作品タイトル不明
663 天龍の価値
「インテリジェンス・ウェポンの情報はこんなところね。後は……何か欲しいものとかない? 特にないならお金の報酬を増やしておくけど」
「む……師匠?」
『ちょっと待てよ……』
俺たちはそこまで金を必要としていない。普通の冒険者が最もお金をつぎ込む武具が、すでに最高品質なのだ。
しかも、自動で修復するからメンテナンスにもお金はかからない。
自画自賛になるが、俺よりも優れた剣なんて金を出せば買えるようなものじゃないし、防具は神級鍛冶師のお手製である。
多分、国によっては国宝級だろう。
すでに今回の報酬として、大金を貰えることになっている。今回使い切った高品質のポーションなどを補充したとしても1000万ゴルド以上は手元に残る計算だ。
これ以上の金銭は不要だった。
それに、相手は長い時を生きるハイエルフだぞ? しかも権力者。ここは金銭には代えられないような報酬をお願いしておく方が絶対にお得なはずだ。
それこそ、金を積んだからといって手に入るかどうか分からないような、アイテムや情報である。
『金は要らん! 他に何か、役立ちそうなアイテムとか情報の方がいいんだけど』
「うーん……。そんなこと言われてもねぇ……」
ウィーナも左手を顎に当てて悩んでしまう。
「フランが喜びそうな報酬となると、天龍の寝床への立ち入り許可かしら?」
「天龍の寝床? あの浮遊島?」
「ええ。しかも、送迎付きでどう?」
S級の魔境で、脅威度A魔獣の天龍がウヨウヨ住んでいるって場所だ。
『立ち入り許可をもらえたとしても、俺たちだけで入ったりしないぞ? 危険すぎる』
「えー」
俺の言葉にフランが不満げな声を上げるが、ここは譲れん。
『えーじゃない。こればかりは絶対にダメ!』
「まあ、そうよねぇ。私の状態が万全なら手助けできるんだけど、今はこれだから」
ウィーナが左肩を竦めて、ため息をつく。確かに、ハイエルフの護衛付きだったらぜひ行ってみたい場所である。
何せ天龍の素材は最高ランクだからな。あのランクA冒険者のアマンダが、自分の相棒として使っていた鞭も天龍の素材を使って作った武器だった。
武闘大会で壊れてしまったが、未だにあれ以上の鞭は手に入っていないようだ。それだけ希少で、強大な力を秘めているということなのだろう。
天龍の素材があれば、フランの防具をさらに強化することなども可能かもしれなかった。
だが危険すぎる。相手は、1対1でも俺たちより強いかもしれない相手だ。それが複数いたら、絶対に勝てない。
大概の冒険者は隠密行動で素材を少しだけ持ち帰るそうだが……。
『さすがに鱗1枚とかじゃ、大した強化は見込めないと思うんだよな』
「むぅ……。残念、アマンダにプレゼントしたかった」
『アマンダに?』
「ん。鞭の素材になる」
なんと!
自分が天龍の寝床に興味があるだけだと思ってたら! アマンダへのプレゼントだと?
フランの成長を実感できて、俺は嬉しいぞ!
そうなると俺も協力してやりたいんだが……。
『なあウィーナ。鞭を作るために必要な天龍素材って、何がある?』
「鞭? だったら髭でしょうね。あとは魔石に、鱗や髪も必要になるかしら?」
『だよな』
やはり、ただ忍び込んでかすめ取ってくるくらいでは、鞭の材料は揃いそうもなかった。鱗などを少数贈るだけでもアマンダなら大喜びしてくれるだろうが、どうせなら実用的な物を贈りたい。
「そうねぇ。天龍の素材、実はうちの学院の宝物庫にあるわよ?」
『本当か?』
「ええ。少し必要な素材があって、1匹狩ったのよ」
当時の国王の病を治すために、天龍の内臓から作る薬が必要だったらしい。
結果、鱗や髭、魔石などは使われず、とりあえず宝物庫に仕舞い込まれたままになっているそうだ。
普通ならそれで武具を作るのだろうが、ハイエルフであるウィーナレーンに防具は必要なく、経営が順調な学園としては売る必要もない。
結果、ウィーナでさえ忘れかけていたということだった。
「じゃあ、それ欲しい!」
「ふーむ……。鞭を使うのはアマンダってことでいいのかしら?」
「ん」
「だとしたら、中途半端な性能だとまた壊れるわね。髭に髪、魔石は当然として、眼球や骨なんかも――」
ウィーナが何やら考え込んでいる。精霊が寄ってきたな。ウィーナが呼んだらしい。気配は感じるが、さすがにどんなやり取りをしているかはわからない。
そして、ウィーナが難しそうな顔で口を開いた。
「私としては、天龍の素材を一式あげてもいいと思うわ。全身あげたっていいくらい。でも、そうもいかないっぽいのよ」
学院の宝物庫に収蔵されているということは、その管轄は学院。つまり、守護精霊達の管理下にあるということだ。
たとえ学院長であっても、ウィーナが独断で自由にすることはできないらしい。今回の働きへの対価として支払うという形ではあるが――。
「支払う報酬の上限が決まってしまっているのよね」
今回のフランへの報酬は、学園が定める最高ランクとなっている。それでも、金額に直せば2000万ゴルドが上限であるそうだ。どれだけの働きをしたとしても、それ以上は精霊が許さない。
つまり天龍素材の価値は2000万ゴルドを優に上回っているということなんだろう。
「私の所持品にしておけば、問題なかったんだけどね」
『じゃあ、今回支払ってもらうはずの報酬を全部天龍素材にしてもらったら? 金は要らない。むしろ支払うから』
俺たちに支払われる報酬は、学院からの報酬にウィーナがポケットマネーから色を付けてくれる形になっている。金額にすれば4000万ゴルド。
つまり、学院から2000万。ウィーナから2000万だ。ウィーナからの2000万を学院側に支払って、天龍素材を買う形にすればどうだ?
「それでも、なのよ。私にもう少し蓄えがあればよかったんだけど……。あと1000万くらいしか支払えないし」
何千年も生きるハイエルフのウィーナ。しかし、彼女は意外にもそこまでの資産家ではなかった。一般人からすれば億万長者だが、彼女レベルの強者の財産としては、想像よりもはるかに少ないのだ。ただ、それには理由があった。
学院で生活するには金などなくとも済むし、華美な生活を好む性格でもない。何かのコレクターでもなければ、金を溜めこむ趣味もない。それに、いざとなれば身一つでなんでもできる。
ぶっちゃけ、金など必要なかったというわけだ。それゆえ、積極的に金を稼ぐこともせず、日々質素に過ごしてきたらしい。
それでも、毎年学院長に支払われる報酬を適当に貯めこんだ結果が、今回俺たちに支払われる報酬、2000万ゴルドだった。あと1000万は支払えると言ったが、それでも天龍素材にはとどかないらしい。
『なら、髭とか魔石とかだけ売ってもらうのは?』
「それでもいいけど……。中途半端な素材で作るくらいなら、報酬で最高級のダンジョン品でも買う方が、よっぽど高性能になると思うわよ?」
「むぅ……」
やはり、そう簡単にはいかないか。だが、悩む俺たちに対し、ウィーナがおもむろに口を開いた。
「解決策があるわ。学院からの依頼を1つ受けてみない?」