軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

566 調理実習開始

フランは、まずは調味料を確認して、どんな料理を作るかの相談から始めるようだ。

「あの、フラン? 班を分けて、解体を始めなくてよろしいのですか?」

「他の班は、もう解体始めてますよ……?」

「へいき。あれくらいの魔獣ならすぐに解体できる」

「さすがだな」

「頼りになるねー」

こっそり他の班の手際を覗いてみると、かなり酷い。遅いし、獲物の構造を理解できていないし、全体的な手際が悪い。多分、解体だけで30分以上はかかるだろう。

魔石と毒腺以外は気にしなくていいうえ、サイズも小さいスカンクラクーンは、フランなら5分もかからない。

いや、俺たちが解体スキルの恩恵で超人的に早いだけか。考えてみれば、この世界にやってきたばかりの頃の俺に比べたら十分上手いな。適当に解体してみようとして、素材をボロボロにしてしまっていた頃が懐かしいぜ。

「調味料、これだけ?」

「え? そうですけど……」

「むぅ」

キャローナたちが用意した調味料を見て、フランが珍しく弱ったような呻き声を上げる。

まあ、気持ちは分からなくもない。何せ、テーブルの上に置かれているのは、岩塩、山椒、香草が2種類。後は刻んだ茸とオイルを塩に混ぜた調味塩。それだけだったのだ。

調味塩は素人の手作りっぽいし、香草は香りなどが弱いタイプの物で、味もあまりよくはない物ばかりだ。

どうやら、野山で採取できるものしかないらしい。話を聞いてみると、今までの授業で採取した調味料であるそうだ。

「……買ってきちゃいけないの?」

「許可されていますが、私たちは調味料にあまり詳しくないので……」

今までは調味塩や香草をかけて熱を通せば、何とか食べられるようになる食材ばかりだったらしい。

ただ、今回のスカンクラクーンは一筋縄ではいかないぞ? 熱の通し方を加減した程度では、臭いは消せないだろう。

今から町に行って、調味料を買ってくる時間はさすがにない。

「わかった。調味料はなんとかする」

「何かお持ちなのですか?」

「ん。色々もってる」

「ああ、フランは時空魔術を使えるのでしたね」

ということで、フランたちはまずは解体を進めてしまうことにしたらしい。

フランが全力でやればすぐ終わるが、キャローナたちに解説しながら解体を行うようだ。これが授業の一環であるからだろう。さすがのフランでも、自分が何でもかんでもやってしまってはいけないということは理解しているのだ。

だが、フランたちが解体に取りかかる前に、他の班の生徒から大きな悲鳴があがった。次いで、他の班も目鼻を押さえて叫び始める。

「うげー!」

「なんだこの臭い……!」

「くさ! くさくさくっさ!」

「ギャー!」

どうやらどこかの班が解体中に毒腺を傷付けてしまったらしい。スカンクラクーンの毒は微毒であるが、とにかく臭いが凄まじかった。

肉の臭みもそれが原因と思われがちだが、実は違う。スカンクラクーンの血中には、自分の毒ガスに耐えるための成分が含まれている。その成分の持つ化学薬品のような香りが、肉の臭みの正体なのだ。

対して、毒の持つ臭いは強烈な硫黄臭である。他班が毒腺に傷をつけたせいで、その臭いが周囲に一気に広がってしまったようだ。どの班も涙目で悶えている。

キャローナたちもえずいているな。男3人はともかく、貴族の令嬢であるキャローナがその顔はマズくない? フランも一瞬だけガスを吸ってしまったらしく、顔をしかめていた。

だが、すぐに風魔術で周囲の空気を吹き飛ばすと、結界を張って臭いを遮断する。

「た、助かりましたわ」

「あ、ありがとう」

「阿鼻叫喚だな……」

「うわー、みんな酷い顔だね」

周囲は半ばパニック状態だが、フランは特に気にしていない。自分たちの周囲が臭くなくなったことを確認すると、解体の説明に戻るのだった。

「じゃあ、まずはここにナイフを入れる」

「え? あ、はい」

キャローナたちも、自分たちの作業が遅れていると思い出したのか、すぐにフランの手元に集中した。

そうやって作業を進めていくと、10分ほどでほぼ全ての解体を終える。勿論、毒腺を傷付けて異臭騒ぎを引き起こすようなへまはしなかった。

「素晴らしい手際ですわ」

「さ、さすがですね」

「慣れれば誰でもできる。それよりも、これはどうする?」

「魔石などが上手く採取できたら、後で先生に渡す形です」

教師が冒険者ギルドなどに持ち込んで、授業を行うための費用を少しでも賄うらしい。

「結構お肉が取れましたが、どんな料理になさいます?」

「な、なんか、変な臭いがします……」

「色も悪い」

「筋もかなり多いね。味はどうなのかな?」

食べる前から、あまり美味しくなさそうだという顔をするキャローナたち。フランがその言葉に大きく頷いた。

「ん。とても臭くて不味い。焼いたくらいじゃ、どうしようもない」

「うわー、それは……。だったらどうする?」

「仕方ない。これを使う」

フランが次元収納から取り出したのは、俺が配合したカレーパウダーの数々であった。食材や調理法によって、香りや辛みを調節したものである。

「これは?」

「師匠が作ったカレー粉。これがあればどんな素材でも究極の味になる。至高の調味料」

「へー、カレーっていうのは、料理の名前ですか?」

「ん。最強の料理」

「それは凄そうだ。でも、不思議な香りですね。香辛料を調合しているのかな?」

カレー粉に食いついてきたのはオスレスだけだった。料理に興味がなきゃ、珍しいだけの調味料だからな。

だが、すぐにキャローナが声を上げる。

「待ってください。カレーと言ったら、クランゼル王国で最近流行り始めているという、新しい料理なのでは?」

「師匠が作った」

「では、もしかしてフランさんの師匠とは、噂のカレー師匠? 凄腕の料理人だと聞いたのですが……。冒険者の師匠ではないのですか?」

「師匠は全てが完璧。料理も戦いも魔術も、全部が一流。私の全部の師匠」

「まあ、そうなのですか。高名な冒険者なのでしょうか?」

「冒険者じゃない。師匠は師匠」

「はぁ……」

なんて話をしている間に、オスレスがカレー粉の確認を終えていた。

「俺如きじゃ使い道が分からないな。まぶして焼けばいいのか?」

「それでもいいけど、今回は違う使い方をする」

その後は、フランが指示を出しつつ、全員で料理を進めていった。

あのフランが人に指示を出して、協力して料理をするなんて……。前だったら、全部自分で終わらせて、一人で料理をほおばっていただろう。

フランのちょっとした成長が実感できて、涙が出そうだ。涙腺ないけどね。