軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

567 フランの料理

フランたちは作る料理を決定して調理を始めたんだが、他の班とはあらゆる面で違っていた。

何せ、他の班が焚き火にフライパンをかざして調理しているのに対して、土魔術で作った即席コンロを使っているのだ。

しかも包丁やフライパンは、フランの次元収納に入っていた一級品である。ドワーフの匠が作った超高級品だ。

下処理に使う香辛料や、臭み消しのミルクなんかも贅沢に使用している。

さらに、土魔術、火魔術、風魔術、水魔術を併用した疑似圧力鍋で、肉をトロットロになるまで煮込んだりもしていた。

疑似圧力鍋は一見すると簡単そうなのだが、実は魔術の併用に維持、調節が非常に難しい、高等技術が必要な技である。

まあ、誰も気づいていないが。魔術科の教師辺りが見たら、技術の無駄遣いに驚くことだろう。

フランたちが目の前に並べた料理の数々を見て、調理実習担当教師のヤフィが感嘆の声を上げていた。

「へえ? 独特の刺激臭がまったくない。スカンクラクーンの肉を使ったとは思えないわ」

白磁の食器からして、野外調理で使うとは思えない見栄えなのだ。いや、ヤフィだけではない。他の班も同様だ。

「あれ、なんていう料理だ?」

「さあ?」

「でも美味そうだ……。しかもこの短時間で4品も……」

生徒たちが感心しているのは、料理だけではない。

「解体の速度見たか? すごかったぞ?」

「解説に聞き耳立ててたんだけど、メチャクチャためになった」

「さすが現役の冒険者だよな……」

「ていうか、魔術であんな風に料理ができるなんて」

「俺だっていつか……」

単に野外料理をしただけでも、その実力差が感じられたのだろう。疲れ切った様子で、フランに羨望の眼差しを向けていた。

ああ、生徒たちが疲れているのは、何度も起きた異臭騒ぎで心身ともに消耗しているからだ。多分、半数ほどの班が、解体に失敗して毒腺をダメにしていただろう。気絶するほどの悪臭を何度も嗅いでいたら、そりゃあ消耗具合もハンパないに違いない。

「これは美味しそうね」

ヤフィの「これは」という言葉に、彼女の心情がよく表れているだろう。ここまで碌な料理が出ていないのだ。

香草塗れの塩焼きとか、塩味のスープとか、そんなんばかりであった。査定のために食べないわけにはいかず、相当キツかったらしい。

唯一マシそうだったのが、毎回この授業で良い評価をもらっているという班の料理だ。他の大陸出身という、褐色肌にプラチナブロンドの爽やかイケメンが班長として調理を担当していた。

アゼリア王国という砂漠の国で、香辛料をたくさん使った料理が有名らしい。この授業でもアゼリアスープと、焼いた肉を小麦粉の生地に挟んだトルティーヤ風の料理を作っていた。

スープの方は一見スープカレーなのかと思ったが、どちらかと言えば香辛料を入れたシチューっぽいようだ。

トルティーヤの具は、薄切りにした肉を重ねて焼いた物をそぎ切りにした、いわゆるケバブのような感じである。

どちらも香辛料とココナッツミルクで臭みをかなり消せているようだったが、血抜きなどの下処理が甘いせいで、完璧ではなかったらしい。ヤフィの評価は「まあまあね」だった。

さて、フランたちが作った料理はどう評価されるだろうか。

「ではいただくわ」

「ん」

「これは、スカンクラクーンの肉を叩いてミンチにしたのかしら? 上はチーズ?」

「アバラ肉の脂肪をできるだけ取り除いてから細かく潰して、特製の調味料を混ぜて丸めて焼いた」

まあ、簡単に言ってしまえば、カレー粉を混ぜて焼いたハンバーグ、チーズ乗せである。

「味は――」

ヤフィはフォークを使ってハンバーグを切り分けて、ゆっくりと口に運ぶ。

「もぐもぐ……!」

1回2回と咀嚼した直後、彼女の目が驚きに見開かれた。

「美味しい! なんなのこれは! 普通にお金が取れる味だわ! しかも食べたことのない複雑な味……。アゼリア料理よりも辛いけど……。あと、この辛みの正体は――」

意外なほど的確に味を分析していくヤフィ。冒険者上がりの、野外料理を教えるための教師かと思っていたが、ちゃんと食と料理に精通しているらしい。

「これはジャーキー? 短時間でよく作ったわね」

「魔術で作った生ジャーキー」

「魔術の腕もすごいのね……。ふむ……調味液と香辛料をつかうことで、独特の味に仕上がっている。あー、お酒が飲みたいわ」

「それとこれ。肉味噌にした。この小麦粉のクレープに包んで食べる」

「また珍しい料理ね。もぐもぐ――これも美味しい。信じられない……」

香辛料や味噌で匂いと味を誤魔化しているのだが、そこは料理スキルがカンストしているフランだ。今まで俺が作ってきた料理の数々の中からこの場で作れる料理を選び、再現していた。

「そして、最後が不思議なスープね……。スープなのかしら? 妙にトロッとしてるけど」

「それはカレー。この世で一番おいしい食べ物」

「そ、それはまた大きく出たわね。じゃあ、いただいてみようかしら……もぐもぐ」

フランが用意したもう一品は、具だくさんのカレーである。ライスはないが、スープ代わりということだろう。

疑似圧力鍋でトロトロになった肉や野菜が入った、やや辛みが強めの赤いカレーである。そのカレーを口にしたヤフィが、先程よりもさらに驚いた表情をした。

「こ、これは! なんて複雑な味なの! 辛いけど、いくらでも食べられる……」

これまでの料理は「満腹になると審査が上手くできない」と言って数口しか食べなかったヤフィが、フランたちの料理はがっついている。

これは文句なしで高評価だろう。

「わ、私たちも頂きましょう」

まずはヤフィに審査してもらうために、軽い試食だけで我慢していたキャローナたちも待ちきれなくなったらしい。

「ん」

「や、やっと食べられる」

「美味そうだ」

「いっただーきまーす!」

「オンオン!」

ウルシもちゃっかり出てきて、カレーをもらっている。ただ、その反応は芳しくない。作ったフランに気を使って美味しそうに食べてはいるが、尻尾の振れ方でどれくらい喜んでいるか分かってしまうのだ。

だが、フランは怒らない。何せ、フラン自身も微妙な表情だからだ。カレーを愛するフランにとって、満足のいく味ではないのだろう。

それでも班員たちの評判はすこぶる良い。フランは俺の料理と比較しているから厳しい評価になってしまうが、そこらの料理に比べたらかなり美味しいはずだからな。

美味い美味いと言いながらカレーを食べるキャローナたちを羨ましそうに見ているのは、他のクラスメイトたちである。作った物は全部食べるというルールなので、どの班も無理やり料理を流し込んでいたのだ。

「……な、なあ。その料理、余ってるなら一口もらえないか?」

最初に声をかけてきたのは、アゼリア料理を作ったイケメン君だ。料理が得意なだけあって、興味津々であるらしい。

「いいよ」

「本当か! ありがとう!」

「え! じゃあ、私も欲しい!」

「俺も俺も!」

結局、全員が手を挙げていた。だが、希望者に行き渡るほどの量はない。

なんていうか、ジャンケンに負けた生徒たちよ、次頑張れ!