作品タイトル不明
570 新入生
ロミオと遭遇を果たした翌日。
今日は魔術学院の雰囲気が朝から違っていた。実は、新入生の入学式があったのだ。
とはいえ、盛大な式典などがあるわけではない。
この学院では4ヶ月に1度、新入生が入ってくるらしく、入学はそこまでメモリアルな行事ではないようだ。
出席するのは新入生と数人の教師だけである。
フランも出席しなくてもいいと言われていた。希望すれば参加できるそうだが、当然不参加だ。自分の入学式でさえ居眠りは確実だと思われるのに、他人の入学式なんて絶対に寝る。
新入生たちの晴れがましい思い出を、わざわざ汚すこともないだろう。
既に入学式は終わっており、今は引率の教師に率いられて、校内を案内されているところである。
期待に胸を膨らませる新入生たちのざわめきが、学院内を明るくしているようであった。
『どの世界でも、新入生がキャピキャピしているのは同じなんだな』
(師匠の世界も?)
『おう。似たような感じだったぞ。まあ、あれだけ年齢がばらけているのは珍しいが』
入学に年齢制限がないことから、新入生たちの年齢はバラバラだった。下は10歳くらいから、上は20歳以上もいる。
一番多いのは12~14歳くらいの年齢層かな。フランと同年代だ。
定時制高校ならこれくらいの年齢差は当たり前だろう。だが、子供と大人が混じることはないはずだ。小学生と、大学生が同じ教室で勉強をするようなものだからね。
しかしこの世界ではそう珍しいことではないらしく、子供に混じっている大人新入生たちに恥ずかしがる様子はないし、子供たちが変な目で見るといったこともないようだった。
とはいえ、同年代で固まってしまうのは仕方ないのだろう。そこは地球と同じである。
魔術学院の施設を見て、目を輝かせている新入生たち。彼らを横目に教室へ向かおうとしていると、後ろから声をかけられる。
「フランさん?」
「ん?」
「やっぱり!」
振り向いたフランは、声をかけてきた相手の顔を見て珍しく驚いた表情をした。
「カーナ? なんでここにいる?」
「それは私の台詞ですよ」
フランの視線の先にいたのは、クランゼル王国からの峠越えで一緒だった少女、カーナであった。
なんと、新入生であるらしい。この学院の制服を身に着けている。
「フランさんは入学式に出なかったのですか?」
「ん? どういうこと?」
「いえ、入学式の会場にいなかったので。でも、ここにいるということは、入学できたのですよね?」
「ん。入学した」
入学というか、臨時に生徒扱いになっているだけだけどね。
「でも入学式は出なくていいっていわれた」
「あら、そうなのですか?」
「ん」
「でも、良かったです。またお会いできて。姿が見えなかったので、急遽入学を取りやめたのかと思っていたんですよ。フランさんの実力で入学できないなんてあり得ませんし」
フランとカーナの会話が微妙にかみ合っていない気がしていたんだが、その理由が分かった。カーナは、フランが自分と同じ新入生だと思っているらしい。
考えてみたら、カーナにはフランの目的地が魔術学院であるとしか教えていなかった。
フランの年齢的にはちょうど入学するのに適しているし、カーナが勘違いをしても無理はないだろう。
「同じ新入生同士、お願いいたしますね」
やはりそうだ。勘違いされている。
「あら? でもその制服は……? 私たちとは随分違いますね」
「これは特戦クラスの制服」
「え? 特戦クラス? それは、上級生のクラスでは……?」
「ん」
「基礎学科ではないのですか?」
ここで、カーナもようやくおかしいと気付いたのだろう。
互いに情報を交換し、ようやくフランが新入生ではないと分かってもらえたのだった。
「そうですか。まさか教官扱いだなんて。いえ、フランさんの実力ならそれも当然かもしれませんね」
「カーナは、最初からここを目指してた?」
「え? まあ、そうなんですけど……」
旅の目的が魔術学院への入学だと明かさなかったのは、確実に入学できるかどうか分からなかったかららしい。
「ここは、誰でも入学できるって言ってたよ?」
「まあ、私にもいろいろあるんですよ……」
訳ありなのは微妙に感づいてはいたが、入学を断られるかもしれない訳って、いったい何なんだろうな?
まあ、聞いても教えてはくれないだろうが。フランもその辺はあまり興味がないのだろう。違う質問をしている。
「ねえ、あとの2人はどうしたの?」
「ディアーヌとシェラーですか?」
「ん。それ」
フラン、カーナのお付きの名前を完全に忘れていたな。まあ、いつものことだけど。
「シェラーは町で滞在中の仕事を探しています。私が無事に卒業できれば、その後は私と一緒に国元へと戻ることになるでしょう」
カーナの卒業までは年単位で時間がかかるだろう。それを待つとなれば、宿にただ泊まり続けるだけでも莫大な費用がかかってしまう。その滞在費を少しでも捻出するため、レディブルーで就職するつもりであるらしい。
「あの騎士は?」
「ディアーヌはどうするのか分かりませんね。元々、彼女の仕事は私をこの場所に送り届けることでしたから。私と一緒に国元に戻ると言っていましたが、滞在中は個人の裁量で行動することが許されています」
「なるほど」
「武者修行をするといっていましたが、まだどこに行くかは決めていないようですね」
ここにいないのであれば、それでいい。むしろいなくてよかった。
「ああ、もう行かないと。お引き留めしてすみませんでした」
新入生を引率している教師から呼ばれ、カーナが慌てて戻っていく。
「あの!」
「ん?」
最後に、振り返ったカーナがどこか思いつめた表情で口を開いた。
「また、お会いしましょうね?」
「ん。またね」
「はい! また!」
頷きつつ手を振るフランの言葉を聞いて、ホッとした様子で微笑むカーナ。会話中にニコリともしないフランを見て、迷惑がられていると思ったらしい。
フラン的には、カーナに再会できて結構喜んでいるんだけどな。
『知り合いが増えてよかったな』
「ん」