軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

569 学食改革

ブチギレた様子で現れたコックのノリッツだったが、よく話を聞いてみるとカレーに興味津々だということがわかった。

口調は怒っている。だがその内容は、遠回しにカレーを食べさせてほしいというものだった。オッサンのツンデレ。全く萌えないな!

本当は自分もカレーが食べたいけど、騒ぎを起こしたことには怒っているし、でも匂いは美味しそう。生徒たちの言動にはちょっと傷つきつつ、しかし新しい料理には興味がある。

そんな色々な感情がごちゃ混ぜとなり、結果としてツンデレ対応になってしまったらしい。

「く……美味いじゃねーか。やはり大量の香辛料が使われている……」

ノリッツはフランが渡してやったカレーを食べながら、色々と分析している。

「さすが開発者。売っているレシピの2歩も3歩も先に行っているぜ」

「カレーのレシピ知ってるの?」

「おう。ルシール商会で取り扱っているやつだけはな。シルバーランクの料理人が開発したってことで、興味をもってよ」

なんとノリッツも料理ギルドの会員であるらしい。そこまで大きい組織ではないが、大きなレストランのシェフなどであれば大抵は会員であるそうだ。

そして、カレーの開発者が料理ギルドのシルバーランク会員だと知り、購入を決めたという。

「衝撃だったぜ。だがな、レシピ通りに作っちゃ原価がな……」

ノリッツが料理を作る際に最も気を付けることが栄養バランスだ。次に量。最後が味である。勿論、不味い料理を提供するわけではない。しかし、予算の範囲内で工夫するには限界があった。

家庭であればいくらでもやりようはあるのかもしれないが、数千人分を少人数で作らなくてはならないのだ。小さな工夫を重ねるにしても、時間や労働力が足らない。

「ちなみに、これの原価は?」

「それは――」

ザックリした原価や使っている材料を教えてやると、ノリッツが頭を抱えた。魔獣の骨で出汁を取り、魔獣肉を大量に使い、魔法植物なども惜しみなく使っている。まあ、学食で提供できるレベルじゃないだろう。

ノリッツも色々と工夫して、安く美味しいカレーを作ろうとしているらしいが、どうしても上手くいかないらしい。高価な香辛料を減らしてしまうと、一味違うというか、香辛料が少し入ったスープみたいにしかならないのだ。

そもそも、この国では香辛料が高い。いや、港町であるバルボラが特別安かったのだ。そんな香辛料をレシピ通り使えば、どうしても値段は上がってしまう。

そうやって悩むノリッツの姿を見て、フランは感じ入るものがあったようだ。彼が心の底から、生徒たちにできるだけ美味しい物を食べさせたいと思っていることが分かったのだろう。

(師匠、何かない?)

『ふむ、実は思いついたことがある』

ノリッツの失敗は、バルボラで販売されたレシピを基にして、その味の再現を目指したことだろう。カレーというのはこれなのだという、思い込みがあるからだろうが……。しかし、お金も材料も限られた中では俺だって不可能だ。

「……私に考えがある」

「なに? もしかして、手を貸してくれるのか?」

「ん」

「おお! ありがとう! それで、どうする?」

「厨房を貸して」

「了解だ!」

そして、フランは俺の指示通りに調理を行い、その料理を作り上げた。真っ先に味見したのは、当然フランとウルシである。

いい食べっぷりだ。それに続いてノリッツもその料理を口にした。

「こりゃあ……。カレーなんだが、カレーじゃない。だが、安くて美味い……」

「それはカレーマーボーライス」

「マーボ? 面白い名前だな」

「カレーとは少し違うけど、美味しい」

俺たちが作り上げたのは、香辛料を減らし、山椒を多めに使ったカレーマーボーである。この国は、実は様々な山椒が安価に手に入る。なにせ、そこらに自生しているのだ。

だが、ノリッツたちはカレーに使える物とは考えていなかった。思考の差だろう。普段から大量に使っている安価な山椒が、高級なスパイス類の代りになると思っていなかったのだ。匂いなども結構違うしな。

俺はそこに目を付け、元々この地に存在していた山椒と醤油、砂糖で味付けしたマーボーに似ている料理をカレー風にアレンジしたのである。カレーとはまた違った辛みが癖になる味わいを目指してみた。

原価で言えば今までとそう変わりはないんだが、料理スキルカンストの俺たちが本気で考えたレシピである。しかも、国外の香辛料を僅かでも使うことで、今までにない目新しさもあった。生徒たちには喜んでもらえるだろう。

「味付けとかトロミ具合を少し変えれば、蒸しパンの中に入れたり、ロールパンに挟んだりもできる」

「なるほどな! しかも具はいくらでも変えられる! こいつは良い物を教えてもらった!」

これ以外にもカレーチャーハンとか、既存の料理のアレンジ方法も教えておく。ノリッツの腕なら、今以上に学食の味を向上させられるだろう。

「ありがとう。これで、ガキどもに美味い飯を食わせてやれる。それで、謝礼なんだが……」

「ん? 別にいらない」

フランは謝礼を断る。まあ、これは半分は騒がせてしまったお詫びという意味もあるし、他の生徒のためでもあるからだ。

それに、材料費を抑えるために涙ぐましい努力をしているノリッツたちを見てしまったからな。これでレシピの謝礼などもらったら、せっかく安く作るためのレシピを教えた意味もなくなってしまう。

そう告げると、ノリッツがタダでは受け取れない、自腹で払うと言い出した。

そして短い話し合いの結果、学院と取引のある商会の紹介状を書いてもらうことに落ち着いたのであった。今後のためにも、山椒が大量に欲しかったからね。ちょうどいい。

そんな風に学食で一仕事を終えた俺たちだったのだが、そこで不意の遭遇を果たす。それは、学食を後にしようと、出口に向かっている時だった。

「……!」

「?」

それは、まだ3、4歳ほどに見える茶髪の少年だった。よほど食事が楽しみだったのか、笑顔で食堂に駆け込んできた少年は、フランを見た瞬間に動きを止めてしまう。

「「……」」

互いに見つめ合うフランと少年。笑顔から一転して、少年はフランを睨みつけている。その目には強い怒りと、僅かな怯えがあった。こんな少年にそんな視線を向けられる覚えは――あったな。

数秒ほど睨み合いをしていると、一緒に居た女性が少年の肩にそっと触れた。

「ロミオ君、ここで止まっては他の人の迷惑ですよ」

「……ご、ごめんなさい」

「行きましょう? ね?」

「うん」

すれ違いざま、女性が申し訳なさそうに頭を下げてくる。少年――ロミオはこちらを睨んだままだ。世話係なのだろう。

『やっぱあれがロミオか』

「……」

『フラン? あまり気にするなって』

(あの目……どっかで見たことある気がする)

『え? ロミオのことか?』

「ん」

ロミオに睨まれて落ち込んでいるのかと思ったら、違うことが気になっていたようだ。

『どこでか、思い出せないのか?』

「ん……」

俺たちはロミオとは初対面だ。こちらに対する敵意と怯えの籠った瞳が、かつて戦った相手と重なったのだろうか?

「どこで……?」