軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

568 カレーの影響

調理実習は高評価だった。ある物を最大限利用し、美味い物を作ったという評価なのだ。

そんな調理実習後、フランは昼食を食べるために食堂にいた。

キャローナたちも一緒だ。調理実習で食べた程度の量では、体育会系少年少女たちには足りないのだろう。

他のクラスメイトたちにとっては、口直しの意味もあるようだった。

皆が食堂で出された料理を美味しそうに食べている中、フランだけは違うものを食していた。ここは、外から食事を持ち込むことも許されているのだ。まあ、学食だからね。

特に寮住まいではなく町から通ってくる生徒たちは、外で食事を調達してきているらしい。

フランが食べているのは当然カレーライスである。

自分たちで作ったスカンクラクーンのカレーは、フランにとっては全く満足のいく物ではなかったらしい。口直しにまたカレーって……。

「ん。これ」

「オン!」

フランは何度も何度もうなずきながら、カレーを口に運んでいる。ウルシも仔犬モードでカレーを貪っている。口の周りがベッタベタだな。

そんなフランたちを、キャローナが羨ましそうに見ていた。

「それは、先程の調理実習で作ったカレーという料理ですよね?」

「ん? そうだけど、違う」

「えっと……? カレーではないのですか?」

「カレー。でも、さっきのとは全く違う。これが本物。さっきのは全然ダメ」

「あれで、ですか? とても美味しかったのに?」

「ん。これ」

「え? あ、ありがとうございます。では失礼して……あーん」

フランが差し出したスプーンにキャローナが遠慮がちに口を付けた。

「こ、これは……! お、美味しいです! 確かに、先程の物とは比べ物になりません!」

今日何度目か分からない驚愕の表情である。

まあ、調理実習で作ったものも美味しいのだろうけど、素材も良くないし、カレー粉の味付けもそれに合わせて調合した訳ではない。それに対して、今フランが食べさせたのは俺が本気で作った最高のカレーだ。

比べるまでもなく、こっちの方が美味しいはずであった。

感動しているキャローナを見て、フランがドヤ顔である。

「ふふん」

「これをフランの師匠が?」

「ん!」

「本当に冒険者なのですか? 料理人ではなく?」

カレーを褒められたことがよほど嬉しかったのだろう。フランが次元収納から盛り付け済みのカレーを取り出すと、ソッとキャローナの前に置いた。

「よ、よろしいのですか?」

「ん」

「ありがとうございます!」

キャローナが輝かんばかりの笑顔で礼を言う。すでに食堂で提供されたランチを腹に収めているのだが、まだまだ食べられるらしい。

「いただきますわ」

スプーンを動かす所作は、貴族なだけあって中々上品なんだが、その勢いは凄まじい。スプーンを動かす手は一切止まることなく、皿の上のカレーが減っていく。

「そ、そんなに美味しいのか? な、なあ、俺たちにも……」

調理実習終了の流れで食堂にやってきたので、同じテーブルにオスレスたち男子生徒も一緒に座っていた。

あまりに美味そうにカレーを食べるキャローナを見て、我慢できなくなったのだろう。オスレスたちが自分たちも食べたいと言い出した。

いつものフランだったら、カレーを分ける時に相当悩むはずだ。しかし、僅かな間でも共に調理実習を行い、仲間意識が芽生えたのだろうか?

フランは快くカレーを出してやっていた。福神漬けのおまけ付きである。

「美味しいです!」

「やべー! うまい!」

「がつがつ!」

ただね、ここでオスレスたちにカレーを振る舞ってしまうと――。

「……ごくり」

「……じゅるり」

食べ盛りの少年少女たちなんて、飢えた野獣みたいなものなのだ。周囲にいる全てのクラスメイトたちが殺気さえ感じさせるギラギラした目で、フランたちのテーブルを見ていた。

いや、クラスメイト以外の生徒も、カレーの匂いに釣られてこちらに視線を送ってきている。

「むぅ」

「クゥン」

魔獣の群れに囲まれても笑っていられるフランとウルシが、学生たちに気圧されている。

「……これ、食べていーよ」

『あ! それは悪手――』

「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」

フランが次元収納から寸胴を1つ取り出した瞬間、地鳴りのような歓声が上がるのだった。まるでウォークライだ。

『パ、パニックになっちまうぞ!』

俺はそう思って身構えたんだが、オスレス、マーチェス、レルスの3人が自主的に配膳や列の整理を担当してくれていた。

「俺たちのせいっぽいからな……。これくらいはさせてくれよ」

「そうだな」

「ほ、放置したらどうなってしまうか分かりませんし」

特戦クラスは一目置かれているらしく、他の科の生徒たちもちゃんと従っている。そのおかげで暴動に発展することもなく、スムーズにカレーを配り終えることができていた。

「食堂のメシより数段美味い!」

「数段どころの話じゃないだろ」

「確かに! 百倍美味しいな!」

空になった寸胴を悲しげに見つめるフランを尻目に、食堂の各所では喜びの声が上がっている。カレーは受け入れられたらしい。

ただ、その状況を単純に喜べない人間が、フラン以外にもいた。キャローナたちではない。

「あんた。そこの獣人の嬢ちゃん。ちょいと話を聞かせてもらえねぇか?」

「ん?」

「俺らに断りなく、何してくれてんだ?」

言葉だけ聞くと、まるで町のチンピラがイチャモンを付けているかのようだが、それもまあ仕方ないだろう。

額に青スジを浮かべてフランを睨んでいたのは、白いコック服に身を包んだ一人の壮年男性であった。

「俺は、ここの調理を担当している、ノリッツってもんだ。ちょいと話を聞かせてくれるよな?」