軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

378 消えたロミオ

「じゃあ、ロミオは保護した?」

「いや、無理だった」

メアがわずかに表情を暗くして、首を振った。

どういうことだ? マグノリア家には行ったんだろ? 抵抗されたのか? それとも最初からそんな子供はいなかったとか? あとは戦争が始まった時点で避難させられた可能性も高いだろう。

だが、メアたちの答えはそのどれでもなかった。

「すでに、何者かによって連れ去られたあとだったのだ」

『何者か?』

「ああ、2メートル超えの長身で、全身に傷が刻まれた、まるでオーガのような凶暴な男だったらしい」

心当たりは2人しかいない。いや、アースラースはずっと俺たちと一緒にいた。それに、全身傷だらけって程でもない。

だとすると候補は1人だけだ。

「ゼロスリード?」

「フランもそう思うか? どうもゼロスリードがマグノリア家を襲撃して、ロミオをさらっていったらしい」

ゼロスリードはミューレリアの仲間だったが、最期に裏切ったはずだろう? そいつが何故、ロミオを? ミューレリアへの当てつけ的な事か? それとも、何か違う理由がある?

『……理由は?』

「分からん」

『だよな』

「ウルシの鼻で後を追えないか?」

「クゥン」

さすがのウルシでも、それは無理だ。たとえ、マグノリア家から辿ろうとしても、ゼロスリードは転移も使うし、数日経てば臭いも落ちてしまう。

「そうか……残念だがここまでだな」

「あとは、賞金でも懸けてみましょうか。すでに手配されていますが、再度告知されれば嫌がらせ程度にはなるでしょう」

「そうだな」

賞金を懸けるのはメアたちに任せた方がいいだろう。そうなると、俺たちには本当に打つ手がなかった。かなり後味は悪いが、ロミオという少年に関する話はここで終了だな。

「ん……」

フランも気になっているんだろう。しかし、これ以上はどうしようもないと分かっている。

『仕方ないさ。もし今後ゼロスリードに出くわしたら聞き出してみよう。まあ、素直に喋るとは思えんが』

「ん!」

本当はあんな化け物に2度と出会いたくはないけど。ただ、奴とはすでに2度出会っている。バルボラ、そして今回。2度あることは3度あるって言うし、油断はできないのだ。

「あいつをブッ飛ばして、詳しい話を聞く」

交渉の二文字はないらしい。まあ、ゼロスリードに交渉が通用するとは思えないから、結局戦闘になるだろうが。

『そのためにはもっと強くならないとな』

「ん」

フランはやる気満々の顔で、頷いていた。

「では、師匠、ここにキアラ師匠を頼む」

『ああ』

野外での報告会が終了した後、俺たちはメアとともに王都へと入っていた。あの行列にまた並ばなければいけないのかと思ったが、そこはさすがに王族。専用の入り口があり、すぐに王都へと入ることができた。

出迎えてくれたのはキアラ付の侍女であったミアノアだ。彼女は一足先に王都へ戻り、報告を行っていたらしい。同時に、キアラの葬儀の準備を進めてもいたようだ。

用意されていた棺に、次元収納から取り出したキアラの遺体を横たえる。フランもメアも、それを見てまた瞳を潤ませているな。

だが、ミアノアとクイナは表情を動かさなかった。悲しくない訳がない。だが彼女たちの持つ王宮侍女としての矜持が、悲しみを面に出すことを良しとしないのだろう。プロだな。

その後、葬儀の予定などを聞いたが、俺が想像していた葬儀とは大分違っていた。というか、そもそも俺のイメージは仏教式、もしくは映画の中で見た西洋式の葬儀だ。

しかし、ここは宗教観も死生観も全く違う異世界である。弔いの形が全然違っているのは当然だった。しかも、人間ではなく獣人式の弔いなのだ。

まず、最も重要なのが死を迎えた直後であるらしい。魂が肉体を抜け出して、天へと召される瞬間だからな。地球と違って魂の存在が確認されているこの世界では、その時に看取った者が、幸せな来世を祈ってやることが一番重要であるようだった。

ある意味、死を看取るということが葬儀みたいなものなわけだ。その後、魂の抜けだした後の空の器として、遺体が残される。さすがに打ち捨てるような真似はしないものの、その重要度はかなり低かった。

放置しないのは故人への敬意とともに、アンデッド化を防ぐためでもある。強い冒険者などであれば、強力なアンデッドになるからだ。

それ故、遺体は持ち帰れるのであれば持ち帰り、不可能であればその場で燃やして埋めてしまう。骨も回収しないらしい。そこまで原形をとどめていなければ、もはや遺体という感覚ですらなくなるんだろう。

遺体を持ち帰れた場合は、アンデッド化を防ぐ儀式を施した上で、土葬にされるらしい。ただし、葬儀の主役は故人ではなく生きている人間だ。

地球でも、葬儀は遺族が心を整理するためのものだと言われることがあるが、この世界の葬儀は正にそれだ。棺に入れられた故人の遺体を目にすることで、彼らが死んだのだと参列者が理解し、受け入れる手助けとなるのだ。

しかし、副葬品や献花のような物は一切ない。来世に持って行けるわけではないからな。来世の幸せを改めて祈る、儀式的な物は行うようだが、それを行なうのは僧侶ではなく親族や友人である。そう、この世界では葬儀に神官的な人間が一切かかわらない。それもまた、地球との違いだろう。

「キアラ様の葬儀は4日後に執り行います。獣王陛下が帰還された翌日の予定です」

「なに? 父に連絡が付いたのか?」

「はい。遠距離通話の魔道具は大陸間では使えませんし、バシャールに盗み聞きされる可能性もあるので、冒険者ギルドの鷹を使いました。即ご帰還されるということです」

他の大陸から3日で戻ってくるというのは早くないか? かなり強行軍で戻ってくるんだろう。まあ、自分の国が戦争を仕掛けられたんだから当然だが。

今回は完全に獣王のいない隙を狙われたな。いや、普段であればそれでも問題ないんだろう。バシャール王国に対して、軍事力で圧倒的に優位に立っているわけだし。

「フラン様はどうされますか? ご希望なさるのであれば、獣王様が帰還に利用する高速艇に乗船できるように手配いたしますが? 予定では、獣王様をグレイシールに降ろした後、その日の内にバルボラに戻る予定となっております」

「お願いしてもいい?」

「分かりました」

ミアノアの言葉にうなずくフラン。それを聞いて慌てたのが俺だ。

『お、おい。キアラの葬儀に参列しなくていいのか?』

「ん? いい」

いや、そうか。まだ地球的な感覚が抜けてなかった。フランはキアラを看取ったわけだし、今さら葬儀に参加する意味がないんだろう。それをあっさり割り切れるのは凄いと思うが、獣人たちにとっては当たり前の感覚であるようだった。

メアもクイナも、キアラの葬儀に参加しないというフランの言葉に全く反応しなかった。いや、メアはすぐにでも出立するというフランの言葉を聞いて、落ち込んでいるが。

「のう、フラン。もう少し滞在してもよいのではないか?」

「ごめん。約束がある」

『クランゼル王国でオークションに参加しなきゃいけないんだ』

「そうか……。それは急いだほうが良いな。そうか……そうなのか」

「お嬢様。そう落ち込んでは、フランさんが旅立ちづらいではないですか」

「う、うむ」

「それに、まだ数日有ります」

「そ、そうだな! その間に、色々と遊べばいいのだな!」

クイナの操縦術が凄いぜ。メアのテンションがあっという間に戻った。すでにフランがメアに付き合うことは決定みたいな雰囲気だが……。

「ん。遊ぶ」

フランも乗り気だった。初めてできた親友だからな。3日間で、色々と思い出が出来るといいな。