軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

292 フランを囲む夕べ

夜。今日は流石に宴会はなく、フランの講演会になっていた。

そもそもは、ようやくフランに慣れてきた子供たちにせがまれ、冒険の話をしていたのだ。すると大人たちも話を聞きたがり、いつの間にかフランを囲む夕べとなっていた。

最初に語っていたのは冒険譚だ。フランは面白おかしく語れるタイプではないのだが、リッチとの戦いや、武闘大会での激闘を淡々と語ることで、よりリアルに聞こえるらしい。全員が固唾を飲んで、フランの言葉に耳を傾けていた。

「それで、リヴァイアサンに助けられた」

「おおー!」

「すげー!」

フランの話が終わると、全員が息を吐いて、額の汗を拭っている。よほど集中して聞いていたんだろう。

「次は何の話ですか?」

「もっと聞きたい!」

「む」

だいたい語れそうな武勇伝は語ってしまったしな。フランも悩んでいる。そこで、今度は神話について語ることにした。

楽しい話ではないが、自分たちの祖先が何をして、何故進化できなくなったのか。それを知っておいて損はないと思ったのだ。

「昔、黒猫族はとても偉かった。今からは信じられないけど――」

今度は今までの武勇伝と毛色が違う話の様だと分かったのだろう。黒猫族たちは興味津々の様子で話を聞いている。

だが、フランの語りが進むにつれて、彼らの顔はドンドンと真剣になっていった。

雑談をする者はおらず、ただ静かに、そしてどんな言葉も聞き漏らすまいと、無言でフランの話を聞き続けている。

黒猫族の長がかつて獣王だったこと。その王家が暴走し、邪神の力を取り込んで世の覇権を狙おうとしたこと。そのせいで神々の怒りをかい、神罰を下されたこと。そのせいで進化に枷をかけられてしまったこと。邪人を狩るのは、その償いであること。

「――以上」

フランの話を聞き終わると、村人たちは神妙な顔で黙りこくっていた。想像以上に大きな話を聞いて、飲み込みきれていないんだろう。

すると、村長が皆の前に進み出ると、フランに頭を下げた。

「大変貴重な話を聞かせていただき、ありがとうございました」

「ん」

「ためになりました」

今度は村人に向き直った村長が、大きな声を張り上げる。

「皆の者! 姫様から聞いたな! 我らが祖先の罪を! 身の毛も弥立つ大罪を! だが、嘆くでない! その罪を償う道を、寛大なる神々は示してくださっておる! しかも、その道をたどれば、進化にたどり着く可能性さえあるのだ! これまでの様な、闇の中に放り出されたか弱い子猫の様に、どちらに向かって進めば良いかも分からぬまま、孤独と暴力に怯えながら歩いていた寂寞たる道程ではない! 力と名誉と尊厳を取り戻すための、試練の道なのだ! 儂は決めたぞ! 我らは村を上げて、罪を償う道を目指す! 強制はせん! だが――多くの者が共に歩んでくれることを願う」

さすが村長をやっているだけあるな。思わず聞き入ってしまった。黒猫族たちもそれは同じだったようで、広場に静寂が落ちる。

だが次の瞬間、万雷の拍手がその静寂を打ち破っていた。全ての黒猫族が立ち上がり、手を打ち鳴らしている。それだけではない。

「俺は、絶対に進化してみせるぞ!」

「わしはもう進化を目指すには年を取り過ぎたが、出来るだけ手伝うぞ!」

「私は姫様のお言葉を石碑に刻むわ!」

全員が村長の言葉に賛同している。ただ進化を目指すのではなく、同時に罪滅ぼしもする。そう決意したらしい。フランの言葉を疑いもなく信じてくれたことも驚いたが、神への怒りの様なものが無い事にも驚いた。

地球生まれの俺が想像もできないくらい、神と言う者への崇拝が根付いているからだろう。神に断罪されたと言う事は、自分たちが悪い。自然にそう考えた様だ。まあ、神様が実際に居る世界だったら、そうなるのかな?

その後は何故か大宴会だ。黒猫族の歴史が変わった日ということで、先日を超える大騒ぎになってしまった。

村中で盛大な酒盛りが始まったので、俺たちは他の子供と一緒に一足先に上がらせてもらう事にする。

『信じてもらえてよかったな』

「ん」

『良い人ばかりだ』

だからこの村に居た方がいいんじゃないかって続けようとしたんだが――。

「明日、村を出る」

『もうか?』

「ん。伝えることは全部伝えた」

『急過ぎないか? もう少し居ても良いと思うんだが』

「だめ。明日。ここは居心地が良すぎるから」

『だったら――』

「明日」

うーん。もう決めているようだな。仕方ない。フランがそう決めたんなら、従うだけだ。

『まあ、また来ればいいか』

「ん!」

永遠の別れという訳ではないからな。

黒猫族たちの宴会も終わり、村に静けさが戻って来た深夜。当然、フランもウルシもグッスリだった。

だが、同時に2人がその身をムクリと起こす。敵襲かと思ったが、俺には何も感じられない。フランたちも、その動きに緊急事態の鋭さがなかった。

『どうした?』

「ん――?」

「オン?」

フランたちにも、自分たちが何に反応したのか分かっていない様だ。寝ぼけた目で、周囲をキョロキョロと見回している。だが、当然何の気配もない。

『どうだ?』

「わからない」

「オン」

何だろう。地震でも起きたとか? こっちの世界は地震が全然ないみたいだから、日本生まれの俺が無意識に無視してしまう様なちょっとの微震でも、フランたちは過剰に反応するかもしれない。

だが一応村を見回ってみようかな。隠密系のスキルを持った魔獣が侵入したりした可能性もあるしね。

だが、コッソリ村を巡回した結果、俺は何の異常も発見できなかった。唯一見つけたのは、酒に酔って道で眠る酔いどれ黒猫どもだけだ。家は分からないので、せめて草の上に運んでおいてやる。

何もないんだが、フランとウルシが同時に異常を感じるなんて、偶然だろうか? 俺はそうは思えない。

『もう少し、見て回ろう』

「ん」