作品タイトル不明
291 剣が剣を作る
トンテンカン! トンテンカン!
トントン。
トンテンカン! トンテンカン!
トントン。
俺が念動で振るう槌だけが響いていた家の中に、何か違う音が混じった。
トントントン。
おっと、誰かが来たらしい。ドアをノックしてる。
『フラン』
「ん」
フランの目がもう覚めてて良かった。フランは超寝起きが悪いからな。寝ぼけた状態で応対したら、今まで槌の音がしていたのに、フランが寝てたって事になってしまう。寝ながら鍛冶仕事をしてなければ説明がつかないのだ。
「誰?」
「姫様、おはようございます!」
ドアの前で深々と腰を折っているのは村長だった。その手にはパンなどが入った籠を持っている。わざわざ持ってきてくれたらしい。
「こちらご朝食です」
「ありがと」
「いえいえ、一晩中鍛冶をしておられたようですが、大丈夫ですか?」
やべ、音がデカかったか?
「うるさかった? ごめん」
「そんな! むしろ我らのために徹夜してくださり、村民一同感激しております!」
その後、村長と今日の予定を軽く話した。俺たちは鍛冶の続き。村の人々は魔術の訓練と剣の修行だ。一部の老人たちは、装備の掃除をすると言う。
「別に、魔術も剣も強制じゃない」
「はい、自由参加だと言っておりますので。ですが、みな自分で参加したがっているのですよ」
やはり、魔術と言う特殊な力を自分が使えるようになるかもしれないという期待は、全員のモチベーションを上げてくれているらしい。
もしかしたら思ったよりも早く、魔術を使える黒猫族が現れるかもな。
「では、何かあればお呼びください」
「ん」
村長が朝食を置いて去った後、俺たちは本格的に鍛冶に取り掛かった。
俺は徹夜で作っておいたインゴットで剣を打つ。フランは鎧や盾の補修作業だ。
『スキルがあれば知識も得られるって言うのが、この世界最大の利点だよな』
鍛冶について何の経験もなかった俺でも、どうすれば剣を打つことができるか分かる。ただ、こっちの世界で主な方法は鋳造であった。型に金属を流し込み、場合によっては最後だけハンマーで形を整えるのだ。
うろ覚えだが、日本刀は鍛造、西洋剣は鋳造と言うのは実は間違いらしい。ただ、製造にかける手間や、素材の違いから日本刀の方がより鍛造を積極的に用いていると言うのが正解なんじゃなかろうか? まあ、地球の鍛冶の知識がある訳じゃないから、本当かどうかは分からんけど。
ただ、こちらの世界は魔道具と魔法金属を組み合わせることで、容易に鋳造で日本刀並みに頑強な剣が作れてしまうのは確かだ。
金属が魔力を帯びていて元々頑強な上、槌で打つ際や、魔力の籠った炎で熱する際に魔力を込めて強度を増せるので、わざわざ鍛造する必要がないらしい。
もちろん、一点物の高級武器であれば最初から最後まで鍛造で造られているが、少なくとも大量生産品に関しては鋳造が主流だった。
『とりあえず鋳造で数を揃えよう』
並列思考と念動を併用することで、鋳造、槌、研ぎを同時に行い、普通の剣を大量生産していく。だが、これだけ流れ作業で作っていても、鍛冶スキルレベル10のおかげでそれなりに良い品質の物が作れるのだ。
まあ、俺には及ばないけどね!
『よし、ちょうど50本だし、このくらいでいいか』
無傷だった物と合わせれば、80本くらいはあるだろう。初心者である黒猫族たちが使うには、この程度が使いやすいはずだ。
『さて、ちょっと試してみるか』
数本分残してあるインゴットは実験用だ。もちろん、強い武器が出来れば黒猫族に進呈するよ?
『まずは全鍛造の剣を作ってみようか』
鍛冶スキルのおかげで、俺には鍛造の知識もちゃんとインプットされている。その知識に従って、熱して真っ赤になったインゴットを槌で叩きながら整形していく。おり返しては叩くを繰り返し、俺は1本の剣を作り上げたのだった。不思議と、叩くのを止めるタイミングが分かる。生産スキル万能過ぎだな。
出来上がった剣の品質は、悪くはないけど凄くもない。そんな出来だ。そもそも、使った金属があまり上等の物じゃないし、仕方ないのかもしれないが。先程の鋳造品が鉄の剣という名前だったのに対して、こちらは低品質鋼の剣という名前だった。
今の素材とスキルだと、この程度が限界だろう。ただ、次からはこれに多少の工夫を施してみたいと思う。
まず、鍛造の際に魔力を込めまくってみる。素材的に魔力を多く含有できない素材ではあるが、限界まで込めれば多少はマシになるかもしれない。あと、出汁を取るために取っておいた魔獣の骨を灰にして、金属に混ぜ込んである。雑魚とは言え魔獣の素材だ。この骨自体が微量に魔力を含んでおり、魔力含有量の上昇が期待できる。
まあ、思い付きでやっただけだから、本当に成功するかどうかは分からんけど。
『お? いい感じなんじゃないか?』
先程よりも時間はかかったが、何とか剣が打ちあがった。素材に何か変化が起きたのか、槌がダメになって驚いたよ。
出来上がったのは、低品質魔鋼の剣という物だ。低品質の冠は取れなかったが、魔鋼という物を造り出すことに成功したぞ。確かに微量の魔力が感じられる。魔力伝導率も、FからF+に上がっている。これなら幽体系の敵に攻撃が通るだろう。まあ、何百回斬ればいいかは分からんが。
名称:鉄の剣
攻撃力:88 保有魔力:0 耐久値:300
魔力伝導率・F-
スキル:なし
名称:低品質鋼の剣
攻撃力:114 保有魔力:1 耐久値:380
魔力伝導率・F
スキル:なし
名称:低品質魔鋼の剣
攻撃力:124 保有魔力:10 耐久値:390
魔力伝導率・F+
スキル:なし
こんな感じである。とりあえず残りのインゴットは魔鋼の剣にしてしまおう。あ、因みにガルス爺さんが打った剣はこんな感じだった。
名称:上質の鋼のロングソード
攻撃力:398 保有魔力:5 耐久値:600
魔力伝導率・F
スキル:なし
ガルス爺さんの凄さが改めて分かったな。そんなことを考えていたら、フランがトコトコと近寄って来た。切なそうな顔でお腹を押さえている。
「師匠」
『フラン、どうした?』
「お腹減った」
「オン……」
『おっと、もうそんな時間か』
思いの外、時間が経っていたな。いつもの昼食の時間をかなり過ぎていた。
『すまんすまん、今用意するから』
「お願い」
昼食は用意されることはない。この村は2食が基本なのだ。王都なんかは3食だったんだけどね。そこからも、この村の貧しさが分かる。
ガルス爺さんの件が終わったら、またこの村に来よう。その時は種や苗をたくさん持って。
『ほら、お詫びにカレー出すから』
「ほんと?」
「オン?」
『今日は好きなだけ食っていいぞ』
「おお、天国」
『大げさな』
「カレー天国。それは楽園の名前」
フランが嬉しすぎて詩的な言葉を! まあ、これで機嫌を直してくれるのであれば安いものだが。ただ、カレーが大分減ってきてるんだよね。事あるごとに大盛で食べまくってるからな。カレーを切らしたりしたらフランの機嫌がどうなるか分からない。
「うまうま」
「オフ!」
何より、好物を食べられないなんてフランが可哀想なのだ。幸い、ここなら人目につかないし、調理場もある。残りの時間はひたすらカレー作りかな。