軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

377 メアと影武者

「別れた後、戦争に行ってたの?」

「うむ、そうだ。知っているのか?」

「少しだけ聞いた。バシャール王国の軍隊をやっつけて、凄い大地魔術師たちが敵を押し返したって。一緒にいたの?」

「そうだ。まあ、王女としてではなく、表向きは傭兵として参加したんだがな」

「なんで?」

話を聞いてみると、一般兵士たちには身分を隠して参加したらしい。さすがに司令官などには話を通していたらしいが、表向きには白犀族のリグダルファの護衛隊扱いとして軍に加わったのだという。

「王女としてでは自由に動けんし、その、なんというかだな……」

『どうしたんだ?』

「あの場にはセレネがいたのだ」

「セレネって誰?」

「セレネは私の同族の王宮侍女です。戦闘力は私よりも低いのですが、幻術に長け、背格好もお嬢様と似ているため影武者を務めています。種族などは魔道具で誤魔化せますから」

もしかして俺たちが挨拶だけした、あの影武者かな? そのセレネがどうしたのかと思ったが、ここでメアが名乗り出れば、影武者から本人に変わったと絶対にばれるというのだ。

「なんで?」

「セレネが演じておるのは、あー……あれなのだ……」

「セレネは国王陛下の命令もあり、お淑やかで儚い、いわゆるお姫様を演じております。正直、どれだけ取り繕ったところで、本物のお嬢様にあれを演じることは不可能かと。確実に入れ替わったのだとばれます」

なるほどね。メアにお淑やか系は無理だろうな。そして、メアとセレネが入れ替わることで、多くの貴族や将兵は、自分たちが必死に歓待して、命を張って守ろうとしていた相手が偽物だったと知る訳だ。大国の姫が影武者を使うことは当たり前とは言え――。

「確実にお嬢様とセレネが比べられるでしょう」

『それはきついな……』

「うむ」

獣人国の気風から考えて、メアのような気さくで溌剌としたタイプは喜ばれそうな気もする。だが、深窓の令嬢タイプに憧れる者も多いのは確かだろう。

確かに比べられるのは嫌だな。俺だったら心が折れるかもしれん。

ただ、疑問も残る。

『なんでまた、影武者にそんな性格を演じさせてるんだ?』

そもそも、その影武者であるセレネという少女は、なんでそんな無理のある演技をしてるんだ? その影武者がメアっぽい、活発な少女を演じれば問題ないんじゃないか?

現状だと、メアの評判はお淑やかな、戦闘力の低い箱入り娘といった感じだろう。将来的に本物のメアが表に出た時、獣人国内で叩かれたりしないのか? だって、儚い系美女が、いきなり戦闘狂の元気娘だぞ?

俺の疑問に、メアが同調するように頷く。

「師匠もそう思うか? やはりおかしいだろう? 影武者という者は、もっと本人に似せる物なのではないか?」

本人もそう思っているらしい。だが、クイナは俺の質問に事もなげに答えた。

「国王陛下の趣味です」

『え? 趣味?』

「はい。セレネを本物だと思わせておいて、お嬢様が本物だと分かった時の、皆の反応が楽しみだと」

「ぐぬぬ。あのくそ親父めぇ……!」

獣王っぽいと言えば獣王っぽいが……。周りのやつらが振り回されててかわいそうだな。

「あとはお嬢様に対する当てつけというか、からかいの意味もあるでしょう」

「からかい?」

「はい。自分そっくりな姿のセレネがお淑やかに振る舞う様子を見て、落ち込んだり照れたりするお嬢様を見て楽しんでおられるのでしょう」

「悪趣味なのだ! あの親父は!」

「それに、あれだけ印象が違えば平時にお嬢様の身元がバレる心配は減ります」

ああ、そういうことか。普通の影武者と違って、外で冒険者をやっているメアの影武者だからな。むしろメアのイメージを違うタイプに誘導することで、メアの正体が露見してしまうことを防ぐ狙いがあるようだった。

あの獣王の事だから、面白そうだからという理由も本当だろうけどな。

『身分を隠して参加したのは分かったが、戦い自体はどうだった?』

「どうと言われてもな……。正直、我らはろくに戦闘をしなかったのだ」

「壊乱する敵を追い散らしただけですから」

メアたちが戦場に到着した時には、すでに獣人国軍がバシャール王国の侵略軍を押し返し、追撃を開始しようとしているタイミングだったらしい。

メアたちはその追撃軍に加わり、バシャール領内深くへと進撃したらしいのだが――。

「指揮を執る将軍の護衛をするというのが、我らが軍に加わる条件であった」

『そういえばさっきもそんなこと言ってたな』

「まあ、将軍の護衛というよりは、将軍のそばから絶対に離れるなという意味でしたが」

なるほど。王女に勝手に行動されて危険にさらしてしまうよりは、護衛という名目で自分の側に置いておこうというのがその将軍の狙いなのだろう。

「それに、途中で軍を離れたからな」

「なんで?」

「……マグノリア家へと向かったのだ」

マグノリアと言えば、ミューレリアが口にしてた場所だ。そこの領主であるマグノリア家から、ロミオという子供を救い出してほしいという頼みだった。

やはりメアたちもあの言葉が気になっていたんだろう。

「獣人国軍が国境を越えて進軍したことで、件のマグノリア領はすでにこちらの勢力圏となっていたからな」

『国境を越えてっていうけど、向こうにも防衛用の要塞とか砦があったんじゃないか?』

「無論、存在している。だが、それらの施設には壊走する味方の軍勢が押し寄せ、完全に混乱していた」

負けるはずないと思っていたら大敗北を喫し、味方の軍勢が無秩序に逃げてくるんだ、そりゃあ後方も大混乱だろう。

収容しようとしても全軍は砦に入らないだろうし、中に敵のスパイが混ざっている可能性もあるのだ。しかも後方からは獣人国が追撃をしているとなれば、判断も難しくなる。

「はっきり言って、防衛施設はまともに稼働していなかったな」

『素通り状態だったってことか?』

「それに近い。いくつか抵抗する砦はあったが、そこはリュシアスの出番だ」

「リュシアス?」

「うむ。宮廷魔術師リュシアス・ローレンシア。我が国で最強の大地魔術師にして、ローレンシアの悲劇に名高いローレンシア王家の血を引く御仁だ。大壁のリュシアスと言えば、クローム大陸でも有名なのだぞ?」

ローレンシア? 今、ローレンシアって言ったか?

『なあ、そいつはリンフォードと何か関係があるのか?』

「リンフォード? 確か、ミューレリアを召喚した邪術師だったな……」

「ん。リンフォード・ローレンシア」

「なるほど……。ローレンシアの姓を名乗っていたのか」

『ああ。百歳超えの化け物爺だった』

「百歳? リュシアスは確か40過ぎだったはずだ。子ではないだろう」

じゃあ、孫とかか?

『そのリュシアスって奴は、邪術師じゃないんだよな?』

「勿論だ」

「むしろリュシアス殿は、邪術師を憎んでらっしゃると聞いたことがありますよ」

そもそも、直接の血縁かどうかも分からないか。長い間にローレンシア家が分かれた可能性もあるし、邪術師の子孫が全員邪術師になるわけじゃないだろう。憎んでいるという話が本当なら、むしろリンフォードに何かされたという可能性もある。

獣王たちが邪術師を見逃すとも思えないし、リュシアスっていう男に問題はなさそうだ。

「リュシアスの大地魔術は攻城戦において無類の強さを発揮する。奴がいれば、小砦など物の数ではない」

「大地魔術で砦を攻撃するの?」

「まあ、それも可能だが、最も手堅いのは穴を掘り進めることだ。普段であれば、地下を見張る魔道具などで防備を固められているが、あの時は混乱していたからな。地下を掘り進めるリュシアスに気付かれることも、妨害されることも一切なかった」

なるほど、地下道を作って兵士を送り込むのか。日本でも武田の穴掘り衆とかいうのがあったはずだ。あれがどこまでが本当で、どこからが創作なのかはいまいち分からないが、地下を進んで城壁を越えるという方法が非常に有効なのは間違いないだろう。

「リュシアスたちのおかげで、マグノリア家へ向かうのは簡単だった」

「獣人国軍に対処するため、巡回の兵士もいませんでしたし、マグノリア領内の警備もないといってよい状況でした」

「じゃあ、ロミオは保護した?」

「いや、無理だった」