軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

293 北の異変

真夜中の村を見回っていた俺たちだが、異常は発見できなかった。それでも、フランとウルシは落ち着かない様だ。

俺以上に野生の勘が鋭いフランたちの違和感を、放置はできない。

『じゃあ、少し空から見て回ろう』

「ん」

「オフ」

フランを背に乗せたウルシが、宙を蹴って天に駆け上がった。

そのままウルシの背から周辺を見下ろす。だが、今日は空に雲が出ている。月も星も陰ってしまい、視界が悪かった。

『うーん、どうだ?』

「わからない」

『ウルシは?』

「クゥン……」

ウルシはどうしても何かが気になっている様だ。鼻をフンスフンスと鳴らしていた。しかし自分が何に反応しているのか自分でも分からず、しきりに周囲を気にしている。

そんな時だった。

『今……』

「師匠? どうしたの?」

『今、一瞬向こうの雲が切れて月明かりが差したんだが……。何かが動いてなかったか?』

「向こう?」

『ああ、ずっと北の方だ』

数km離れた、荒野の一角。遮るものがなく、昼であれば遥か先まで見通せるだろう。だが、夜な上に曇っているせいで、今は何も見えなかった。

さすがにこの距離では、夜目を持っているフランでも見えない。

『ウルシ、もっと近づけ』

「オン!」

ウルシが足を北へ向ける。そのまま数分ほど空を駆け続けた時であった。

ほんの数秒間であったが、雲の切れ間から月が顔をのぞかせる。

「……師匠、見えた?」

『ああ、見た』

「グルル……」

俺たちに見間違いでなければ、それは大地の上を蠢く、無数の魔獣の姿であった。ゴブリンやウルフの群れとか、そんなレベルではない。

見える限り、荒野を埋め尽くす様に、凄まじい数の魔獣がその歩みを進めていたのだ。向かうのは南。つまり、シュワルツカッツェへと向かっている。

『もっと近づけ、確かめるぞ!』

「オン!」

「あれは、何?」

『分からん! だが、尋常な事態じゃないぞ!』

5分後。

全速力で駆けたウルシは、件の魔獣の群れの上空へと到達していた。この距離ならば、明かりなどなくても分かる。

無数の気配を感じられた。最早、群れなどという規模ではない。軍勢だ。万を優に超える魔獣の軍勢が、歩調を合わせて南へ向かって進撃していた。

これは、明らかに何者かに統制されている。どこまで支配が及んでいるかは分からないが、少なくともこれだけの数の魔獣を、一切声も上げることないように黙らせ、整然と行進させるだけの影響力はあるようだ。

「どうする?」

『この群れを俺たちだけで止めるのは厳しいぞ』

「でも、村の皆を戦わせても無理」

『それは分かっている。これは軍隊が出動するレベルだ』

「ん」

『だから、村に戻ってまずは警告だ。黒猫族たちを避難させないと!』

「わかった。それで、今はどうする? とりあえず、何発かお見舞いしとく?」

『……いや、やめておこう。数が多すぎて、個々の力がほとんど探れない。もしかしたら、俺たちでも勝てないような凶悪な魔獣が混じっている可能性だってある』

そんな奴らに一斉に向かってこられたら、逃げるしかできないからな。村まで追ってこられたりしたら、最悪の事態だ。

黒猫族たちの避難が完了するまで、下手に刺激しない方がいい。フランは残念そうだけどね。

「わかった」

『ウルシ、全速力で村に戻れ!』

(オン)

「急ぐ!」

(オンオン!)

そうして村に戻ったフランは、そのまま村長の家に急いだ。ウルシはとにかく遠吠えしまくる。

ドンドンドンドンドン!

「村長! 起きて!」

「ひ、姫様ですか? い、いかがなされました?」

すでにウルシの咆哮で起きていたらしく、すぐに眠い目をこすりながら、村長が家から出て来た。

「緊急事態」

「は、はい。一体何が……」

「魔物の群れがこの村に向かってる」

「ええ? ひ、姫様でもどうにもならない規模なのですか?」

「ん。北の荒野を埋め尽くしてる。軍隊が必要」

「な、なんと! そのような……。す、すぐに兵士の方々を起こしてまいります!」

「避難の準備も今すぐ進めて」

「分かりました!」

黒猫族は、フランの言葉を全く疑わないから楽でいいね。これが他の町だったら、なかなか信じては貰えないだろう。

ウルシの声に起こされた黒猫族たちも、少しずつ村長の家の前に集まり出した。

「皆の者! 姫様が魔獣の群れを発見した。その数は、北の平野を埋め尽くす程だそうだ!」

「ええ?」

「そ、そんな……」

各所から悲鳴が上がるが、村長が一喝する。

「落ち着け! 今すぐにやってくるわけではない! まずは手分けして村の者たちを叩き起こせ! そして、避難の準備だ!」

「わ、わかりました!」

「すぐに!」

「儂らは兵士さんたちのところに行く!」

黒猫族たちの手際は中々に速かった。兵士の詰め所に行くまでに話を聞いたが、黒猫族はとにかく逃げることに慣れていた。

ここに落ち着くまでは各地を放浪し、時には魔獣や盗賊から逃げ続けてきたのだ。村を作った後も、年に1回以上は避難訓練を欠かさず行ってきたらしい。

「ですが、今回はどうなるか……」

避難すると言っても、近くの村へは逃げられない。壁の規模もこの村と変わらないし、万を超える魔獣の軍勢を防げるはずもなかった。

「せめて、グリンゴートまでは逃げないといけません」

逃げる村人と魔獣たちであれば、明らかに魔獣の方が速い。出来るだけ早く出発して時を稼いだとしても、どれだけ逃げ続けることができるか分からなかった。

「まあ、まずは各方面への報告ですな。この周辺の村々や、軍隊のいるグリンゴートへも早馬を飛ばさなくてはなりますまい」

「ん」

ここからは時間との勝負であった。