っていた。しかも、弓技によって生み出されたオーラの矢が、本体の矢からややずれる軌道で襲い掛かるのだ。

この速射と弓技により、予選のバトルロイヤルを突破したのだろう。もともと、仲間の脇や顔の横を通して敵を攻撃するような技術は持っていたのだ。速さと威力と手数が増せば、相当な強化となっただろう。

フランは短期間自らの生徒であったナリアの成長を見て、感心したように頷いている。

「ナリア、きっと頑張った」

『だな』

獣人国に渡ってからも血の滲むような修行を続けたのだろう。その成果は間違いなく発揮されている。

だが、それでもモルドレッドには届かない。

「槍技・スパイラルガード」

「なぁ! そんなのあり?」

手元で槍を回転させて、全ての矢を危なげなく弾き飛ばしてしまう。さらに、そのままナリアへと一気に接近した。すでにモルドレッドの距離だ。

ナリアはモルドレッドのことを知っているだろう。獣人国への船で一緒だったし、そもそも有名なランクB冒険者なのだ。

接近戦では相手にならないことは承知しているはずだ。

だが、ナリアはそこから踏み込んだ。さらに後退すると見せかけて、前傾姿勢で飛びつくようにモルドレッドに突進したのだ。

「はあああ!」

「ほう?」

投げ付けた弓矢によって、槍の動きが止まる。

モルドレッドも虚を突かれたらしい。ナリアは一般的に槍の間合いと言われている距離を踏み越え、その懐に入り込んでいた。

その手には一本の短剣が握られている。フランが船上で指導した通り、短剣も鍛え続けていたのだろう。

「たああ!」

ナリアの短剣が、モルドレッドの腹に突き立てられた。刃が根元までズッポリとモルドレッドに埋まっている――ように見える。

だが、ナリアは悔し気だ。

「溶鉄魔術……」

モルドレッドが溶鉄魔術を使い、ナリアの短剣の刃を溶かしてしまっていた。ナリアがモルドレッドの腹に押し当てたのは、刃のなくなった短剣の柄だったのだ。

「見事だったぞ」

「ぐ……」

いつの間にか引き戻されていた槍の石突きが、ナリアの頭部を打って意識を刈り取る。

『やっぱ、モルドレッドだったな』

「ん。巧い」

『ああ、溶鉄魔術をいつ詠唱したのか分からなかったぞ』

多分、接近戦になった際の備えとして、予め溶鉄魔術を詠唱していたのだろう。その慎重さと、詠唱を悟らせない隠蔽の上手さ。そして、激しい戦闘中も魔術を遅延させておくだけの技術。

まさに巧いという表現がピッタリとくる男だな。